その隙間、お埋めします
「心のスキマお埋めします」
ドーーーーン!!
怖い。あれは子供心にとても恐ろしかった。
心のスキマとは何ぞ?
金があれば。
時間があれば。
出世が出来れば。
有名になれれば。
異性にモテれば。
あの日に戻れれば。
大人たちのさまざまな心と欲の隙間に入り込んで、人生をあらゆる形で破滅に追いやる喪黒福造。
どうしよう、もし私が大人になって、喪黒に目をつけられたら。
そもそも、彼らは自ら進んで喪黒にサービスを要求していない。
彼が勝手に近づいて来て、勝手にこちらを客とみなして、サービスを提供してくるのだ。
そして、一度でも甘い汁を吸ったら最後、自制が効かなくなり「ドーーン!!」
そ、そんな…!喪黒にさえ会わなければ、平凡な人生で終わったものを!
子供の私は、恐ろしい結末が来ると知っていながら、目を離せずに見ていた気がする。
大人になって、一人で酒を飲みに行って、もし、喪黒が隣に座ったら…!私の人生ドンされる…!
だから私は、心に隙間などない大人になろうと決めていた。
もし喪黒福造が隣に座って、何かとんでもないうまそうなアイテムを持ってきたら、「私をハメようったってそうはいかないわよ。そうやって人の隙間を探して回っているあなたの心の隙間は、一体誰が埋めてくれるのかしら?」
バーボンをね、クルクルしながら言うわけです。
「それとも私がお埋めしましょうか?」キラースマイルとか繰り出してね。
だけど、深入りは禁物。
アイツの方がアイテムは多いはずだから、キラースマイル繰り出したらとっととズラかって、しばらく一人で飲みに行くのはやめよう。
「私の心に隙間が・・・?」彼にそう思わせられれば私の勝ちだ。
よし、あとは、隙間を作らない人生設計を!!
いや。いや待て待て。
…隙間がなくて、大人になれるかってんだ!!!!
そんなわけでです。
新しく引っ越したマンションには、隙間がまぁまぁあった。
気になる。気になるんだよ、喪黒より先に、埃が隙間を埋めに来るじゃないか。
喪黒対策は練ってあるんだが、相手が埃となったらそうはいかない。
「出ないと目玉をほじくるぞー!」
そう叫んだところで、我が家のまっくろくろすけは溜まっていく一方だ。
それで私は工作を始めた。
ホームセンターで、1番安い数百円の板を計算した通りに切ってもらう。
何かに使えるかなと持ってきていたすのこを向かいあわせあたら、洗面所の隙間にピッタリだったので、再利用。
耐熱耐水シートを貼り付けたら完成。
隙間がなくなったことで、ちょっとした物が置けるようになったばかりか、掃除も楽になった。
こういう瞬間、私はすごく勝った気になる。
インスタやピンタレストで見つける「ちょっとしたひと工夫で快適」
これはもう私の大好物な項目で、こういう工作をしている時、たいてい私は
「家事の隙間お埋めします、ドーン!!」と愉快に家をうろついている。
ちょっとした工夫で隙間は埋まる。
隙間を埋める専用のような物ををわざわざ購入する必要はない。
私の隙間は私が埋めたいのだ。
(いや本当は専用が欲しい時も多々ある)
時々、心には隙間が出来る。
正直、喪黒さんがうちに来て、どこでもドアとかくれたら、喜んで受け取ってしまうかも知れない(藤子違い)
タイムマシンや、スモールライト、タケコプターに、蝶ネクタイ型変声機(藤子でもなくなってきた)
あらゆるアイテムで、もし私を破滅に向かわせようと彼がやってきたら、とりあえず、自慢の工具を取り出して
「まずは自分で埋めてみようと思います」
そう言えたら格好いい。
そして多分、自分で埋めた隙間というのは、思いの外愛着が湧くので、多少不恰好だとしても愛せるのではなかろうか。
家の隙間を埋めながら「キラースマイルは習得できなかったけど、ギリ勝てるかもよ」
子供時代の私に、私はニヤリと伝えるのでありました。
(隙間違い)