猛暑の新潟湯治①【理想の女将さん像~五十沢温泉】
マナー研修に朝礼、精が出ますね。正装の仲居を束ねる女将さん、和服がとてもお似合いです。殊勝な心掛け、頭が下がります。
でも素養の問題でしょうか、私の場合、どうも厚遇をされてしまうと面映ゆいもので。。身の丈に合わないと言いましょうか、そもそも2食付きの宿ですと、忽ち左前になってしまいますし。
「荷物をお持ち致します」
「いいえ、結構です(御自身のお体を大事にされてください)」
「館内のご案内を」
「自分で調べますので(Wi-FiのPWだけは見やすい場所にお願いします)」
「またの御来館を従業員一同お待ちしております」
(そんなことされましたら、おちおち用も足せません)
私の大好きな「T旅館」の女将さん
ミニカーを持ったお孫さんとマメに清掃に来てくれて、ありがとうございます。ストーブを取り換えに来てくれて、ありがとうございます。いつも私がやると言っても、「大丈夫」って。
南伊豆の「C旅館」の女将さん
私が自炊湯治していた時、ビーフシチューを作り過ぎたと言って持って来てくれましたね。名物のイノシシ肉が入っていて、大変おいしゅうございました。今度また、ネコとヤギに会いに行きますね。
信州上田の「旅館Y」の女将さん
入口のフロントで、私が食事を終えたすぐ後にご飯を食べてましたね。生活感があって、とても愛おしいかったです。確かあの時は客が私しかいなかったから、テレビを見ながら棒アイスを二人で食べましたね。
中之条の有名温泉街「H旅館」の女将さん
私は一番安い部屋で予約をするのに、誰もいないからと言ってちょっと広い部屋を案内下さり、ありがとうございます。帰省時期はご家族お揃いで、こちらがお邪魔してしまっているようです。
黒石市「G客舎」の女将さん
一人称が「オラ」という女将は初めて見ました。あの時私は仕事の締めに追われていて、折角4日間もいたのに、あまり話が出来なかったことをとても悔やんでいます。ちょっと遠いけど、またお会いしたいのです。
北杜市「S荘」の女将さん
客が私一人しかいないからと言って、黙って犬の散歩に行っちゃダメですよ。女将さんの留守中に、食品会社の営業マンが飛び込みで訪問してきたので、門前払いしておきました。でも、そのおもねらない感じがとても好きです。
7月某日
苛烈な暑さが続き、エンジンフードの如く蓄熱したアスファルトに驟雨が落ちると、うっすら蒸気が上がった。都内大学病院の帰り道、ひどい頭痛と眩暈が襲い、途中コンビニに避難。
凍ったアクエリアスを脈打つ左のこめかみに当て再び歩き出し、肝胆を砕く思いで帰宅。ダメだ、低白血球のこの体、エアコンの風は喉を傷める。
眠れぬ夜、針の筵。この時期は通院と出社の間隙を縫い、山へエスケープ。
私 「女将さあん」
女将 「こんにちは。前にもいらっしゃったわね」
私 「よく覚えていますね。去年秋に湯治で。あと立ち寄りで何度か」
「あの時確か向こうの山に初雪が降って、山頂が冠雪したんです」
女将 「金城山(1,369m)だね。そんなに経ちますか」
私 「しかし、こちらも凄い暑さですね」
谷川岳を抜け、到着したのは新潟県「五十沢温泉ゆもとかん(旧館)」。元々大手ホテル会社に勤務しており、一人旅も大好きだという女将さん。グラスに張った氷水を飲みながら、テーブルに対座し他愛ない話が続く。
私 「今回は一泊です。この時期は温湯で体調を整えるんです。明日更に北へ向かって、そちらでテレワークです」
女将 「そうですか。どちらへ?」
私 「阿賀野の出湯温泉です。ここが中間の少し北なんです。長時間の運転ができないから」
女将 「そうですか、今日はゆっくりしていって下さい」
お世辞にも綺麗とは言えないギシギシの木造2階建の母屋。
ここから歩いてすぐ、こちらの旧館が手狭になったために建てたという立派な新館がある。壁面には有名人のサインがびっしり。
私には何故か旧館の方が居心地が良く、時々ふらりと寄りたくなる。
単純に予算の問題?いや、仮に同じ値段であっても、私は旧館に泊まると思う(僻目だろうか)。
ボロ宿の雰囲気、源泉の鮮度、そしてこの女将さんが好きなのだ。
他の宿泊客とも一度も会ったことはなく、いつも二人。だらだらと話している時間も旅の思い出を彩る。
私 「この宿エアコンありましたっけ?」
女将 「ない」
私 「ははは。じゃあ、山から風が吹くのを待ちます」
つづく
令和4年7月12日
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