楕円形の記憶、メンチカツのコンテンツ。
以前、コロッケの形をテーマにしたことがあります。
自分にとってコロッケは、子どもの頃の実家のコロッケが俵型だったので、いまもそれがおうちコロッケらしく感じるし、小判型だとお肉屋さんとか定食屋さんとか、外のコロッケという印象があります。そんなふたつの形をつくって比べてみた、というお話です。
🍽子どもの頃のあのカタチ
それとおなじように、ごく最近になって、そういえばこんな形が多いよな…。それって自分がいつもつくる形と違うな…。そんなことに気づいたメニューがあります。
それがこれ。円形、まんまる。ぱっと見てわかるでしょうか。自分はこの形だと即答できないと思います。なぜならば、自分の中のデフォルトと形が違うから。
そう、これはメンチカツ。洋食屋さんをいくつか巡るうち、メンチって真ん丸なの多いよね、と気づいたのです。
でも、そんなメンチの形、自分にとってはごく自然に楕円形…すなわち小判型でした。自分の中にあるデフォルトの形は、コロッケが俵ならメンチは小判だったのです。
コロッケが俵型の家に育ったのに、どうしてメンチはこの形なんだろうと、ずっと不思議に思っていたのですが、去年の夏休みの帰省でその理由がわかりました。
🌀台風の夏、実家ごはん
去年の夏。あのときは、台風の影響で帰省期間が延びたんですね。
夏休み中、ときどき家族のごはんをつくったりもしていたのですが、帰省が延長になったのは新幹線が動かないという突発的なできごとが要因でした。休暇をとれたわけではありません。そんなわけで、そこからは実家にいながら、リモートワークという形になりました。
となると当然、短くとも定時までは仕事をすることになります。そんな姿を見ていた母が、晩ごはんなに食べたい、とリクエストを訊いてくれるのです。
ふだん離れて暮らしているし、そもそも職場での姿を家族に見せる機会はありません。母も働く我が子の姿を見たのは初めてでしょう。なので、ねぎらってくれたのだと思います。もちろん、その気持ちに甘えます。
👩思いがけない告白
そこでリクエストしたのがメンチカツ。なれない環境でPCに向かって仕事をして、それなりに消耗してたのか、パワーを回復できるようなメニューが恋しくなったのかもしれません。単にもともと好物なメニューが、思わず口をついただけかもしれませんが。
そのとき、母がいったんです。
「メンチなんて家でめったにつくらへんかったから、どんな感じかわからんわ。なに入れたらええのん?」
え、そうなん。それどういうこと。けっこう子どもの頃も食べてた気がするねんけど。あまりにも思いがけない母の告白。
と考えてすぐ、記憶の中のメンチの形。その謎は解けました。
💡楕円形の謎
そうか、近所のお肉屋さん。それだ。楕円形の記憶、謎は解けた。
学校帰りに買い食いしてたイメージだけが強く残ってたけど、たしかに土曜のお昼ごはんの前とか、夕飯の前とか、家族の分のフライを買いにいった記憶がよみがえってきたのです。
母いわく、コロッケは好きやからつくることも多かったけど、メンチは脂っこいイメージがあって、自分があんまり食べたいと思ったことなかってんわ。せやから、いつも買うてたなあ。
なるほど。そして記憶から立ち上がってきた、あのメンチの形。ああ、あれはたしかに楕円形だった。いつも買うコロッケと相似形で、ふたまわりくらい大きいのがメンチだった。その大きさがたまらなく好きだった。
💡連鎖する記憶と丸メンチ
人の記憶はひとつのきっかけで、連鎖するようによみがえってきます。おうちごはんに持ち帰ったおつかいのメンチとコロッケ。友人と買い食いするとき、ふだんは安いコロッケで、特別な日だけ買えたメンチカツ。包み紙を通して手のひらに感じる、揚げたてのフライの熱。漂う油の香ばしい香り。あの日あの頃のメンチはいつも、あのお肉屋さんのメンチはたしかに楕円形でした。
でも、近ごろふと気づいたのです。丸がけっこういるんです。洋食屋さんで頼んだメンチって、そこそこの割合で丸いんですよ。
これは記憶との比較で気になります。丸いとどう違うだろう。この形にすることでどんな個性が生まれるのだろう。
そんなわけで、ふと思い立ってつくってみたのが、この丸メンチなのでした。
🤔メンチの中身
あと、メンチをつくるとき、そのタネをどうするかというのも、いくつかの洋食屋さんでメンチを食べていて考えはじめたことです。
基本的に自分がメンチをつくるのは、ハンバーグとおなじタイミング。要はハンバーグ用に丸めたタネにいくつか衣をつけて、メンチにしてたんですよね。
となるともちろん、我が家の普段着のメンチの中身はハンバーグとまったくおなじもの。細かく刻んだ玉ねぎにつなぎのパン粉と卵がはいってます。
でもいろんなお店のメンチを食べていると、あるお店では玉ねぎがわりと大きめでその存在感が特徴的だったり、逆に玉ねぎがはいってなくて、お肉ぎっしりな感じが印象的だったりもします。さらにつなぎの量が少ないのか、The肉という感じの引きしまったしっかり食感が感じられたり。
あらためて意識して食べ比べてみると、ぱっと見おなじに見える黄金色の衣の中身は、それぞれのお店独自のコンテンツなんだと思います。
衣で包んでしまうので、初見では判らないその中身、タネの具材。それこそが食べてはじめてわかるメンチカツの個性なのです。
そんなことに気づいてからというもの、メンチをつくるときは、お肉感を強めするのに、パン粉の量を減らしたりするアレンジもするようになりました。
📝レシピ
さて、ここで詳しいレシピを。
📒トケイヤkitchenの定番メンチ
🥩材料(小ぶりのメンチカツ6個分)
🟡タネ
・ひき肉…120グラムくらい
・卵…1個
・玉ねぎ…1/4個
・パン粉…1/2カップ
・マヨネーズ…大さじ1
・ケチャップ…大さじ1
・お好みソース…大さじ1
・こしょう…ひとつまみ
🟡衣
・水で溶いた天ぷら粉…適量
・パン粉…適量
①ひき肉、みじん切りにした玉ねぎ、パン粉、卵と調味料類をボウルに合わせて、粘り気が出てくるまで混ぜます。
②①を円形または楕円形にまとめて、水で溶いた天ぷら粉、パン粉の順に衣付けします。
③中温の油に入れて、底が固まってきたら返して両面を固めます。
④竹串を刺して中まで熱くなっていたら、火を強めて油の温度を揚げて表面を色よく仕上げます。
⑤からりと揚がったら油をしっかり切って完成です。
🧊多めにつくって冷凍OK
去年の夏、実家で食べた母のメンチ。つくった本人も、久しぶりに食べたらおいしいなぁ、そんな言葉をくれました。また、たまにつくってみるわ、といってくれたのには、リクエストしたかいもあるというものです。
多めにつくれば、衣をつけてから冷凍して保存もできますしね。いまごろ、実家の冷凍庫にも、出番を待つメンチが休憩してるかもしれません。
🍛アレンジレシピは王子様
つくりたてはそのまま揚げて食べますが、冷凍保存したストックを食べるときは、ちょっとアレンジもしたくなるもの。
それがこれ。
たとえばメンチカレー。
冷凍メンチは、火にかけた油が熱くなる前にいれてじっくり揚げる感じで。
解凍しつつ中まで火を入れたら、最後は強火で衣を色づけて、しっかり油を切っておきます。
カレーも冷凍作り置きのデミグラスソースをアレンジ。炒めたカレー粉とバターを足します。
味がまとまるまで煮込んで、こしょうをぱらり。
盛り付けたごはんにメンチを載せて、カレーを注ぎます。
真ん丸メンチがごはんの上に鎮座する、メンチカツカレーができました。
カツカレーがカレーの王様なら、メンチカレーは王子様。カレーとフライの組み合わせって、見た目からして、さあ食べるぞという気分を満たしてくれますよね。
カレーの上に載ったとき、主役はカレーでメンチはトッピングというポジションだけど、わくわくさせてくれるのは、メンチのほうです。
それは、メンチがいつものカレーを特別なものにしてくれる存在だから。
形が楕円形でも真ん丸でも、メンチがわくわくさせてくれるのは、間違いなく好物だから。
次につくるとき、自分は記憶の中の楕円形を選ぶのか、それともよそゆきの真ん丸を選ぶのか。きっと、その日の気分で選ぶんだろうなと思います。でももしかしたら、両方つくってしまうかもしれません。
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