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【読書ノート】「人生後半の戦略書」

読んだ本の気になる部分を書き留めていきます。
今回採り上げる本は、『人生後半の戦略書』著.アーサー・C・ブルックスです。


本を手に取った切っ掛け

Amazonを見ていて高評価だったことがこの本を買った切っ掛けでした。

★人生100年時代の後半を生きるための必読書!

こんなコメントに惹かれて手に取りましたが、非常に興味深く読むことができました。

以下、気になるところを気ままに書き留めました。

書き留めたところ① 2種類の知能

 1971年、キャッテルは、『Abilities:Structure,Growth, and Action(能力:その構造と成長と作用)を出版し、「人には2種類の知能が備わっているものの、各知能がピークを迎える時期は異なる」と提唱しました。
 うち1つ目の知能が、「流動性知能」です。キャッテルの定義では、推論力、柔軟な思考力、目新しい問題の解決力を指します。一般的に、生得的な頭の良さと考えられている知能で、読解力や数学的能力と関連があることが研究で明らかになっています。革新的なアイデアや製品を生み出す人は、概して流動性知能が豊かです。知能テストを専門としていたキャッテルの観察では、流動性知能は成人期初期にピークに達し、30代から40代に急速に低下しはじめました。
・・・
 でも、「流動性知能は低下します」で話は終わりではありません。その続きがキャッテルの研究の肝なのです。知能は流動性知能だけではありません。「結晶性知能」も存在します。結晶性知能とは、過去に学んだ知識の蓄えを活用する能力です。
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 キャッテル自身は2つの知能を次のように説明しています。「(流動性知能は)抽象的な問題を解決する脱文脈化された能力であるのに対し、結晶性知能は、人が生きるなかで文化的適応と学習によって獲得した知識に相当する」
 言い換えれば、こういうことです ー 若いときは地頭に恵まれ、歳を取ったら知恵に恵まれる。若いときは事実をたくさん生み出せるし、歳を取ったらその意味と使い方が分かるようになる。

「人生後半の戦略書」 p.51-53

加齢とともに、衰えていく部分と、伸ばしていくことが出来る部分があることは、私たちの働き方に変化を求めます。

若い時の価値観のまま、仕事を続けていくことが出来ないという点は、今後、自分が仕事を続けていく上での大きなヒントとなりました。


書き留めたところ② 根の一体化

「セコイアデンドロン」と呼ばれるその巨木種は、1本の木としては地上最大の種です。ポプラのように、1つの根系に属しているわけではありません。それなら、セコイアデンドロンのほうが、たくましい個人の比喩に適しているのでは?
 答えはやはりノーです。セコイアデンドロンは高さ84メートルに達することもあるにもかかわらず、根は驚くほど浅く、1.5~1.6メートルほどの深さしかないのが普通です。それで何百年、何千年も直立を保てるとは、物理の法則に反している気すらするでしょう。しかし、それはもう1つの事実を知らないからです。セコイアデンドロンは密に群生することで、浅い根を絡ませ合い、次第に結合します。初めは別々の木ですが、成熟し成長するにつれて一体化するのです。

「人生後半の戦略書」 p.165

根を絡ませ合い、次第に結合しながら、群生していることで、巨木が何百年、何千年と直立を保っていることは、非常に示唆に富む部分でした。

大きな木になるためには、地中深くに根を伸ばしていく、というイメージを持っていましたが、

そうではなく、浅いところにある根を絡ませ合い、結合させながら、群生することで、大きな木が成り立っていること

私たちは、芸術や、言語表現、文字、そしてインターネットによって、自分の思考を他者の思考と絡ませ合い、結合させ、群生することで、大きな存在として、長く続いていくことが出来たこと、非常に示唆深いメッセージだと感じました。

地中の根=目には映らない思考

というメタファーで捉えると、とても興味深いです。


書き留めたところ③ 人生の4つのステージ

 その後2時間にわたって、アチャーリャは古代インドの教えを説明してくれました。説明によれば、正しい人生を送るには4つのステージを踏まなければならず、それぞれのステージをアーシュラマと言います。各アーシュラマの期間は25年が理想とされています。
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第1のアーシュラマは、学生期(ブラフマチャリヤ)で、青少年が学習に専念するステージです。
第2は家住期(ガールハスティヤ)で、キャリアと富を築き、家族を養うステージ。
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世俗的な見返りを乗り越え、移行を果たし、新しい住期で知恵を見出して、執着という苦悩の種を打破する必要があります。仕事に精を出してきた人なら、その時期はたいてい50歳前後に訪れます。
 その新しいステージの名前は?林住期(ヴァ―ナプラスタ)です。サンスクリット語で「森林に」「隠遁する」ことを意味します。このステージでは、過去の公私の義務からきっぱり手を引き、精神性と深い知恵、結晶性知能、教育、信仰にいっそう専念します。
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 しかし林住期は終点ではありません。老齢期に訪れる最後の精神的なステージは、遊行期(サンニヤーサ)です。このステージでは、悟りを開くことだけに没頭します。

「人生後半の戦略書」 p.212-213

最近、聴いている音声コンテンツ(「#53 大人の"アイデンティティ・クライシス"の特徴と処方箋」(安斎勇樹の冒険のヒント))の中でも、似た議論が展開されていて興味深く感じました。

なぜ大人は掴みかけた"自分"を中年で見失うのか。その原因は、身体的な変化に加えて、生活、職場や家庭における役割が複層的になって、自分を構成する変数が増えるから。

これは人生が豊かになっていることでもあるはずですが、結果として、20代は職業的なケイパビリティを磨くことが=自己研鑽だったのが、そのシンプルな自己育成ゲームとして成長率が鈍化したように感じられて、職位や給与以外の手触りある成長実感が失われてくる。
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このときに焦って"キャリア目標"なんてものを無理に再設定しようとせず、いまの関心に向き合って「探究テーマを設定すること」が自己ケアの処方箋になると僕は考えているわけですが、今日のVoicyではその前提として理解しておくべき成人・中年期のアイデンティティ論について解説しています。

安斎勇樹さんのXより

この本の中にも、
『自分を知ることです』
『自分の中へと分け入るのです。心が研ぎ澄まされれば、あなたの持つ秘宝に気づくでしょう』

というアチャーリャの言葉ががあります。

突き詰めていくと、人間の一生涯の捉え方というのは、類型的なものが存在するように感じます。


書き留めたところ④ 宗教の役割

 宗教や精神性を重んじる成人は、信仰を持たない人よりも、おおむね幸福でうつ病になりにくいことを示す研究が山ほどあります。また、このテーマの研究によれば、大人になって信仰を見つける利点は、人生の幸福度が上がることにとどまりません。宗教と精神性は良好な体調にもつながっています。その一因は、宗教や精神性を探求している人たちに見られる、ある傾向にあるかもしれません。大多数の研究で認められているように、そういう人たちは薬物やアルコールを乱用するリスクが低いのです。
 その理由について、研究者たちは気ままな憶測をし、「礼拝に励むとライフスタイルが健康的になったり、社会的交流が増加したりするためではないか」と指摘することがあります。この分野に何年も関わった私に言わせれば、その指摘は正しいものの、宗教によって幸福度が上がる一番の理由は、そうした間接的な利点よりもずっとシンプルだと思います。超越的な物事に焦点を当てて、相当な時間と労力を注げば、自分という小さな世界が適切な文脈に変換され、自分自身から焦点をそらせます。
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 結論を述べましょう。今人生の過渡期にいて、超越的なものに興味が出てきたら、それはまさに予定どおりです。たとえこれまで精神生活を疎かにしてきたとしても、です。その流れに抵抗しないでください。

「人生後半の戦略書」 p.218-219

自身の根(思考=精神)に目を向けていくこと。

これが人生のシフトチェンジをする上で、必要不可欠なようです。

以前、採り上げた書籍『宗教の起源-私たちにはなぜ<神>が必要だったのか』にも記載がありましたが、

儀式がエンドルフィンによる効果をもたらし、帰属意識の創出、共同体の結束に重要な役割を果たしていることがわかる。そのなかで欠かせないのが同期性で、エンドルフィンの効果を増幅する働きがあるようだが、その仕組みや理由は完全に解明できていない。

「宗教の起源-私たちにはなぜ<神>が必要だったのか」p.167

宗教が、帰属意識の創出、共同体の約束といった人間にとっての『根』としての機能を担っているようです。


読後メモ

最近の個人的な興味として、

SNSを始めとした技術の進展が、
人間の自己認識の在り方を個人から分人へと変化させる一方で、
物質的な関係性による分人が複層的になりすぎると、
自己の中における分人同士の統合が求められ、
それが結果として、精神性の探求に繋がる。

こんな流れを考えています。

家族、会社、趣味、仲間といったコミュニティの他に、
自己の探求に繋がるコミュニティに所属することが、
今後、求められる時代になるかもしれません。

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