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思い出のなかに生きる
【とほん読書ノート009】
山田稔は私の友人が好きな作家だが読んだことがなかったので『別れの手続き 山田稔散文選(大人の本棚)』(みすず書房)を手に取った。作家でフランス文学者の山田稔。冒頭に収録された作品が軽めの内容なので油断してしまったが、読み進めるほどにその世界に引き込まれる。内容としては過去の思い出を中心に書かれたエッセイ集だが、ちょっと読んだことのない感覚だった。
どうやら私はごく若いころから人生を思い出として、完了した過去の相の下に反芻することに喜びを感じる、そうした型の人間であったようだ。「私は人生を生きるよりも思い出すことが好きだ。思い出のなかに生きたい」(フェリーニ)。こうした傾向が年を取るにつれ強まるのは当然だろう。P204
私はいくつか読み終えて、過去と現在が交錯する構成の巧みさによってその世界に引き込まれることに気づく。書かれているのは思い出話が中心ではあるが、何より重要なのはそれを語る(思い出している)現在の山田稔だった。
現在を生きる山田稔が過去の思い出を語りだす。それが今の山田稔はどのような意味を持つのか読み終えるまでわからない。過去の山田稔と現在の山田稔の二人に導かれていくうちに、何気なく始まったはずの散文の言葉たちが、私を思いのほか遠い場所に連れていく。
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