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等価換算しながら考える。向精神薬が多剤処方になりがちな理由2024.9.11

向精神薬の減薬についてここ10年くらい取材をしてきた。このため、多剤処方になっているらしい処方箋も随分たくさん見せてもらった。

処方箋の内容は医薬品処方ルール上の制約などにより、大抵の薬が決められた最大用量に収まっているにも関わらず、患者さんはずっと具合が悪く、おそらくその原因の1つが向精神薬の多剤処方である例が非常に多いと感じている。

時々、友人の友人などから相談を受けることもあるので、「私は素人ですが」と伝えた上で、試しにこの向精神薬の等価換算というのをやって状況を可視化してみることがある。

病歴の体験を聞きながら、一緒にお薬手帳などの処方を見せてもらうと、数年間の混乱の中に、それぞれ規定量内ではあるがさまざまな種類の薬が試されたり、交換されたりした結果、今の処方になっていることが見えてくる。

そして多くの場合、いい医師を求めて、転院を繰り返しているようなので、この背後には、患者さんのドクターショッピングという行為も影響しているかもしれないと思う。

私の家族としての経験でも、本当に”変な医者”というのはいるけれど、そうはいっても各医師が多剤処方の大好きなトンデモ医師ではないだろう。

特に最近は、保険診療上も心情的にも多剤処方に積極的ではない人が増えているはずだ。

しかしちょっと医療現場について想像力を働かせてみよう。

別の病院から転院してきた患者の多くは、前医と良い別れ方をせずに医師の目の前にあらわれているはずだ。

前の医師からの紹介状だって形式的なもので、患者が治療に満足しなかったからこそ転院するのだとしたら、形式的に丁寧であってもそんなに好意的なものではないだろう。

一方転院先の医師に目を向ければ、紹介状を持ってやってきた患者が例えば「うつ状態がひどい」と訴えれば、現在されている抗うつ薬が最大量まで処方されていなくても、「別のお薬を出しましょう」となる。これはある意味人情で、その場合は変更よりは追加が選択されるのではないだろうか?

そうやって不安や不眠などを患者が口にするたびに、ちょっとずつ、規程範囲内でいろんな薬が増えていく。

転院してきた患者が前医への不満や現在の不調を訴えると、「何か今までと違うことができることを見せたい」という医師側の承認欲求みたいなものもこの背後にはあるのではないかと思う。

多分、向精神薬の多剤処方は、医療をはじめとした生活や仕事や家族間のいろんな出来事や感情などが絡まり合った結果なのだろう。それを1つずつ丁寧にほどいていく作業が減薬に必要なことで、それはなかなか難しいことなのだと思う。

だから、その一歩目として、カフェに参加したみなさんがこれまでの治療の経過を考えながら、自分の薬の今を知り可視化することが大事だと思う。
そのために等価換算の方法を知って、まず自分の手で自分の薬の強さを計算してみるって有意義ではないかと思いみんなでやってみることにした。

サバイバーと医師のゆっくり減薬ものがたり(P55)

9年前に、全ての向精神薬と鎮痛剤の断薬を果たしたNORY (46)2002年24歳の時に就職活動のつまづきからの摂食障害、うつ病、パニック障害、線維筋痛症などを次々と発症して2015年に心療内科、精神科医2名の支援のもとで2年6ヶ月かけて断薬に成功している。
NORYの服薬してた7剤の薬について等価換算をしてみた。

トリセツP08〜09

精神科で処方される約9種類の薬からNORYの薬の種類を調べると抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬の4種類が処方されていた。
抗不安薬と睡眠薬は同じベンゾ系薬剤なので
抗精神病薬、抗うつ薬、ベンゾ系薬の3種類としてみる。

ここでまず一番大事なポイントはNORYの薬の1日の最大用量に着目すること。一覧表の中から各薬の1日の最大用量を見つけ出した

トリセツP12〜13
NORYの処方された薬と処方量
種類別に分けて処方量、最大用量を入れる

それを種類ごとに一覧にしてみる。
処方量と1日の最大用量を比較すると特に超えているものはない!にも関わらずNORYはこの当時とても具合が悪く、減薬を望んでいた。
私の取材経験でも、「この程度の処方は当たり前で特に多くはない」と判断する薬剤師さんも結構いると思う。
これは9年以上前の処方ではあるが、確かに処方上のルールは守られた結果の処方なのだ。ルールで見るなら間違ってはいないが、本人は調子が悪いのだ!

トリセツP22

上記のページにあるように、 NORYの処方は全部で7剤、抗精神病薬は2種類以内の1種類、抗うつ薬は2種類以内の2種類、睡眠薬は1種類。抗不安薬は2種類。

ランドセンを抗痙攣薬とすれば、抗不安薬、睡眠薬は合わせて3剤までのルールも守っていることになる。

厚労省が決めている処方のルールとして、7種類以上の薬剤を併用した場合、診療報酬が減算される仕組みもちゃんと守られている(当時は多分この決まりはなかったと思うが)

つまり処方は医師、医療機関、健康保険組合などでチェックされているのでよほど特殊事情でない限りルール違反は起きないようだ。
しかし・・・

そこでもう少し違った方法で向精神薬の処方傾向を検討してみることになる。その1つの方法が等価換算だ。

この等価換算の基準となる薬とその容量はWHOによるポリファーマシーのガイドラインで決まっているようだ。各国の精神科ガイドライン  米国精神医学会 英国国立 医療技術評価機構なども同じ基準を使っている。
日本の代表的な学会である精神神経学会も具体的な制限や基準は出していないが、多剤処方の是正を推奨している。

これが基本の公式!単純です。

等価換算というのは、つまり基準の薬に対して処方薬がどのくらいの強さなのかを 基準薬に置き換え、もし複数ある場合は種類ごとに、その合計量を見ることで可視化する作業になる。

抗精神病薬 抗うつ薬 ベンゾ系薬の 等価換算式

抗精神病薬の基準薬はクロルプロマジンの基準値100mg
抗うつ薬の基準薬はイミプラミンで150mg
ベンゾジアゼピンの基準薬はジアゼパムで基準量は5mg

ここからNORYの服薬していた7剤についてそれぞれ等価換算を手で行っていく。



7剤の計算ができたら、それを薬の分類ごとに合計していく

NORYの服薬していた7剤についてそれぞれ計算された等価換算の値を種類ごとに合計したのが上記の表になる。

等価換算が終わったら、基準薬の1日の最大容量に着目

トリセツP12−13

再びトリセツの一覧表に戻って、今度は基準薬である3つの薬の1日の最大用量を確認していく

この下の中枢神経刺激薬と気分安定薬は、色々な種類はあるけれど、等価換算できない各々異なるタイプの薬のようです。なのでこの薬に関しては1剤ごとの一日最大用量を確認していくことになる。

各分類薬の最大用量は、規定薬の1日の最大量!

処方された薬の処方量と1日の最大量を比較した場合の表に戻ってみると特に問題なく基準値に収まっているように見える

しかし、種類ごとの合計値と、基準薬の最大用量を比較してみると、はっきり見えてくるものがある。
抗精神病薬はごくわずか、抗うつ薬はマックスに近く処方され、ベンゾに関しては2倍以上になっていることがわかる。ジアゼパムの中でも特にランドセンが量は少ないが実はとても強い!ことがわかる。
NORYno不調の原因とベンゾ系薬の多さには何か関係があったに違いない!

今回やってみたのは、向精神薬が多剤処方かどうか調べる1つの方法として、
1️⃣1日の最大用量に着目する
2️⃣等価換算を行い基準薬の最大用量と比較する
という2つのステップ。これを行うと、具体的にどの分類の薬がどのくらい多いのかが具体的に把握できる

トリセツP42−43

減薬について薬剤師さんに相談するには

自分で計算したり考えたりすることが大変な状態なら、薬剤師さんにお願いする方法もある。
私たちが思っているより薬剤師さんは減薬についても関心が高いのです。だから向精神薬の減薬にとりくむ時には薬剤師さんを味方にするのは良い方法です。薬剤師さんについては別の機会に取り上げますが、薬局にいった時に話やすそうな薬剤師さんを探しておくのがいいかもしれません。この話はまた今度🤭

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Q&A

Q向精神薬一覧の中にあるルネスタ ドラール アモバン マイスリー といった「非ベンゾ系」と呼ばれている薬は本当にベンゾではないのですか?
A 厳密にいうと下記のように違うことになっていますが、ベンゾ系薬の等価換算の中にも入っているので、もしベンゾを服薬したくないと考えている人は「非ベンゾ系」もベンゾ系と考えた方が合理的です。ただし医師に言うと面倒臭い議論💦になりそうなのでここだけの話!

ベンゾジアゼピン系薬剤
中枢ベンゾジアゼピン受容体に作用し、GABAA 系の抑制機構を増強し、催眠鎮静作用を示します。 中枢神経系でのベンゾジアゼピン受容体には 2 つのサブタイプがあり、ω1、ω2 受容体と呼ばれます。ω1 受容体は主に催眠作用に関与すると考えられており,脳内では小脳に多く分布しています。一方,ω2 受容体は抗 不安作用,筋弛緩作用に関与するとされ,脊髄に多く分布します。また,大脳皮質では,ω1、ω2 受容体がほぼ 均等に分布しています。
ベンゾジアゼピン系薬剤はこれらのω1、ω2 受容体に作用することによって、催眠、鎮静、抗不安作用を表す といわれています。

非ベンゾジアゼピン系薬剤
ベンゾジアゼピン系と同じく GABA 受容体に作用するが、ベンゾジアゼピン系との違いには GABA 受容体のベン
ゾジアゼピン結合部位のα1、α2、α3 選択性が高い点が挙げられます。それらに働くことによって、非ベンゾジ アゼピン系薬剤は催眠作用だけを示し、ベンゾジアゼピン系が有する筋弛緩作用や抗不安作用を示さないことが 知られています。

Q 睡眠薬や抗不安薬などベンゾ系の薬を頓服で処方する場合ベンゾの処方制限に関わりますか?
頓服として処方されるベンゾジアゼピン系薬については、基本的に定期的に使用する薬剤とは異なる扱いとなる場合が多いです。一時的に使用するための薬であるため、定期的な薬剤のカウントとは区別されることがあります。

ただし、頓服として処方されている薬でも、実際に頻繁に使用されている場合や、患者の薬物負荷が増加している場合には、医師の判断によって多剤併用とみなされることもあります。 、頓服薬が規定の中でどのように扱われるかは、使用頻度や医師の判断に依存する場合があります。
(上記は少し調べたあと ChatGPT に聞いた回答です、時々嘘をつきますが多分これはあっているかと)

リンク情報
『サバイバーとゆっくり減薬ものがたり』(読書日和刊)
6人の断薬体験と2名の医師、増田さやか医師と千村晃医師のインタビューNORYの詳しい減薬体験を読みたい方はこちらをどうぞ。



『一番適切な薬剤が選べる  同効薬比較ガイド』(じほう)私が持っている薬の本の中で一番役に立つ1冊、定価だとやたら高いけど中古だと30円とかでもあるみたい。

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向精神薬の等価換算を自動計算したい方はこちらをどうぞ
       ↓

クロルプロマジン換算(注射剤もあり)以下でできます↓

抗うつ剤のイミプラミン自動換算 ↓以下でできます

ベンゾのジアゼパム自動換算  ↓以下でできます










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月崎時央 編集
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