映画レビュー:ヤマトよ永遠に(1980)「愛とは信じあうこと」というけれど、作画技術の向上に肝心の作劇が追いつかず、ファンもそれに気づきはじめたのかも
ストーリー
西暦2202年、イスカンダルでの暗黒星団帝国との戦い(「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」)から1年がすぎていた。地球は以前にもまして繁栄していた。パトロール艇の指揮官として火星軌道付近を航行中だった古代進は、地球に向かって進む閃光を観測する。しかしその閃光が過ぎ去った火星基地には生存者はなく、古代は地球に危機が迫るのを感じる。
地球では、婚約者で藤堂司令長官の秘書を務める森雪が待っている。だが謎のロケットから武装した兵士が降下し攻撃を開始。瞬く間に地球は占領されてしまう。そして黒色艦隊の総攻撃が始まる中、司令長官はヤマト乗組員を出動させるべく、古代への命令書を雪に託す。英雄の丘で再会したヤマト乗組員らは、小惑星イカルスに駐在する真田に連絡をとり、高速連絡艇に乗り込んで真田と合流することを決める。しかし地下ターミナルのドームを開けるのに手間取った雪が連絡艇に乗り遅れ、古代と雪は離れ離れになってしまう‥‥
レビュー
手書きセルアニメとしてのクオリティは、もはや最高峰といっていいレベルである。セリフを言う時の口の動き、古代と雪が抱き合うときの仕草、アルフォン少尉の前で崩れ落ちる雪の動きなど、人の動きをトレースしたかのような肉感となめらかさがある。背景も宇宙も、素晴らしい。
だが、その作画技術に見合ったドラマになっているのかというと、そこは微妙と言わざるを得ない。前作「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」で登場した暗黒星団帝国と、今度は本格的な戦いになるが、その前に、平和にイスカンダルで暮らしていたはずの古代守とスターシャの仲を引き裂き、スターシャをイスカンダルもろとも自爆させてしまった展開に、がっかりしたファンも多かったのではないだろうか。宇宙のどこかで地球を見守っている愛の化身のような存在が、失われてしまったのである。初代「宇宙戦艦ヤマト」では、森雪が「ふたりはイスカンダルのアダムとイブね」と言って希望を持たせてくれたにもかかわらず。
とはいえ、西崎プロデューサー曰く、1作目は「戦うべきでなく、愛し合うべきだった」、2作目では「愛するもののために死ねるか?」と、愛について問いかけてきた、その最新作では「愛とは信じあうことだ」がテーマだという。
その意味で、結婚を前にした古代と雪が離れ離れになって、それぞれにその愛を試されるという展開はとてもいいと思うが、「新たなる旅立ち」以降、「そうはならんやろ」とツッコミたくなる設定や展開が目立つようになり、もはやご都合主義なしには成り立たないお話になっていることも、また見逃しようのない事実である。
例えば
わずか1年で2歳の幼児から大人に成長している、古代守とスターシャの娘、サーシャ(地球名:真田ミオ)
一眼見ただけで、暗黒星団帝国が地球に仕掛けた爆弾の正体を見抜く真田(いつものことだが)
司令官を敵兵から守るため、あっけなく自爆死してしまう古代守(1作目に続き、人生で2度目、兄さんは諦めが早すぎないか?)
あの高さから落ちても死なない雪の頑丈さ(それより古代、島に連絡して出港をあと1分でも遅らせてもらえばよかったのに)
40万光年も離れた暗黒星団帝国の母星でスイッチを押すと即座に地球で爆発するという重核子爆弾(地球とリアルタイムで通信もできる)
一介の下っ端技術将校でありながら個人の事情で敵の雪に秘密を教えようとするアルフォン少尉
など、あげていけば枚挙にいとまがない。サーシャの急成長は、イスカンダル星人はそうなのだ、と説明されていたが、40万光年の距離問題については、もはや物理法則を完全に無視しており(光の速さで40万年かかる距離、なのでスイッチを押しても爆発するのは40万年後ではないか?というツッコミはもはや無粋)、結局すべてが、古代と雪を離れ離れにする(そして、またヨリを戻す)ための舞台装置なんだな、と思って納得するしかないのであった。
地球そっくりに偽装する暗黒星団母星というアイデアも非常に面白いが、そうまでしてヤマトを撃退し地球人類を滅ぼそうとする彼らの動機もよく説明されず、最後にアルフォンが撃たれてようやく、彼らがサイボーグであったことが明かされるだけである。舞台装置が大掛かりなわりには、ドラマが薄い、と感じてしまうのだ。なので、全体としてはそれなりに面白いのだが、今となってはやはり、ツッコミなしには見られない、という作品になってしまっている。
おそらくそれは、今だからというわけではなく、映画公開当時からそうだったと思われる。というのは、手元に1980年発行の「月刊OUT 公開直前大特集! ヤマトよ永遠に」があるのだが、この中のヤマトファン覆面座談会で「ヤマトよりガンダムやイデオンの方が、人間関係の描き方が優れている」「ヤマトに期待しているのはメカだけ」 という、醒めた意見が出てきているからだ。
ガンダムやイデオンといった作品の登場で、ファンの作品に対する見方、ドラマに期待するものが変わっていった一方で、作り手が見せたいものと、ファンが見たいものとの間に埋め難いギャップが生まれていることが、伺えるのである。
私が感じたその一つは、女性キャラの扱いだ。古代と雪がなかなか結婚しないのは、おそらく当時の常識では結婚した女性は寿退社するので雪がヤマトに乗ったり現場で戦ったりする場面が描けなくなるという、古い女性観に縛られたアタマの硬さがあっただろう。古代と雪がその愛を試されるなら、なおさら結婚していた方がよかったように思う。
もう一つは、雪という女性がかなりウザくなってきていること。一言でいうと、「古代くん、古代くん」というばかりの、か弱くて頼りないキャラになってしまっていることがある。古代や仲間と離れた雪が、どのように運命に立ち向かっていくか、そこを盛り上げてくれないと、単なるメロドラマなのである(当時のファン座談会でも指摘されていたように)。アルフォン少尉に、私を愛してくれるなら重核子爆弾の秘密を明かす、と取引をもちかけられ、その愛を受け入れる決意をしながら彼の前で泣き崩れる姿は、なんというか、もはや未来のSFというよりも時代劇じみて見えてしまうのである。
私としては、古代守も安直に自爆などさせず、雪と別々に捕えられる中で互いが生きていることを知り、このピンチを切り抜けるために協力する中で、互いに微妙な感情を抱く、みたいなのが見たいと思った。その二人がパルチザンと合流した結果、雪が再びアルフォンと接触して、爆弾の秘密をしるために愛の駆け引きをする、というのが地球側にあると、もっと面白くなったのに。
あと、サーシャは「おじさま」古代進に恋心を抱くが、結局母にならってヤマトを救うために自己を犠牲にしてしまう。何度このパターンをやれば気が済むんだ、この母性に甘えたいだけのマザコンめ!と思ってしまうのだ。ここは、山南艦長(存在が空気だった)や加藤四郎など新メンバーが加わっているのだから、雪とは違ったタイプの女性メンバーを艦橋に入れて、例えば古代と衝突させつつ互いに気になる存在になっていくだとか、そういう別の刺激があった方がよかったのではないか。
とまあ、44年も前の作品にどうこう言っても仕方ないのだが、素晴らしいアニメ技術と、それに追いついていかない作劇とのギャップが目立ち、その、追いつかなかったドラマ部分がシリーズの衰退を招いたのだろうな、と思わるを得ないところがあった。
先にあげた当時のヤマトファンによる覆面座談会では、今回のヤマトはメロドラマみたいだ、という意見に対して「ガンダムなんてのは、随分乾いた作品だったんだけど、ヤマトは最初から、かなりウェットな作品だったからね」という声もあった。だが、ここで私が問題にしているのは、描かれた人間関係がドライかウェットか、ということではない。
例えば最近の映画でも「ゴジラ-1.0」はかなりウェットな印象の作品であろう(それゆえの批判も多い)。だが、そうでなければ描けない、敷島という男の抱えた闇(それは同時に橘の闇であり、生き残ってしまった人々の抱えた闇であった)があったからだ。そしてウェットになることを恐れず、山崎貴監督はそのドラマ性にチャレンジしたと思う。
しかし本作では、離れ離れになった古代と雪が「愛とは信じあうこと」というテーマが見るものの琴線に触れるほどには、果たして信じあっていたのかどうか、よくわからない。信じ合っているのだ、と見るものが感動するためには、その愛は試されなければならないのだが、そこまで踏み込んだドラマを描けなかった、というべきだろう。(例えば、偽の地球が出てくるなら、古代はそこで偽の雪に出会ってもよかったのではないか? 古代くん、私たちの新居が用意してあるのよ、と。それを信じて安心しかけた古代が、いや、そうじゃないと気づくとか。あるいは地球側にいる敵、アルフォン少尉の上官が、古代に対して、雪はアルフォン少尉の元にいて、こちらの味方になった、と嘘の情報を流して心理的に動揺させるとか)
しかし、そういう二人の危機をもはや描き得ないほど、古代と雪というカップルは絶対的になっていたのかもしれない。本作のヤマトは改造されて、非常に強くなっているのだが、そのことも相まって、地球の命運を、自分たちが握っているのだ、という緊張感がほとんど感じられない生ぬるい話になってしまった。
シリーズを衰退させてしまったのは、そういうところにも一つの要因があるのかもしれない。
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