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精神病院のこと(導入編にかえて)

僕は20代と30代のころに合計3回、精神科に入院したことがある

そこで出会った人たちの話をしてみたいと思う

でもその前に、そもそもの前提として精神科の病院について説明したほうがいいんじゃないかと思うんだよね
ちょっと導入編みたいな感じで精神科について説明してみたいと思う

世の中的には精神科というものを受診したことがない人の方が多いだろうし、さらに入院をした人となると、割合としてはかなり低いものになると思うから

今はいろいろと言葉遣いが難しい時代だけれど、ここではとりあえず精神科の病院のことを「精神病院」ということにします
今はあまり精神病院っていう言い方はしないような気がするのだけれど(どうしてだろう?)、入院していた僕たちは普通に精神病院と呼んでいたから、そのほうが自然な感じがするので

ここで書くのはあくまでも僕が入院した病院で僕が体験したことであって、時代も違うし病院や病状が違えば全然話が違うということはあらかじめご理解いただければと思います
僕は医療関係者ではなくただの精神病患者なので、入院患者から見た精神病院という話です

精神病院についてあまりご存じない人にとっては精神病院はなんとなく恐ろしいところのように感じるかもしれない
もし自分がうつっぽくなったら心療内科とかメンタルクリニックなんかに行ったらいいのかな、なんて思う人もいるかもしれない
でもはっきり言ってしまえば、精神科も心療内科もクリニックもほとんど違いなんてない
要するに精神に疾患を抱えた人がお世話になる病院だ
強いて言えば、入院施設のある精神病院は「ガチ」だ、というくらいのことだ

街中にあるクリニックやら心療内科やらは基本的に入院施設がない
診療所みたいなものだ
その点、入院施設のある精神病院は立地からして気合が違う
たいてい山の中にあるかものすごく田舎にある
まじめな話をすれば、精神的な疾患を患って入院が必要だという人は社会生活からいったん切り離して療養することが必要だから、街中ではなくて社会から物理的に離れたところで心身を休めるほうがいいということになるし、実際僕も入院していて、病院の周りをお散歩して森を眺めたり鳥の声を聴いたりしてとても心が癒されたという経験もあるから、そういう意味合いはあるんだとは思うんだよね
でも、やっぱりどちらかといえば精神病院って自分の家のそばにあるとあまり気持ちの良い施設ではないんじゃないかとは思うから、きっそそういう意味もあるんじゃないかとは思うよね
とにかく、辺鄙なところにあることが多い

別のところでも書いたのだけれど、僕の場合は3回とも自殺未遂で緊急搬送されてそのまま措置入院(自傷の恐れなんかがある場合に強制的に入院させる制度)するというダイナミックな入院スタイルをとっているので、一般的な方にとってはあまり参考にはならないけれども、そこまでとはいかずとも、社会生活を送りながら療養していくことが難しい人たちが入院することになるんですね

一般に、精神病院に入院するときは急性期病棟というところに入院することになる
ここにいられるのは普通は3か月くらい
たいていの場合、閉鎖病棟になっている
閉鎖病棟というのは、病棟の出入り口が常に施錠されていて看護師さんなんかが許可をしないと外に出られないという病棟だ
あまり問題のない状態の安定した人だと1時間くらいのお散歩なんかが許されたり、退院が近いと外泊をしてみるなんてことも許されたりする
閉鎖病棟というとなんだかおどろおどろしいけれど、入ってみると別に大したことないんだよね
意外と普通
病室があって、広間みたいなところがあって、テレビを見ていたりお茶を飲んでいたり新聞を読んでいたりする

ただし、僕のようにダイナミックに入院をすると、皆さんがいる病棟には入れてもらえなくて、保護室(僕の入院していた病院ではそう呼ばれていた)というところに入れられることになる
この保護室というのはなかなか迫力のある場所で、もしかすると一般の人が想像する精神科病院の入院施設というのはこういうものかもしれないなという気がする

そもそものところ自殺企図みたいなことをするようなやんちゃで妙にアクティブな患者を受け入れるわけだから、保護室は自殺をさせないということを第一に考えられている
イメージとしては刑務所の独居房みたいなものを想像するといいんじゃないかな
独居房に入ったことがある人もとても少ないと思うからうまく想像できるかどうかわからないけれど(僕も入ったことはないな)
衣類は、ベルトはもちろん紐みたいなものはすべて没収されて日曜日のお父さんみたいなしょうもない格好をさせられる
そして部屋にはドアノブがない
内側から開けられないようにということもあるのだろうけれど、衣類やシーツをドアノブに引っ掛けて首を吊ることができないようにしているという話を後になって聞いた
ドアノブはもちろん、とにかく部屋の中には何かをひっかけるようなものはひとつもない
部屋の中にあるのはベッドと便器だけだ
テレビドラマの刑務所のシーンか何かで見たことないですか、部屋の隅に白い洋式便器が設置してあるの、あんな感じ
部屋の中にはマイクがついていて、大きな音がするとナース室から「どうしました?」とスピーカーを通じて声掛けをされる
時々、ぶーっと大きなおならをすると、どうしました?と尋ねられて面白かったな
僕はタバコを吸うのだけれど、タバコは食事の後にだけ許されて、保護室の中で、看護師に1本だけ煙草を渡されて、ライターで火をつけてもらって看護師が見つめる前で煙草を1本灰にすると、タバコとライターと灰皿を持って看護師がいそいそと退室していく
風呂は二日に一回だけれど、入院直後はほとんど風呂にも入れなかったな
あとはただただ、ぼーっと天井を見上げたり、窓から外を眺めたり、考え事をするくらいしかやることがない

恐らくなにかあった時に備えてということなのだろうけれど、看護師はほとんどががっちりとした体格の男性看護師だった
そしてほとんど雑談をしてくれない(きっとそういうルールになっているんじゃないかな)
僕の場合は意識のないまま入院したから、当然の疑問として「ここはどこなんだ?」と思うのだけれど、結局保護室を出るまで、病院がどこにあるのかは教えてくれなかった
窓の外にはここがどこなのかわかるようなものは何もなかった

これが保護室の概要
時々隣の保護室から大声とか暴れるような物音が聞こえてきたりする
でもたいていはみんな魂が抜けたような恐ろしく暗い顔をしている
もう自殺を試みる元気もないみたいな感じだ
不思議なもので、僕も自殺未遂をしてしまうと、その直後はなんだかどうでもよくなってあまり希死念慮(死にたいとか、消えてなくなりたいと思う気持ち)は湧いてこなかった

保護室での奇妙に間延びした時間を模範囚として問題を起こさずに過ごしていると、医師との面会で「そろそろ病棟に移ってもらおうか」みたいな話になる
釈放だ
釈放される先も閉鎖病棟なんだけどさ

保護室から閉鎖病棟に移ると、最初はほかの入院患者に警戒のまなざしを向けられるけれど、そのうち周囲の人と少しずつ口を利くようになる
入院患者は大まかに言って会話が成立するやつとしないやつに分かれる
新人が入ってくるとみんなそいつが会話が成り立つやつかどうかを見極めているんだよね
今はわからないけれど、当時は病棟の中に喫煙室があって24時間開放されていて(閉鎖病棟で病院の外で吸うことができないからじゃないかな)、喫煙室に行くとよく顔を合わせる人ができて、次第に話をするようになる
一般社会と同じだ

そんな風にして僕は精神科に入院する人々とかかわりを持つようになっていった

精神科には実に様々な人が入院していて話題に事欠かない
その中でもなぜか心に引っかかって今も忘れられない人が何人かいる

機会があったら今度はそんな人たちについて書いてみたいと思う

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