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南と華堂(東京都日野市)

 2020年に東京都日野市の住宅街にオープンした「なん華堂かどう」の店主、井上優子いのうえゆうこさんにお話をうかがいました。

 お店について教えてください。

 浅川のほとりに開店して、もうすぐ4年になります。児童書の古書と新刊本の販売のほか、「棚貸し」もやっています。これは、一棚単位で本棚を貸し出し、借りた人が自分の好きな本を売る、というものです。そのほか定期的に絵本の読書会や、イベントを行っています。

 お店を開かれた経緯を教えてください。

 私が子どもの本のすばらしさに目覚めたのは、今は成人したふたりの子どもたちが幼かったころです。当時、子どもたちを通わせていた音楽教室では、幼少期からいいものにふれさせていて、音楽だけでなく、美しい絵本や、ギリシャ神話などのお話、絵画などと出合わせていました。私は子どものつきそいとしておけいこを見ていたのですが、そのときに出合った絵本『ころころころ』(福音館書店)や『あおくんときいろちゃん』(至光社)に深い感銘を受けたのです。それですっかり子どもの本の世界に魅了されて、子どもたちの学校や、地域の図書館で読み聞かせのボランティアをするようになりました。
 それでは飽き足らなくなり、開店の数年前、吉祥寺の棚貸し専門の書店「ブックマンション」で、棚をひとつ借りて、自分の好きな本を販売してみました。自分が本当に好きな本をお客さまにおすすめして買っていただく、という体験がとても面白くて、自分でもお店を開きたいと思うようになりました。それで、家の近所で物件を探していたら、たまたま母の介護ヘルパーさんが、自宅の一階が空いているからと、部屋を貸してくださったのです。

 開店は、介護の真っ最中だったそうですね。

 はい、母の介護をしながらお店を開くなんて無謀だと、まわりからは言われました。でも、介護って、いつまで続くかわからないので、精神的に行き詰まるときがあるんです。介護が始まって数年経ったとき、「母の介護をしているから自分は何もできない、なんて考えるのはいやだな」と思ったんです。それで、介護をしながら、自分のやりたいことにチャレンジすることにしました。

 実際にやってみて、いかがでしたか?

 もちろん大変ではあったんですが、本当にやってよかったと思っています。このあたりは住宅街で、お店が少ないうえに、開店したのはコロナ禍で遠出ができない時期でした。そのせいか、お店を開いたら、地域の方がたくさんお越しになり、「こんなお店ができたんだね」って喜んでくださったんです。絵本が大好きという人たちや、絵本作家さん、出版社の方と出会うこともできました。また、地元には異業種の色々な知り合いができ、世界が広がりましたね。

店主の井上優子さん

 井上さんの好きな本は?

 子どものころは、『ぐるんぱのようちえん』『あなたのいえ わたしのいえ』(ともに福音館書店)、『ABCブック』(世界出版社)が大好きでした。実はずっと忘れていたのですが、子どもたちに読み聞かせをしているときに、「この本、すごく好きだった!」と思い出したのです。どれも本当に美しく、すばらしい作品なので、この絵本を選んで読んでくれた家族に、感謝の気持ちがわいてきます。私がよくお客さまにおすすめするのは、ボブ・ディランの歌を絵本にした『はじまりの日』(岩崎書店)です。また、色の美しい絵本にとても惹かれるので、植田真うえだまことさんの『みなとまちから』(佼成出版社)も好きです。

 どんなお客さまがいらっしゃいますか。

 開店当初は、絵本好きのおとなの方が多かったのですが、このごろは、家族連れでいらっしゃるお客さまも増えてきました。お母さんだけでなくお父さんも。また、若いご夫婦が「これから生まれる赤ちゃんのために」と、赤ちゃん絵本を探しにいらっしゃることも。お子さんのためにご両親で来てくださる姿に、とても豊かな気持ちになります。
 うちは、大きな書店のような品揃えはできないのですが、ゆっくり本を選んでいただける空間です。なので、ご家族で気軽に遊びにくるような気持ちで来ていただけると、地元の日野市にお店を開いた甲斐があるなあと感じます。

 お祭りに出店することもあるとか?

 開店当初から、地域のマルシェやイベントからお声がかかると出店していましたが、あるとき、お祭り会場での出店のお誘いがありました。「お祭りで本を買う人なんているのかな?」と思ったのですが、実際にやってみると、けっこうお客さまが本を手に取って買ってくださるんですよ。

 徳間書店の本はいかがでしょう?

 やっぱり『マップス 新・世界図絵』は面白いですね! 阿部結あべゆいさんの『まよなかのかいじゅう』も好きです。また、この「子どもの本だより」を読むのも楽しみにしているので、今回取り上げていただけて、とてもうれしいです。

『マップス』と『マップス・プラス』。特製箱入りに!
『まよなかのかいじゅう』阿部 結

 今後の抱負をお聞かせください。

 感性が育つ幼児期の大切なときに、親子で絵本にふれないまま過ごしてしまうのは、とってももったいないなあと思うんです。とくに「赤ちゃん絵本」は、お母さんになったばかりで、赤ちゃんの世話にとまどっている人にとって、とても心強いもの。なので、「お散歩するように絵本を読もう!」と、親御さんたちにおすすめしています。これからは、もっともっと、子どもたちに本を手渡していきたいです。

 ありがとうございました!

お店の情報
なん華堂かどう
〒191-0041
東京都日野市南平6-17-10
金・土・日:12:00〜17:00
https://peraichi.com/landing_pages/view/nantokadou
京王線南平駅より徒歩5分

(徳間書店児童書編集部「子どもの本だより」2024年9月/10月号より)

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