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そうか、わたしとキミは天体だったんだ

あなたには、何かにつけて意識してしまう、
自分と比べてしまう友だちや同僚はいますか?

相手はこちらをそういう目で見ていないかもしれないけれど、自分はなぜか気にしてしまう。

思い当たる方は
三浦しをん 著ゆびさきに魔法』を読むと
相手との関係性に気づき、気持ちを整理できるかもしれません。

こちらの本、まず見た目が美しい。
色とりどりのデザインネイルの写真が載った表紙で、紙自体が光の加減でキラキラと輝く仕様になっています。
装丁のかわいさにも魅了され、
書店で手に取った瞬間に文庫化を待つのは諦めてレジに向かいました。


主人公の月島美佐は商店街でネイルサロン「月と星」を営むネイリスト。
月島は縁あって新米ネイリストの大沢星絵を雇うことに。

月島は丁寧で正確な施術を得意とするけれど、
斬新なデザインセンスには欠く自覚がある。
一方大沢は、デザインの才能や社交性を持ちながらも、あまり自信がない(だからこそ努力家)。

二人ともネイルを愛し、
お客様をネイルで幸せにしたいという志は同じ。

月島は自分とは違うタイプの大沢を通じて
商店街の人たちやお客様と交流し、
視野を広げ成長していく。


月島が自分の世界の狭さを痛感する場面で、
胸に響いた表現がありました。

 はみだしようがないほど平凡だと思っていたのに、いつのまにかなにもかもから隔絶され、はみだしている。不思議で残酷なものだ。でもきっと、多くの人がこういう気持ちを味わうのだろうとも推測された。

『ゆびさきに魔法』三浦しをん著 273頁より

月島はこの場面で絶望しているわけではなく、
自分の現状を理解したことでさっぱりとした気持ちになって前を向いている、と思われます。

私も目の前のことに誠実に取り組んでいるつもりだったのに、ふと周りを見渡すと、思っていたのと違う場所に立っているような感覚になることがあります。
ちっぽけな自分に気づくというか…。

でも、それは自分が少し成長して視野が広がった証拠なんですよね。


月島は、美容専門学校時代からの友人である星野と共同で別のサロンを経営していた過去を持ちます。
月島は、星野のことを大切に思うと同時に
彼女の才能に憧れ、惹かれ、意識している。

この作品には登場人物やお店の名前に
「月」、「星」、「天体」、と宇宙に関連する言葉が出てきます。

読んでいる間、読者の頭の中には常に宇宙のイメージがあり、
そのおかげで著者からのメッセージを受け取りやすくなるのだな、と感じました。
月島が星野への感情を天体に例えてどのように表現するのか、興味がある方は是非本書を読んでみてください。

ネイルサロンが舞台だけど、
ネイルと接点がない人の心にもきっと響く。
そして、本書を読み終わるころにはネイルの印象が変わって興味が湧くかもしれません。

登場人物同士の会話はめちゃくちゃ面白いし、
商店街の人情味も存分に楽しめる、
見どころ(読みどころ?)満載の作品です。


読書の楽しみのひとつは、自分では到底思いつかない、心が震えるような表現に出会うこと。
私にとって、三浦しをんさんの作品はそういう表現の宝庫です。

今、三浦しをんさんの別の小説とエッセイも読んでいます。
どちらも素晴らしいので、また記事にしたいと思います。


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