人事制度における評価と査定の違い
最近、人事評価制度に関する本を読んでいて、違和感を感じたことを書き留めておきます。
組織の原則を踏まえると、評価と査定は違う概念であるという内容です。
評価と査定の言葉の違い
個人的には、
評価とは、設定された目標に対する達成度合い、
査定とは、給与・賞与等、従業員に支払う金額の決定およびこれを裏付ける等級等のランク付け
にあると考えます。
人事評価制度においては、評価と査定を分けて考えることが重要です。
なぜなら、それぞれに目的が異なるからです。
評価の目的
組織における評価基準の設定は、「アウトプット・コントロール」にあります。
組織の特徴は分業と調整です。
分業したものを調整するためには、標準化・ヒエラルキー・環境マネジメント・スラック資源活用・水平関係の設定の5つがあると、「組織デザイン」には書かれていますが、評価基準の設定は、標準化の中の「アウトプット・コントロール」に含まれるものです。
※詳しくは「組織デザイン」を参照ください。
ゴールを明確に設定することで、不確実性が高い場合であっても、複数の人間を同じ方向に向かわせることが出来ます。
この観点から、評価基準は、誰から見ても、到達が明らかな状態、出来る限り認識にずれがない定量的な評価基準が望ましいでしょう。
なぜなら、ゴールが明確でないと、ゴールとのズレが認識できず、本来の目的である「分業」からの「調整」が出来ないからです。
査定の目的は?
では、査定の目的は何になるのでしょうか。
私の考えでは、査定は、組織が向き合う「労働市場(採用市場)」からの調達コストをどのように考えるかだと認識しています。
自社で高い成果を上げることが出来る社員は、高い確率で他社においても高い成果を上げることが出来るはずです。
そうなると他社も高い給料をその社員に提示するため、自社の社員の給料も上げていかないと、他社にその社員が奪われてしまうでしょう。
勿論、給料の金額だけが組織への定着を決めるものではないですが、他社と比べて著しく給料が劣後する場合においては、社員は組織から離脱し、他社に移っていきます。
給料は、社内で上げた成果よりも、会社が属する業界の労働市場に依存する傾向が強いのはこのためだと考えます。
社会全体を会社による分業の総体であると見た場合、自社と同業他社は業界内で並行分業している個体として認識することが出来ます。
このように考えると、同業他社間では、評価基準が類似し、同じ業界内で人材が動きやすいと仮定すると、業界内での給料の相場が市場原理で決まる。
その結果として、社内の人間から見ると、評価と査定が連動しているように見え、評価と査定が混同されることとなると推察します。
評価制度における評価と査定はどうあるべきか
これを踏まえて、会社の評価制度を考えた場合、評価基準は、出来る限り定量的であるべきで、組織が設定しているゴールとのズレが明確、かつスピーディーに本人にフィードバックされることが望まれます。
一方で、査定は、社内評価基準による評価結果と連動させる必要はないですが、同業他社の給与水準と業界内での採用難易度を踏まえて、会社に残って欲しい人には手厚く給料を支払う仕組みとなっていることが望まれるでしょう。
よって、分業と調整の観点から、評価基準は、会社の規模に関わらず、2名以上の組織には必要です。
明確なゴール(評価基準)がなければ、ゴールとのズレが把握できず、修正・改善が進まないからです。
査定の仕組みである給料テーブル、等級制度等については、組織に留まる理由における給料のウエイトが高くなった時、すなわち、入社される方の組織における代替可能性の高い組織の場合には、早い段階で必要となります。
逆に言えば、給料以外の理由で、この組織で働きたいと考えている社員が多い場合は、査定の仕組みを構築するのは後回しでも問題ないのではないでしょうか。