見出し画像

「変わる組織」はどこが違うのか? 44

「変わる組織」は外を観て行動する

 今回は、大企業の話です。
 もう30年以上も前の話ですが、「第三世代のR&D」(1992)という非常にインパクトのある本が出版されました。インパクトというのは、この時期を境にして欧米企業の本社研究所の多くが、解体もしくは大幅に縮小されていったからです。正確には、この本がトリガーになったのかどうかはわかりませんが、80年代後半からおこりはじめていた兆しを、著者たちが鋭敏に察知して著した本であることは間違いありません。
 当時一般的だったのは、本社研究所がそのうちヒット商品を出してくるだろうという「無干渉主義」、よく言えば「希望の戦略」でした。それに対してこの本は、研究開発も、企業・事業戦略の枠組みの中で目的志向性をもって経営しなければいけない。そのためには、CEOと研究所のトップは密接に連携しなければいけない。パートナーシップが大切だ、というものでした。
 当時私は、日本企業の本社研究部門にいたのですが、幸運なことにこの本の著者たちが取材したと思われる数社の研究開発部門を訪問して、意見交換をする機会に恵まれました。
 驚いたのは、訪問したデュポンにしろICIにしろ、本社研究所の規模が数分の一になり、研究員の何割かは自分で研究するのをやめて世界中の研究開発をウォッチしていたのです。そして何か自分たちの事業に大きなインパクトがある萌芽技術に気づけば、それを取り込み、自分たちが競争優位を失わない活動をしていたことでした。これはビジネスセンスを持った専門家にしかできない仕事です。

 その3年後、GEに転職した私は、本社研究部門のトップだったロニー・エーデルハイトと何度か話をする機会がありました。そして知ったのが、まさにGEがこの第三世代のR&Dを実行している先駆け的な企業だったということでした。
 事業部門がスポンサーになっている技術開発は継続する。その一方で、本社支出の研究予算は大幅にカットして戦略性の高い数件に集中していました。たとえば、GEは航空機のエンジンのトップ企業でしたが、出力と燃費というトレード・オフ関係にある性能を、より高いレベルで両立するようなブレークスルーが必要な技術開発です。進捗レビューには、当時のCEOだったウェルチも参加していたようです。
「自分たちで創るのか、外から買ってくるのか」というのは、CEOが下すべき戦略的な意思決定という位置づけになっていたのです(Make or Buy. That’s a strategic decision)。

 ハーバード大学ビジネススクールの教授だったヘンリー・チェスブロウは、このような動きを観て 2003年に、”Open Innovation” という本を著しました。「希望の戦略」を取っていた日本企業が、本社研究所のあり方を見直しはじめたのは、このころからでした。
 あれから20数年、GEは多くの失敗を繰り返しましたが、企業の技術開発マネジメントのあり方は、先端企業であるGAFAMなどでも継承されているように思います。
 外の動きをしっかり観て、すべてを自前で開発するのではなく、Make or Buyの意思決定を戦略的にしっかり行い、脱皮を続けていく。日本の大企業もだいぶ変わってきましたが、世界の先進企業と比べるとまだまだのような気がします。

いいなと思ったら応援しよう!