おじさんに大金もらったらダンゴムシになった話
●擬似恋愛ってどんな感じ?
風俗嬢にとって馴染みさん(常連)というのはとても有難いです。
売り上げ的な意味ではもちろんですが、一見さん(初めての客)の中にはたまに盗撮やゴム外しや暴言を吐いてくる客がチリメンモンスターの如く混ざっており、その心配がないのが有難いのです。
初めてのお客さんは控え目に言って初対面の見知らぬ人です。なので初回プレイ中は
(不自然な太ブチ眼鏡、カメラ付いてないかな…)
(全然喋らない…楽しんでるかな?変な人なのかな?なのかなじゃないな現時点で変な人だな)
(まだ挿入しない…どういうタイムスケジュールのつもり?イケるか?めっちゃ早漏なのか?)
(後背位はゴム外しに注意!)
このような疑いと緊張感で取り組んでいます。それが15分単位で次々と来るので、疲れて心がダンゴムシになってしまうときがあります。
そこに見知った馴染みさんが来てくれるとほっとします。ちょっと会話したり、好きな物を知ってお土産を渡したりもらったり、 こういうやり方が好きなんだなと覚えるたびプレイも阿吽の呼吸になっていき、お互いリラックスして会えるようになっていきます。そんな積み重ねが確実にあり、そこにはたしかに擬似恋愛があるように思いました。
そんなある日、のちに私の極太馴染みとなる男性が現れました。
●父親代わりになりたい
ひと通り終わったところで「ありがとね、こんなおじさんに」と話す謙虚なサラリーマンの方。
まだ時間もあったので肩を揉みながらお話していると「あなた凄くいい子やね。今日は何時までここにいるの?」と聞かれました。
(「店終わったらご飯でも」かな?うまく断れるかな…)
と考えつつ「0時までですよ〜」と答えると「そんな遅くまで大変やね。今これだけしかないんやけど…」と2万円(30分相当額)を渡されました。「僕はもう帰らなあかんから30分休んどき」
この日から、ほぼ毎出勤この方が現れ、一戦交えて残り時間すべて貸し切っておしゃべりになりました。お仕事の都合で19時半頃のご来店でしたので、そこから閉店までの4時間半で18万円です。(私の取り分は9万円。これに加えてチップまで!)
とても有り難い!会社の名刺も渡されて、困ったら頼ってねと言われました。神様かな!
まだ風俗を初めて2か月くらいでしたので(風俗にはこんな人も来るんだなぁ)と思ったり(こんなにいい人で大丈夫かな。いただき女子に吸い尽くされちゃいそうな人だ…)などと相手の心配をしたりしていました。
このようにとても有難かったのですが、反面「来週もいる?じゃあ20時ごろ来るね!」と言ってくれていた別のお客さんのことが脳裏をよぎります。毎回貸切なので何度来ていただいてもお会いできないのです。
せっかく増え始めた馴染みさんはみるみる減っていきました。玄関に座らないので新規客もつきません。
このままだと、この人がいないと生活していけない状態になってしまう。そして、この人がいつまでも私を贔屓にしてくれる保証なんてどこにもない…!
モノカルチャー経済は良くないので出勤日を増やしました。
しかし極太馴染みさんにすぐ発見されてしまい、貸切日が増えただけでした。
ガッポガッポやんけwwwと思われるかもしれませんが、雲行きは怪しくなってきました。
夜遅くまで密室に2人きりで「こんな店は辞めて僕のお金で学費を払いなさい」「性病心配でしょ?」「父親のような気持ちだから安心して」と説得され続けるので、目がダンゴムシになっていました。
「毎月いくらあったら足りる?僕と寝なくてもいいし、会うのが嫌なら振込でもいい。ただお店は辞めてね、そのためだから。」
破格の条件です!
しかし「良い人だな〜」と思った人はだいたい良い人ですが、「凄く良い人だなぁ〜」と思った人は要注意なのが世の常です。私はアホですが疑い深い野生のダンゴムシなのです。
触角の下のつぶらな目を閉じれば、お世話になった方々が浮かびます。高3の頃、公園で勉強するのは大変でしょうと夕食など奢ってくれたやさしいおじさん、いつの間にか横領で逮捕されていてびっくりしました。取り調べで私に脅迫されたと供述したと知り、そのときはとてもショックで悲しかったです。
その2か月後、私を支えてくれた高校の先生、家庭に問題がある私の受験関係書類で便宜を図ってくださり有難かったです。センター試験直前に「実は妻がいて、君とのことがバレたから偽のお別れ手紙を書いてほしい」とのことで文書捏造しあいっこしましたね。
いまだに感謝と侮蔑がごちゃ混ぜです。皆様、お元気でしょうか。(回想終了)
そういうのは10代で卒業しましたので
「私にもし彼氏ができたら、きっと『あんなにお金使ったのに~! 』 って思いますよぉ〜笑。
ふつうに通ってもらえるだけでとっても嬉しいです」
やんわり断ります。
「そんなこと絶対思わないよ。店にいるより勉強時間も確保出来るしいいことしかないでしょ。なにが不満なの?教えて。」
それはそう…。
たしかにそう… 。
全然言い返せません。だんだん、お金をもらった方が相手も嬉しいし♡自分も学費が払えて♡みんなハッピー♡♡なのでは??と考え始めました。
人は一日4時間密室で全裸に正論を刷り込まれると洗脳されます。洗脳されそうなときは服を着た方がいいです。
(父親代わりか…みんなは父親に学費払ってもらってるもんな…甘えてもいいのかもしれない…)
その時です。
「まぁ…そりゃあー…いつか好きになってもらえたら嬉しいけどネッ」
(!!ダメなやつ!!)
顔の良い女は人生イージーといいますが、相手がご厚意なのか好意なのか見分けがつかないのは致命的に人生の難易度を上げています。
「(危ない危ない。)うーん、年も離れてるし恋愛的な好きにはならないと思うんです」
「だから結果的に好きにならなくてもいいってば」
「いやー、それはぁ、まだ信じられないです」
「まぁまだ会って日が浅いもんね。けど会社の名刺も渡したし本当に怪しい者じゃないよ。父親代わりだと思ってくれたらいい。君を幸せにしたいだけだから、僕を信じて」
「私の幸せですか…」
極太馴染みさんは大手会社員でしたが年収と同じくらい株で儲けていました。
「じゃあ、株のやり方を教えてほしいです」
「そんなこと覚えなくても今は大学の勉強をした方がいい。お金は僕が出してあげるから」
模試の国語で読んだ「発展途上国に対してはトラクターを与えるのではなく、トラクターを作れるようにする支援をすべきだ」という話。それが我が身に起きるとはおったまげたなぁと思いました。
そして、(私のことを本当に考えてくれてる人の回答ではなく、私を飼っていたい人の回答なんだよなぁ)と思いました。
気がつくとお金をもらうことがストレスになっていました。この頃のことを思い出すと今でもしんどくなります。
貸切にするのは他のお客さんに上がって欲しくないからで、いわば嫉妬によるものです。
この人のために店を辞めるわけにはいかないし、出禁にするのも違うし、もうどうしていいか分からなくなっていました。
「心配だよ。見てられないから僕と付き合おう」と優しく言ってくれますが、なんで私のためってことになってるの?貴方が付き合いたいのではなく?と思いました。上から目線に感じられるかもしれませんが、横から目線で。
この居心地の悪さはもう親がいた頃と変わんねぇなと思いました。
●憐れ!ダンゴムシの最期
結局「お金をいただくと、借りを返さなきゃとか、好きにならないと申し訳ないって思ってしんどいので、お客さんとして来たいときに来ていただいて喜んで貰うのが1番嬉しいです」
と伝えました。すると
「僕のことが信じられないってことだね。ていうか最初から信じる気なんてなかったでしょ。それは詐欺だよ。今まで君のために無駄にしたお金返してください。◯日◯円、◯日◯円…(中略)合計◯円。こんなこと言いたくないけど君を説得するためにお店で◯◯万円も使ってる。考えさせてって言うから何度もお店に来たんだよ。今日だってそんな返事ならお金かかるし外で話しましょうって普通そっちから言うよね」
私は似たパターンを知っていました。『育てるのにかかった金返してほしい』です。
この人は来たくて来てたわけじゃなかったの?
親は私を育てたくて育ててたわけじゃなかったの?
愛はいつもネガティブオプションです。
ダンゴムシ「いいですよ、振込先教えてください。(でももう後期の学費に使ってしまったので分割でお願いしまーす…)」
対価を払えない人からは受け取らないほうがいい。そういう意味では「育ててやった恩」ほど返済不可能なものはなく、お金くらいは稼げばなんとでもなるのです。孤独に比べたらお金の苦労は大したことではありません。
そんなことよりいつも結果的に周りを不幸にしていることに対して、自分なんてやっぱりいない方がいい気がしてしばらく落ち込みました。けどいつまでもダンゴムシではいられません。飢えるので。
●復活の(出戻りの)ダンゴムシ
再び飛田新地の玄関に舞い戻り座っていると、
「あれ!?いるじゃん!店辞めたのかと思ってたよ!」
とかつての馴染みさんが上がってくれました。
「まだ覚えててくれたんですね〜!!」と半泣きで歓迎しドン引きされました。現実世界では1〜2ヶ月ほどの出来事だったのです。浦島太郎ってこんな感じだったんだなぁと思いました。
「よろしくね!」と部屋に入り、「明日からも仕事頑張れそうやぁ。また来るね!」と帰っていく。
喜んでくれたら自分も社会で役に立ってるなぁとしみじみ思うし、ひとりで生きるにはこれで十分です。
「私さ、若くて綺麗じゃん?あっちも相性いいじゃん?」
「おん?」
「だからお兄さんのこと全力で楽しませるから!💪」
「おおぅw自己肯定感たっかいなwwついでに話も面白いよwいつもいきなりでwww 」
「早速楽しませることができたわ!ww」
「楽しいよwww」
このお兄さんは、この後年単位の細くながーいお付き合いの馴染みさんとなります。よく「猿はオナニーしたあと精子を食べるんやで」といった動物雑学を話してくれるのですが、このときは
「ダンゴムシは物にぶつかると右、左と交互に曲がるんやで」と教えてくれました。
その夜、飛田の片隅でマスターの送迎車を待つ間、私はしゃがみ込んでダンゴムシを指で通せんぼしていました。
「右…左…左…左…右…右あれ?」
ダンゴムシはわたしの指に当たっても行き当たりばったりに避けるだけでした。
「全然ちゃうやん…」
でも、しゃがみ込んで丸まった私より、障害物をよけて進み続けるダンゴムシの方がよほどしっかり生きている気がしました。この先全然わかんないけど進むしかないよなぁ〜と思いました。
初めてメイン通りに座った時の話 につづく
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半年ぶりに書きました。いいねしてくださった方々と感想DMのおかげで戻ってこれました。
この半年の間に2回ほどこりゃ死ぬのでは!?と思うことがありましたがギリセーフでした。癌発見とTwitter垢が知り合い(非風俗)にバレたことです。後者が致命傷です。
これは別にお金にもならないし、単に私の孤独を埋めるための日記なのですが、面白いと言っていただけると私も嬉しいです。
昔、椎名うみさんがインタビューで作品を描くのは人と関わりたいからと話していて意味わからんと思っていましたが今はめちゃくちゃ意味わかります。