初物食いのお客さん
●一見さん上がりまくりの秘訣
モヤモヤを抱えながらも、玄関でニコニコしているとお客さんはガンガン上がってくださいました。裏通りとはいえお店の誰よりも一見さんが上がって、お茶に怯えていた私は自信をつけ始めました。
しかしこれにはマジックのタネがありました。
飛田には、新入りの女の子を好む「初物食い(はつものぐい)」と呼ばれるお客さんがいるのです。(ふつうは季節の野菜や魚に使う言葉なので、風流な言い回しだなぁと思います。)
が、別に新人だからといって表示があるわけでもないのに、初物食いのお客さんはどうやって数百人いる飛田嬢の中から新人を見分けているのでしょう?その見分け方は…
「高頻度で通って全員の顔を覚える」
…常連のお客さんは凄いですね。
新人の表示くらいあってもいい気がしますが、店側も、やり手のおばちゃん達は誰が初物食いか熟知しているので、その人が通るときには特に「お兄さんこの子新しい子!」などと声をかけます。
もちろんおばちゃん全員ができるわけではありませんが、適切にこういう声かけをしてくれるおばちゃんのお店だと上がりは良いです。
●自分のタグ付け
しかし客全員が飛田嬢オタクなわけではないし、性癖がバレているわけでもありません。
ある日、おばちゃんに「新人やでーって今しか言えへんのやし全員にそう言えばいいんじゃないんですか?」と聞くと、「みんなが新人好きなわけちゃうねん。ベテランに筆下ろしされたい男もおるやろ」と返されました。
なるほど風俗の「業界未経験!」「素人女子大生」はあくまでそれが好きな人へのタグ付けであって、万人に好まれる属性ではないのかーと目から鱗が落ちたのでした。
私の売りってなんだろう。どんなタグをつけられるんだろうと考えたとき、胸は小さいし、スレンダーというには単に細いだけで手足が長いわけでもなく、性格はいい方だと思うけど察しは悪いし、あれ?新人って事しかいいとこないじゃん。これは…。
●シロウトの価値は
素人しかウリがないことが判明したので、店に入って2ヶ月くらいは部屋に上がるたび「まだ◯週間くらいなんです〜」と自分から言っていました。
アイスブレイクの話題がほしいのと、不手際があっても許して欲しいでヤンスという予防線でした。
たいてい
客「へーそうなんだ」
私「お兄さんは飛田長いんですかー?」
客「んー2年くらいかなー」
などと流れますが、たまに「まじで?ラッキーじゃん!」と喜ばれることもありました。
そんなある日、50代サラリーマン風のお客さんが上がりました。無事発射してチャイムも鳴り、服を着ているときにこんなことを言われました。
「きみは今までえっちのときにあわあわしてたら初々しくて可愛いって彼氏は興奮したでしょ。でも今は違うよ。お客さんはお金を払ってまで気を遣いたくないから。仕事の疲れをとるために遊びに来てるんだから楽しませるってプロ意識持ちなよ」
自分なりに一生懸命やっていたのでショックでしたが、これは痛いところを突かれたとおもいました。
私はおばちゃんの話を聞いてからもなお心の中で「なんだかんだ男性はみんは初々しいのが好きだろう」と思っていました。それは今までの人生がそうだったからで、お客さんの言うことはまさに図星でした。
しかし、よくよく考えてみると「男の言う”すっぴんが綺麗な子”は、眉毛の無いすっぴんではなく薄化粧した状態のこと」と言われるように、風俗で求められるのは「本物の素人ではなく、初々しくみせるプロ」なのです。今の私はただの素人でした。
また、今までの人生で初々しくて喜ばれていたのは彼女だったからで、店で求められている私は彼女とは似て非なる役割なんだと痛感しました。
やれ綺麗だ可愛いと褒められて楽しそうにいちゃいちゃしていても、それは性的に盛り上げるための調味料で、私の鮮度になんて誰も興味ないのです。カロリーゼロのお菓子みたいな存在です。
そんなことを考えていても心が飢える一方なので、いつもおろおろしている素人の私は「とにかく早くしっかりしないと…!」と思いました。
おじさんに大金もらったらダンゴムシになった話
につづく
いいねを押してくださると携帯にポップアップで通知が出るのですが、それがリアルタイムなので「まさに今読んでくれてる〜!」と思います。①から順に②、③…と一気読みしてくださってる時なんか、誰かと時を同じくしているのを感じて感無量です。ありがとうございます。