マンガ・アニメ・ゲームの価値はアップデートし続けられている。コミュニティ中心に変化していくカルチャーをひも解く一冊。『オタク経済圏創世記 - 中山淳雄』【書評】
マンガ・アニメ・ゲームと聞けば、すぐ身近にあるエンタメとして馴染み深いことでしょう。ポケモン・ドラゴンボール・ワンピースという作品名を目にすることで、具体的にマンガ・アニメ・ゲームの映像が浮かんでくる人も多いはずです。
では、
50年かけて日本で普及してきたマンガ・アニメ・ゲームは、2000年代に入ってから海外でも急速に普及し、高まった人気が2010年代に「ライブコンテンツ化」する配信やイベントといった装置によって市場として顕在化してきた。『序章』より
ライブコンテンツ化とは、いったい何なのだろうか?
日本のマンガ・アニメ・ゲームが、世界でも広く知られていることを、ぼんやり意識している人は少なくないはずです。インバウンドが活況を見せていたときの日本を思い起こせば、多くの外国人が日本の伝統的文化のみならず、サブカルチャーをも求めて日本を訪れていたことは間違いありません。
じゃあ、日本のマンガ・アニメ・ゲームは、作品を発表するだけで世界へと広まり、人気を集めることができるのでしょうか。本著のテーマのひとつである、「ライブコンテンツ化」がどうやらカギを握っていそうです。
海外に競合が存在しない状態で市場をゼロから築き上げ、それがいまグローバルでマスユーザーに受け入れられ始めている。この市場の広がり方は、日本経済にとって新しい「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の成功モデルをみせてくれるものである。そのエッセンスこそが「ライブコンテンツ化」なのである。『序章』より
カードゲーム、ゲームソフト、キャラクターグッズの展開・販売を行う企業ブシロードの執行役員でもある著者 中山淳雄さん。
「ライブコンテンツメーカー」というマンガ・アニメ・ゲームとオタクカルチャーによって築き上げられたビジネスモデルを武器として、再び他産業が日本文化を切り口にしてグローバルに市場形成する時代がくれば――と願い、本著を書かれたそうです。
再び登場する「ライブコンテンツ」というキーワード。そのキーワードをひも解くためには、「2.5次元」という概念が重要な手がかりとなります。
2.5次元というビジネスモデルがある。量産しにくい2次元の高価で作品性の高いものを経済圏の基盤としつつ、3次元の安価で機動性の高いメディア・ツール・タレントにのせてコミュニティを形成しながら、2次元と3次元をないまぜにしながらメディアミックスによって作品全体の「キャラクター経済圏」を形成していく。
『第2章:2.5次元のライブコンテンツ創世記』より
本著では、マンガ作品・イラスト連載をもとにしたメディアミックスプロジェクト「BanG Dream!」(バンドリ!)が例に挙げられています。アニメの声優が実際に楽器を弾いてバンドを組成するコンセプトの「BanG Dream!」は、ライブ・アニメ・トレーディングカードゲーム・ゲーム・音楽・商品化グッズ・その他さまざまなビジネスが展開されています。
マンガやアニメなどの2次元はもちろんのこと、声優のコンサートとしての3次元展開。単にマンガをマンガとして、アニメをアニメとして単体で消費するだけでなく、登場するキャラクターへの応援・支援はもちろんこと、参加意識や体験を通じて「思い入れ」はより強くなっていく。
著者が執行役員を務めるブシロードの当時の社長が練り上げた構想こそが、
いわば2.5次元的な消費のされ方をゴールとして、最初からそれにふさわしいコンテンツを提供できるよう、タレントやコンテンツ側を消費形態に近づけて育成するという逆転の発想である。
『第2章:2.5次元のライブコンテンツ創世記』より
そして、ライブコンテンツに欠かせないもの、それこそがコミュニティの考え方。
人々は自分と親近性のある、「質の高いプラットフォーム」に次々に乗り換える。若者はツイッターからTik Tokに乗り換え、高齢女性がフェイスブックからインスタグラムに乗り換えている。それらは自分と近い趣味・価値観コミュニティで固まろうとするオタク的価値観と同一である。
『第4章:3次元の逡巡:プラットフォームの時代からコミュニティの時代へ』より
個人的な所感になってしまいますが、2020年4月、3億5千万以上もの登録ユーザー数を誇るとされるマルチプレイゲーム『フォートナイト』にて行われた人気ラッパー、トラヴィス・スコットのバーチャルコンサート『Astronomical』。10分に満たないながら「歴史的転換点」として喝采を浴びています。
そのイベントを通じて、1日で50億円近くもの売上が発生したのではと言われるほど、衝撃のイベントだったことは間違いありません。
そして、2020年8月7日から8日にかけて同ゲーム内で開催された、日本人初となる米津玄師によるフォートナイトでのバーチャルライブ。そこはもはやゲーム空間ではなく、コミュニティが示し合わせて集う待ち合わせの場所。友人と一緒に3次元のライブに参加することと、何ら変わりのない空間が広がっていました。
もはや、3次元と2次元という垣根など微塵も感じさせないほどにシームレスな時代に突入していることを体感する瞬間でした。
本著では、「日本の文化産業がもつ物語の伝播力は、すでに『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の時代を凌駕するレベルに至っている。」と語られています。
そして、
マンガ・アニメ・ゲームがコンテンツとしてだけではなく、日本の文化浸透のための新しいメディアとして機能している。マスメディアではなく、個々のユーザーとのチャネルになるコミュニケーションメディアである。
と述べられているように、オタクカルチャーによって築き上げられたビジネスモデルが世界を魅了し尽くす日も、そう遠い未来ではないことを予感させてくれます。
すぐ身近にあるエンタメとして馴染み深いマンガ・アニメ・ゲームを経済という側面から捉えたときに、その存在感の大きさに、きっと驚愕することでしょう。
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