”1本まるごと”の次のステップ。新ブランド「木山もの / somamono」の開発秘話。
東京チェンソーズは8月、プロダクト製品の新ブランド「木山もの」(somamono)をリリースします。
スツール、テーブル、トレーの3アイテムからなる「木山もの」は、開発にプロダクトデザイナーの佐藤界さん(FULLSWING)を迎え、1年半の時間をかけ、コンセプトづくりから一緒に進めてきたものです。
今回は佐藤さんを始め、ブランド開発のプロジェクトをリードした弊社・販売事業部の高橋和馬、プロダクト製作を担当した工房長の関谷駿の3人に、改めて「木山もの」に込めた想いや開発にまつわるエピソードを聞きました。
林業に縛られず、林業にこだわったブランド
「木山もの」と書いて「そまもの」と読むブランド名。
”そま”とは、人が木を植え、木材を生産する山・森林を指す言葉で、漢字では「杣」。林業全般に関わり深い言葉で、山仕事をする人を「杣人」(そまうど)、杣から出してきた木材を「杣木」(そまぎ)と呼ぶなどして使われています。
まずは気になる、そのブランド名について話を始めました。
ーー「木山もの」という名前は、かなり林業にこだわったものですよね?
高橋:東京チェンソーズでは「林業に縛られず、同時に林業に徹底的にこだわる」という言葉をよく使っています。
林業にも昔からの伝統、やり方があったりしますが、それに縛られることなく、林業を自由に捉えていこうというものです。
ブランド名はかなり悩みましたが、”林業会社である東京チェンソーズ”らしいプロダクトにすることを考えたとき、「杣」という言葉が、”らしさ”につながるんじゃないかと思いました。
ーー今回はそれをあえて「木」と「山」に分けてますが、どのような考えからでしょう?
高橋:「木」と「山」を分けたのは、1つ1つのことを捉え直したいと考えたからです。
森の中に生えている 木1本1本、その木の持つストーリーを1つ1つ細やかに見ていくブランドにしたい。プロダクトを通して、そういうことをしっかり伝えられるブランドにしたいとの想いからです。
ーー木の持つストーリーとは?
高橋:木にもそれぞれに個性があり、生きてきた痕跡が多数あります。枝を支えるために筋肉質になった根本の部分、光を求めて様々な方向に腕を伸ばす枝、自分を支えるために地際で四方に張り出している根張り。語るには時間が足りないですが、よく観察すると本当に1本1本に違いがあって面白いんですよ。
山の素材を自由に扱える会社に向かって
ーー東京チェンソーズとして新しいブランドを作る必要があったのでしょうか?
高橋:これまで東京チェンソーズは根っこや枝など山にある面白い素材を提供できる素材提供者として見られていました。それ自体悪いことではないですが、僕はちょっと「もったいないな」と感じていたんです。
山にある素材は有機的な形状のものが本当に多いですが、工房長の関谷はそれをフリーハンドで加工していく技術を持っています。その技術を伸ばしていけば、より東京チェンソーズらしい商品に辿り着けると思うんです。
いつかは「山の素材を日本で最も自由に扱える会社(工房)」と認識してもらえるようになりたいですね。
ーーこれまでの東京チェンソーズの商品とはどんなところ違うのでしょう?
高橋:これまでは僕自身もそうですが、”1本まるごと”の、ある種、呪縛みたいなものがあったと思うんです。
綺麗に見える商品、かっちり形が作られている商品を「”1本まるごと”ではない」からわざわざ僕たちが作る必要はないと思っていました。
でも、佐藤さんたちと仕事を進める中で、そうではないなと考え方が変わっていきました。
”1本まるごと”とは、1本の木のうち、丸太として出荷できない”根っこ”や枝、曲がり部分などに付加価値を付けて”森のヘンテコ素材”として販売、結果として木1本当たりの価値を最大化する取り組みです。根っこや枝は内装会社や設計事務所、空間デザイナーの手を経て、街の商業施設、オフィスなどで個性的な什器等に形を変えて活用されています。
呪縛というのは、ある意味、この考え方が浸透しすぎた結果かもしれません。
”山のもの”、”街のもの”の2タイプを作る
佐藤さんへは”1本まるごと”をベースに、山の素材を活かしたブランドを作りたいと依頼しました。
ーーそれまで経験していなかった曲がった枝など、有機的な形状の素材を使ったプロダクト「木山もの」。佐藤さんはその依頼を受けて、どう感じられたのでしょうか?
佐藤:以前、スギやヒノキといった多摩産材を使用したプロダクトのデザインをしたことがありました。が、それは製材を依頼して規格化した材料を使用したものでした。
今回はそれよりもっと奥に踏み込んで山や林業の現状、チェンソーズという林業会社の取り組みなど、山のこと、林業のことを理解できないと前には進めないと思いました。
ーー1年以上かけての開発となりましたが、どんなことを行なってきたのでしょうか?
佐藤:まず初めにチェンソーズのスタッフに集まってもらってヒアリングしました。そこでみなさんの想いを聞き、それをどういう形にできるのか、どういうものがチェンソーズらしいのかを考えたのが始まりです。
高橋:そのときどんな話が出たか覚えていますか?
佐藤:「木そのものの形が好きです」や「一点ものの個性が好き」、「節が好き」など、みなさんそれぞれ熱い想いがありました。関谷さんは 「フリーハンドのものづくりが得意です」と話していました。
工房もあって、技術もあって、人もいて、素材がある。それなら何でもできそうだなと楽しみでした。
ーーこれまで以上に山に入り込もうと思ったそうですが、どのようなアプローチをされたんでしょう?
佐藤:最初の半年ぐらいはフィールドワークばかりで、ものづくりについては何もやってなかったです。林業の現場を見たり、檜原村を回ったりでインプットを続けていました。
またスタッフ数人には個人的にどんなことを考えているか、どんなことをやりたいかなどを少し深掘りして聞いてみたりしました。
その中で、関谷さんが個人的に集めている素材を見せてもらったりしました。
関谷:今まで加工してきた中で面白いと思ったヒノキの根張り(幹の根に近い部分)や根っこなど珍しい部位を実験的にいろいろな角度で切ったものを見てもらったりしてました。
高橋:バックボーンとしての林業や、林業会社であるということをすごく大切に考えてもらえたと思います。
あとは、とにかく1回手を動かしてみるみたいなことをやりました。何が形になるか分からないですけど、いろんなことを試してやってみようと。
ーーいくつかの試行錯誤を経たのち、佐藤さんは2タイプからなる製品づくりを提案しました。どんな意図があったのでしょう?
佐藤:有機的な素材の個性を活かしたフォレストタイプと、工房の技術を活かし加工を施したタウンタイプみたいな感じで、2つのタイプを作ったらどうかという話をしたんです。
どちらも素材を最大限の活かすものなので、1本まるごとのコンセプトにつながると思いました。
また、これまでのチェンソーズを知っていて応援してくれている方に加えて、違うアプローチもできるので、そうなるとブランドとして伝えられることの幅が広がるのではと考えました。
フォレストタイプが見せる有機物(生き物)としての面白さ、力強さ、タウンタイプが見せる素材(マテリアル)の美しさ。
山と街、この両タイプを同時にリリースすることで、両者の差異を一層際立たせ、魅力を表しやすくできると考えたのです。
関谷:”山のもの、街のもの”の2タイプをつくることで、山側のものがもう少し伝えやすくなる、自分たちが考えていることがうまく表現できるようになるんじゃないか、という佐藤さんのお話を聞いてそれは本当にやってみたいなと単純に思いました。
高橋:佐藤さんからその話を受けたとき、すごく面白いなと感じました。
それまでのスタイルを継承して、有機的な素材の形状を活かすだけのものづくりをすることももちろんできたとは思うんですけど、 その両輪があるからこそ考え方がより明確になって、伝えられるようになるんだと思いました。
枝スツールの構造に苦労
ーー「木山もの」はこれまで工房で作ったことがないくらいの技術力が必要なものとなっていました。加工する中で苦労したことも多くあったと思います。いかがでしょう?
関谷:枝で構造を組むということに最初は本当に苦戦しました。もう1本1本、同じ長さで切って同じように加工して組んでも、ちゃんと合わないんです。
佐藤:中心がないですからね。家具作りは材料の中心を取って 安定した構造を作らないといけないんですが、それが取りづらいんです。
同じ長さの枝で押し込もうとすると、どっちかが足りなかったり。
関谷:最初全然分からなくて、思いついたことをどんどん試してました。
これがちゃんと自分の実になったと思えたのは、この1ヶ月ぐらいです。
どこを基準に切って、どういう順番で作業すればきっちり決まるか、この1年以上かけてやっと分かりました。
この期間は新しい挑戦をすることで、個人的にはめちゃくちゃ吸収して成長した感じです。
枝で構造を組むこと以外にも接着や強度の持たせ方、曲がりの方向、座面に使用するペーパーコードの編み方など苦労の種は尽きず、数多くの試行を繰り返し、ほぼ完成形になったのが昨年12月の下旬。
それからも細かな調整を重ね、4月になってようやくものになったといいます。
自然を愛でる
ーー山と街のつながりを常に意識していると思いますが、「木山もの」は街の暮らしの中でどういう存在になってほしいですか?
高橋:今まで僕たちの商品を買ってくれるお客さんは、木のストーリーや、綺麗に整えられてしまったがために見えなくなったもの、例えば丸太のワギリに見える枝打ちの痕跡や、年輪の中心から伸びる大きな節、歪みのある木の形状などに感動してくれたりしました。
中には鍋敷を購入したのに、「愛おしくて使えずに毎日触ったり眺めたりしてます!」という方もいます。
そういう話を聞いて、やはり生活の中で木を愛でるというか、そういう”時間”が提供できるようになったら嬉しいなと思いました。
愛でるという視点で考えたとき、サイズもポイントになるそうです。例えば枝も、短いより長い方がそのダイナミックな自然の動きを感じることができ、その魅力をより強く見てもらうことができるといいます。
高橋:発売を前にいろんな人に見ていただきましたが、やはり面白がってもらうことが多かったです。
ボリュームがあることで、素材の魅力がより伝えられていると実感しました。
佐藤:大きなサイズのものは、暮らしの中心になれるのも良いですよね。
ーープロダクトデザイナーとしてはどんなところを見てほしいですか?
佐藤:それぞれに個性があり、林業会社らしい素材を使ったアイテムになったと思います。「木のものは温かみがあって良いね」とはよく聞いたりしますが、加工され綺麗な木製品以上に樹皮や枝から木を感じ、さらには山そのものを想像してもらえたらいいですね。
高橋:枝の凹凸を見ていると、木材としての美しさはやはりありますが、どちらかというと生きもの的な感じがしてきます。
ーー製作担当者から見ていかがでしょう?
関谷:飽きが来ないというか、長い間使って、知れば知るほど良さがわかって、 熟成するじゃないですが、そういう感覚があります。
佐藤:自然そのものの素材が良い雰囲気をまとってくれてますね。
自分なりの価値を見つけて
ーー1年半の期間をかけていよいよ発売となる「木山もの」。このブランドを通して、手に取った人に何を感じてほしいと思っているのでしょうか?
高橋:日々の生活の中では、通りすぎてしまうものが多いなと感じてます。例えば自然の景色を見たときも、その全体の雰囲気を見て、綺麗だなって思って終わることが多いじゃないですか。
細かいところまではなかなか目がいかない。木々を1本ずつしっかり見ることはないですよね。
普段の時間感覚の中ではそれが普通なんだと思いますが、だからこそ、「木山もの」を通して、自然に木を愛でる”時間”がつくられたら良いなと思います。
ーー木を愛でる時間をつくる?
高橋:はい。その時間ができるからこそ、ものの見方が少し変わってくるんじゃないかと思います。立っている木の枝や、節、根っことか色んなところが気になってしまったり。僕が実際にそうでした(笑)
そうすると価値観も変わってきそうじゃないですか?
今回のプロダクトが皆さんにどう響くのかまだ分かりませんが、きっと一人一人好きな部分だったり、美しいと思うポイントは違うはずです。
“愛でる時間”が”木や森を見る視点”につながり、自分なりの価値観が見つかる。その中で森との新たな関係に発展してくれたらなと思います。
佐藤:今までは林業や森の課題感からチェンソーズを知り、その製品にたどり着くという流れが多かったのかと思いますが、「木山もの」からチェンソーズを知り、林業や森の問題にたどり着く、これまでの逆パターンがつくれたらいいですね。
木をゆっくり時間をかけて見つめ、触れてみるといろんなことに気が付きます。
枝の切り口の色や、節の大きさ、年輪の模様など、どうしてみんな違うのだろう、どうやってできたのだろう。
その疑問を自分で調べたり、詳しい人に聞いたりして答えが分かったとき、世界が広がる感じがします。
緑一色に見えていた山が、樹種を知ることで、”ただの緑”ではなかったことを知るように。
木をゆっくり愛でる時間をつくるーー「木山もの」がそのきっかけになるといいです。