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花に 音楽を添える 時


静かな部屋にひとり、
ソファに体育座りして
肌なじみの良いブランケットにくるまっている。

午前8:20。

少し疲れたので、今日は
お休みを取った。
体調崩壊前の予防的休暇取得である。
大切なお休み、なにをしようか。

部屋の中を見回すと
外から注ぐ、白くて淡い光が
窓辺に広がっていた。

今日は、天気がいいらしい。

先日お家に迎えたアネモネの苗は
あれから次々に新たな蕾をつけ、
ぷっくり可愛い花を咲かせてくれた。

蕾たちがすこし、
窮屈そうにしていることに気づき
先に開いた花を摘んで、
生けることにした。

母が若い頃買ったという
朱色のワイングラスを取り出す。


小ぶりだけれど色味がはっきりしていて
存在感のあるそのグラスは
個性あるアネモネの花と
うまく調和してくれる気がした。




窓辺にできた冬日向の中に
アネモネをあしらったワイングラスを寄せる。
陽の光がワイングラスを通過して、
辺りにちいさく反射する。

ステムの、透明なガラスが描く白い線。
カップの、朱色のガラスが描く紅い線。
アネモネとグラスのシルエットが落ちた
おもしろいカタチの影。
そして、堂々と咲く花。


それは
白いキャンバスに描かれた
ひとつの絵みたいだった。



アネモネは温度の変化に応じて
花を開閉させる、傾熱性を持つ植物だ。

それはグラスに生けた後も同じで
花がなお、そこで生き続けていることを
感じさせる。


人間の勝手で
花を切り取っているからこそ、
その花が美しく居ることができるよう
心をかけなければと思った。


アネモネを眺めながら
ジャズのプレイリストを再生した。

普段聞くことは無いけれど
ちょっと背伸びをしてみたくなって。

静かだった空間に
伴奏の、ピアノの音だけが、
流れている。
軽やかなのにしっとりした曲調の楽曲。

そのメロディーを背景に佇むアネモネは
なにか、一段と
大人びた顔になったように見えた。



「なんか、いいな
なんか、すごくいい」

心からそう思った。


 小さな幸せはたくさん集まるといつの間にかセーフティネットになるのだと思う。
 人生は決してどの段階になったから楽になるっていうものじゃない。いつでも理不尽でたいへんで思い通りにならなくて、切なくて苦しいものだと思う。
 小さな幸せは、たくさん集まっても決して大きな幸せにはならない。
 でもふっと人を救ったり、よく眠らせたり、他の人に伝染したりする。
 それが最終的にはたまたまそこにあった網みたいに落ちていく本人を救うことがある。
 その程度ではあるけれど、その存在、すごくいい。最終的に大きなものになる可能性だってある。
 
小さな幸せ46こ  よしもとばなな


私は、
自然が好きで、
言葉が好きで
日本の文化が好きで、
花も本も、
器も料理も、
書くことも、作ることも
それから、やさしい人も
その人たちの笑顔も
大好き。


そしてまたひとつ、
花と音楽の取り合わせも好きになった。



強い人間にはなれそうにないけれど
大好きなものたちがくれる
小さな幸せに癒されながら
がんばっていこうかな。



小さな幸せに
たすけられた休日だった。

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ち あ き
これからもあたたかい記事をお届けします🕊🤍🌿