花に 音楽を添える 時
静かな部屋にひとり、
ソファに体育座りして
肌なじみの良いブランケットにくるまっている。
午前8:20。
少し疲れたので、今日は
お休みを取った。
体調崩壊前の予防的休暇取得である。
大切なお休み、なにをしようか。
部屋の中を見回すと
外から注ぐ、白くて淡い光が
窓辺に広がっていた。
今日は、天気がいいらしい。
*
先日お家に迎えたアネモネの苗は
あれから次々に新たな蕾をつけ、
ぷっくり可愛い花を咲かせてくれた。
蕾たちがすこし、
窮屈そうにしていることに気づき
先に開いた花を摘んで、
生けることにした。
母が若い頃買ったという
朱色のワイングラスを取り出す。
小ぶりだけれど色味がはっきりしていて
存在感のあるそのグラスは
個性あるアネモネの花と
うまく調和してくれる気がした。
*
窓辺にできた冬日向の中に
アネモネをあしらったワイングラスを寄せる。
陽の光がワイングラスを通過して、
辺りにちいさく反射する。
ステムの、透明なガラスが描く白い線。
カップの、朱色のガラスが描く紅い線。
アネモネとグラスのシルエットが落ちた
おもしろいカタチの影。
そして、堂々と咲く花。
それは
白いキャンバスに描かれた
ひとつの絵みたいだった。
アネモネは温度の変化に応じて
花を開閉させる、傾熱性を持つ植物だ。
それはグラスに生けた後も同じで
花がなお、そこで生き続けていることを
感じさせる。
人間の勝手で
花を切り取っているからこそ、
その花が美しく居ることができるよう
心をかけなければと思った。
*
アネモネを眺めながら
ジャズのプレイリストを再生した。
普段聞くことは無いけれど
ちょっと背伸びをしてみたくなって。
静かだった空間に
伴奏の、ピアノの音だけが、
流れている。
軽やかなのにしっとりした曲調の楽曲。
そのメロディーを背景に佇むアネモネは
なにか、一段と
大人びた顔になったように見えた。
「なんか、いいな
なんか、すごくいい」
心からそう思った。
*
私は、
自然が好きで、
言葉が好きで
日本の文化が好きで、
花も本も、
器も料理も、
書くことも、作ることも
それから、やさしい人も
その人たちの笑顔も
大好き。
そしてまたひとつ、
花と音楽の取り合わせも好きになった。
強い人間にはなれそうにないけれど
大好きなものたちがくれる
小さな幸せに癒されながら
がんばっていこうかな。
小さな幸せに
たすけられた休日だった。