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物語

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#ひと色展

ことだまり 《ひと色展》

ことだまり 《ひと色展》

泣いているの?

え、どうして?
そう答えたけれど、顎からしたたる水滴に自分自身が一番驚いた
私、泣いてるの?
そう聞いたら、彼女はほんの少し首を傾げながら静かに微笑んだ

泣いてはいけなかった
泣くとオオカミがその匂いを嗅ぎつけて食べにくるから
兄弟が1人、また1人と食べられて行くのを、私はずっと時計の中から見ていた

助けて、お母さん助けて!

そう叫んでいる兄弟を助けることができなかった

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イエローグレイ ひと色展

イエローグレイ ひと色展

「ここに、種を蒔くといいよ」

イエローグレイの子供が言った。

イエローグレイの子供は、ホームセンターで買った土の中にいた。

私はずっと、東向きのマンションの一階に住んでいた。
朝しかうまく太陽が当たらなかったのに、ちょうど私の住んでいる部屋の真前に、5軒並べて建売住宅が造られてしまって、朝の貴重な日差しも遮られるようになってしまった。

だから、転勤で引っ越しが決まった時、私は「絶対南向き!

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