経験と勘と気合いのみの教育から脱却し、授業や生徒指導等を科学することで、誰一人取り残されない教育へ。
1. note開設 ―先進的な教育改革を、更なるステージに。―
戸田市教育委員会教育長の戸ヶ﨑勤です。
このたび、全国でも先進的とされる本市の挑戦についてより多くの方々に理解していただき、教育改革を更なるステージに到達させることを目的に、noteを開設することとしました!定期的に更新していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。
さて、7月20日に、戸田市教育政策シンクタンクアドバイザリーボードをオンラインで開催しました。
このアドバイザリーボードは、おそらく市町村としては全国初の取組として令和元年に設置した、優れた教師の匠の技の言語化・可視化・定量化や個別最適な学びの実現、EBPM(EIPP)の推進に取り組む「教育政策シンクタンク」が行う調査研究等の方向性に対する指導及び助言を行うため、教育長が設置するものです。
構成員は以下の方々ですが、国の会議でも中々見られない豪華なメンバーの方々に激論を交わしていただきました。
・堺みくに法律事務所・小美野達之弁護士(スクールコンプライアンス)
・渥美坂井法律事務所・三部裕幸弁護士(個人情報保護)
・日本大学・末冨芳教授(教育行政学、教育財政学)
・東京大学・田中隆一教授(経済学)
・慶應義塾大学・中室牧子教授(教育経済学)
・イエール大学・成田悠輔助教授(経済学・機械学習・人工知能)
・聖心女子大学・益川弘如教授(学習科学)
資料についてはこちらからご覧いただけます。
2. 本市の問題意識 ―経験、勘、気合いの『3K』から、根拠、検証、科学の『新たな3K』への船出―
今回のテーマについて紹介する前に、なぜ本市がこのようなシンクタンクを立ち上げたのかについて、その「思い」を共有させてください。
私は、学校村・教育村に瞭然と横たわる課題である『3K』(経験、勘、気合い)のみで互いに納得し合ってしまう文化を変えたい。
個人的な経験や考えのみに左右されることなく、データ等をもとにアカウンタビリティを確保するとともに、それらが暖かみを持ちながら人の判断をサポートする教育を進めたい。
そう長く考えてきました。
こうした『3K』から脱して『新たな3K』(根拠、検証、科学)への船出、つまり、「授業や生徒指導等を科学する」ことを、これまでの本市の教育改革のコンセプトの一つとしてまいりました。
この教育政策シンクタンクでは、データをもとに、教師の匠の指導技術や子供の学びのプロセス、または子供の発する微細なSOSを外化(可視化、言語化、定量化)することで、暗黙知を形式知に変換し、蓄積された教育財産の共有・伝承をしていくことなどを目指しております。
しかし、その実現のためには、最先端の知見を取り入れつつ学術的に適切な計画を立て、かつそれが教育の本質に寄与するものであること、さらにコンプライアンス上適切な取組であることが必要です。
そのためには、専門的な知識や経験を有する、様々な分野の外部アドバイザーの方からの御指導・御助言が不可欠です。また、検討のプロセスも含めて幅広く世の中に対して公開し、市民や世論と対話しながら政策を進めていくことが、このデジタル社会においては一層不可欠であると考えています。
このような考えから、今回のアドバイザリーボードは、初めて公開で実施し、全国各地から中央省庁、地方自治体、教育関係者、大学・研究機関、民間企業など、200名近くの傍聴者の方に御視聴いただきました。
いち自治体が開催する有識者会議としては極めて高い関心を世間的にもいただいていることに、この場を借りて改めて御礼を申し上げたいと思います。
3. データベースの構築 ―誰一人取り残されない、子供たち一人一人に応じた支援を―
まず、アドバイザリーボードでは、デジタル庁の実証事業として今年度進めている「教育総合データベース」について説明しました。
現在、子供に関するデータは、目的に応じ、部局/機関、システムごとにバラバラに保存されており、そもそもデジタル化されていないものもあります。
こうした「分野の壁」「組織の壁」「紙の壁」を打破し、現象が発生してから、断片的・部分的な情報に基づいて対応する「後手」の対応から、個人情報の保護措置を講じた上でデータを連携させ、子供たちのSOSを早期発見するいわば「先手」の対応に転じていくことで、これまで必ずしも救えていなかった、真に支援を必要とする子供達を救うことができると考えています。
こうした問題意識から、教育委員会及及び市長部局に分散している子供に関わるデータについて、教育分野を軸にして整備すること、併せて、データの標準化やデータフォーマットのオープン化等により、戸田市だからできたというものではなく、他自治体においても導入しやすい基盤となることを目指しています。
データベースの目的は、誰一人取り残されない、子供たち一人一人に応じた支援の実現であり、活用イメージとして大きく3点掲げています。
(1)子供達の不登校等のSOSが事前に何らかの兆候として現れていないか。それを踏まえ、ニーズに応じた早期支援ができないか。(以下の図参照)
(2)1点目のようなSOSの兆候、特に家庭に関するリスクを関係部局に共有することにより、貧困・虐待等の困難を有する子供や家庭への支援につなげることができないか。
(3)いわゆる学校カルテとしていますが、困難な状況にもかかわらず学力向上等を達成している学校には、共通する特徴があるのではないか。そうした傾向の分析により、継続的改善のためのフィードバックが提供できないか。
こうしたことを検証していきたいと考えていますが、データベース構築のために子供達から新たにデータを取ることは現時点で考えておらず、これまでに既に取得しているデータを連携し、分析していきます。
アドバイザーの方々からは、以下のようなご意見をいただいたところであり、ご意見を踏まえながら、次回に向けてデータベース構築等に当たってのガイドラインの作成を進めていく予定です。
今後の工程はこちらの図のとおりです。
・保護者から自分のこどもの不登校のリスクを教えて欲しいと言われた場合、どのように対応するのか。また本人・保護者に対する丁寧な説明ということで現在考えていることはあるか。
・学術研究機関による二次利用について何らかのガイドラインが必要ではないか。またプッシュ型の支援について、どのような者が担うことを想定しているのか。
・個人情報保護については、来年4月から国の個人情報保護法による規律が及ぶこととなる。またプライバシーについては別個の問題として考える必要があり、最高裁判決ではセキュリティ対策が問われていることも踏まえて検討すべき。
・倫理面の配慮事項は非常に重要だが、他方、大きな方針、ビジョンというような前向きなメッセージとすることが良いのではないか。
・データベースについて、過去のデータを遡って整備することも考えているのか。また、横展開していく上では、個人が特定されない形で、その成果を市としてもしっかりと発表していくべき。
・親がこどものデータを見たいといった場合には、本人の権利利益の擁護という観点からは慎重に検討すべきではないか。
・今後このプロジェクトが進んでいくと、どの程度のデータ、どの範囲のものなら外部の企業や研究者と共有して問題ないかについて、広く使えるプロトコルが重要になってくる。取組のスピードは落ちるかもしれないが、炎上のリスクを低くするためにも必要ではないか。
4. 学校現場におけるデータの利活用や匠の技の可視化 ―「褒める」ためにデータを使う。データの範囲や粒度・鮮度、そして文化醸成が重要―
次に、学校現場におけるデータの利活用や匠の技の可視化について議論しました。
本市では「授業改善なくして教育改革なし」との考えの下、様々な量的・質的エビデンスを活用して教員の日常的な授業改善が促されるよう努めています。
また、データの利活用の大前提となるのがICTです。
本市では国に先駆けてGIGAスクール構想を進めており、ICT活用の様相の4段階をSAMR、セイマーモデルとして整理しました。
段階が進むにつれてデジタルならではの付加価値が発揮されるとともに、教師による指導の管理の道具ではなく、子供の主体的選択のもとICTが使われることとなり、学習効果も高まることから、こうした活用を学校現場に対して促しているところです。
学校現場とは、以下の図のようにデータ利活用の「目的」、「範囲」、「粒度」、「鮮度」、「文化」といったポイントを実際に共有しています。
さらに、本市では、新学習指導要領の柱である主体的・対話的で深い学び、アクティブ・ラーニングについて、県学調で子供の学力を伸ばしている教師を抽出し、その指導技術を言語化する形で指導用ルーブリックとしてまとめました。
そうした従前からの取組に加え、昨年度から、たまご型レコーダーを活用し、子供たちの発話と教師の指導との関係を分析しました。
多くのグループで、教師が支援に入った後に発話量が増える傾向にあり、的確な状況把握と声かけの必要性が明らかとなりました。
こうした匠の技の可視化に向けた更なる取組を、令和2年度に実施したクラウドファンディングでいただいた寄附金を活用して今年度行っていきたいと思っておりますし、それとは別に、今年度、未来の学びの実現に向けた取組について新たにクラウドファンディングを実施することも検討しています。
5. 今後の方向性 ―「授業」「生徒指導」「学級・学校経営」の3つを科学する―
最後に、当面の取組の方向性としては、授業を科学する、生徒指導を科学する、学級・学校経営を科学する、この3つがあります。
(1)授業を科学する:アクティブ・ラーニング指導用ルーブリックや戸田市版SAMRモデルの活用と児童の変容の見取りによる、主体的・対話的で深い学びの実現に向けたデータ駆動型の授業研究を推進していくこと、また、全ての教師の指導改善に繋げられるよう、多角的な視点からの匠の技の可視化やこのルーブリックの更なる改善について取り組みます。
(2)生徒指導を科学する:教育総合データベースにより、子供達の不登校等のSOSの早期発見・対応を試行することで、積極的な生徒指導を補強するとともに、専門家による不登校対策ラボラトリー「ぱれっとラボ」において、本市の不登校対策・支援に関する調査・研究・評価を実施します。
(3)学級・学校経営を科学する:教育総合データベースの「学校カルテ」 機能や学校訪問におけるデータの利活用等を通じて、学級・学校経営を科学する取組を推進するとともに、アセスメント・ファシリテーション能力を含めた学校経営の視点を示したルーブリックの作成について新たに検討します。
アドバイザーの方々からは、以下のようなご意見をいただいたところであり、今後更に取組を進めていくとともに、成果と課題を様々な機会で発信していきます。
・大変先進的な取組を進めているが、働き方改革という観点からの取組があれば伺いたい。また、得られたデータをどのようにこども達にフィードバックしていくかの研究が今後必要になるのではないか。また、スクールマネジメントが諸外国で重要視されているが、どのようなリーダーシップ、具体的な行動を期待するのか考えを伺いたい。
・総合的な学習やSTEAM教育でもカリキュラムが重要であり、授業を検証する上で昨年の2年生と今年の2年生を比較することも可能となる。同じ活動を繰り返しながら比較していくことで、学校教育活動の充実にとって手応えとなるのではないか。
・データ利活用によってどんなことが分かるのかという意味では、先行研究や学術的な知見がレシピを提供することになるだろう。そうしたノウハウ集を手がかりにして内製化していくことも重要ではないか。
・学びがどういう形で起きているかを推測する精度が上がっていくと、日々の授業づくりもよりこども達に沿ったものになるのではないか。苦しみながらやっていたことが楽しみながらに変わるといった、先生方の変容についてもデータが収集できるようになると良い。
6. データ利活用の専門人材を公募します!
最後に、本市ではこうしたデータベースの構築などデータの利活用を一層進めるために、任期付職員の公募を現在行っています。次回、この件について改めて投稿しますが、関心をお持ちの方は是非ご応募いただけますと幸いです!
今後とも引き続き、戸田市の教育改革への挑戦への御指導、御支援の程よろしくお願い致します。
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