足りない料理店|#完成された物語
「足りない」
それが店長の口癖だったよ。
売上が足りない、客が足りないといった定番のモノから、従業員、名物メニュー、評判、そして看板娘まで……まったく聞いてるこっちがウンザリしちまったよ。
ある日のこと店長はこう言ったんだ。
「食器が足りない」ってね。
やれやれと思ったよ。
働いているから分かるけど、別に食器が足りなかったことなんて一度もない。他のものだって全部そう……足りないと思ってるだけ。
私はいい加減にウンザリしてつい文句を言っちまった。
「足りないのはあんたの器だろ」ってね。我ながらつまらないジョークだったと思うよ。
そしたら店長はこう返したんだ。
「ふん、お前は愛嬌が足りないけどな」って。
なんだか私はその言葉がおかしくなって笑っちまったよ。
たしかに私には愛嬌が足りない。そして、たぶん他のものもね。
そう、うちの店は足りないものばかりさ。
でも、お客さんのお腹と心くらいは満たせると思うよ。
看板娘としてそれだけは保証しとくよ。
あとがき
410字ちょうどです。
短編や長編で扱うべきテーマと思わなくもありません。なんか最近、”The ショートショート”という作品を書けていませんね……。
変化球を投げすぎると、変化球しか投げられなくなるのでしょうか。
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