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また1つ、強く頼もしくなった【9/21 対ベイスターズ戦○】

佐藤輝明の打球が、ライト方向へ伸びていく。佐藤輝はバッターボックス上で打球の行方を見つめ―

バットを上に掲げた。


延長10回、佐藤輝のソロホームランが飛び出して再びタイガースがリードを奪った。だが問題はこの後だ。セーブシチュエーションではあるが、J.ゲラも岩崎優も既に登板を終えてしまっている。点差はわずか1点だ。
中盤以降のリリーフ陣の頑張りも、佐藤輝の勝ち越しホームランも、逆転優勝への希望も全て背負って投げることになる。もし岩崎やゲラが投げていた
としても、難しいマウンドになったはずだ。

そんな状況で呼ばれたのは、背番号64の岡留英貴。
ここまで30試合以上に登板しているが、いわゆるセットアッパーとしての起用はない。ましてやプロのキャリアでセーブを記録したこともない。

1点差のセーブシチュエーションってだけでも大変なのに、ベイスターズはの打順は3番の佐野恵太から始まる。4番には前の試合で3ランを放ったT.オースティン、5番にはこの日同じく3ランの宮﨑敏郎。書いているだけでめまいがしてくる。

彼が今シーズン登板したどんな試合よりも大変で、意味のある延長10回の守りが始まろうとしていた。

先頭の佐野が打席に入る。横浜スタジアムのベイスターズファンの声援が再び大きくなったように聞こえた。相手からしたら岩崎でもゲラでもない投手がマウンドに上がっている。「なんとかしてくれるかもしれない」と思うのが自然だろう。

佐野は3球目を打ったが、レフトフライに打ち取った。思っていたより飛距離が出てドキッとしたが、しっかり低めにコントロールされていたボールはフェンス手前で失速した。

岡留は続くオースティンにも徹底してコース低めを攻める。1発ホームランだけはどうしても避けなければいけない状況。今シーズン序盤に見た唸るような威力のボールではないけれど、良い投球だ。
帽子のつばの下から見える岡留の視線が、佐野と対峙したときよりいっそう鋭くなった気がした。緊張か、はたまた覚悟の現れか。

オースティンは外角のスライダーで空振り三振に打ち取った。今度は3塁側のファンが大きく湧いた。このスラッガーを打ち取ることがどれだけ大変か分かっているからこそ、歓声と拍手が大きく響いた。

2アウトを取れたのに、ここに宮﨑がいる。ああ、なんて手強い打線なんだ。
でも、今日の岡留なら。


宮﨑の打球はサード前に転がった。佐藤輝から大山のミットにボールが送られて。最後のアウトが成立した。笑顔で野手陣とタッチを交わす岡留からは、充実感がにじみ出ていた。

今シーズンの岡留はハマスタでの成績が1番悪い。試合が決まってしまう手痛いホームランを打たれたこともあった。リードしていたとはいえ、かなり分が悪い展開だったことは間違いない。
そんな重圧を乗り越えた岡留が頼もしくて、誇張表現でもなんでもなく、涙が出そうになった。


いろんなことがあった試合だった。一時はホームランで逆転されたけれど、そこから再び反撃できた。8回には佐藤輝のヒットで3塁を陥れた大山悠輔が、3塁ベース上で何度も手を叩いていた。
大山があんな風に感情をあらわにしたのを、僕は見たことがない。あのリアクションが、今日の試合にかける思いの全てを表していたと思う。

佐藤輝がヒーローインタビューで語った「誰も諦めていないので」という言葉も、彼の本心から飛び出したはずだ。だって、諦める理由なんて1つもないのだから。

このチームは、まだまだ強くなれる。

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