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エクソダス症候群|感想・レビュー ★4.5

宮内悠介氏の『エクソダス症候群』を読了したので感想です。

短くまとめると

精神病をメインテーマに扱ったSF作品。

ミステリ的な要素も含んでおり、精神病という重いテーマでありつつもエンタメ作品として完成している。

膨大な参考文献をもとにした文章は、専門用語などが多く難しい内容にもかかわらず、圧倒的に読みやすく、また著者の筆力の高さを再認識させられる。

重く、暗い内容でも問題ないという人には、是非とも読んでほしい1冊。

まえがき

著者の作品は『超動く家にて』、『偶然の聖地』、『盤上の夜』に続いて4冊目です。

概要

本作は火星を舞台にした、精神病をメインテーマに扱ったSF作品です。ミステリ要素も含んでおり、やや重く、暗い内容でありながらもエンタメ作品として仕上がっています。

主人公はとある事情によって、地球から生まれ故郷である火星に移住し、火星で唯一の精神病棟に医師として働き始めます。主人公はそこで様々な問題と向き合いながら医療行為を続けますが、それと並行するようにして謎が動き出します。

火星が舞台であるものの、”宇宙SF”としては非常にライトなので、そこに期待するとちょっと違うと感じるかもしれません。

感想

前回の『盤上の夜』の感想・レビュー記事でも感じたことですが、氏の作品の感想を書くのはなんとも難しく感じます。

本作は『盤上の夜』に比べると、ずっとエンタメ寄りに仕上がっており、全体を見ればエンタメの王道のような構成にも感じられるのですが、単純に「面白かった!」という感想には落ち着かない気がします。

私は本作を初読後、続けて2回目を通して読んでしまいました。

このように書くと、多くの読書家の方は「なるほど、叙述トリックが仕掛けられていたのだな?」と予想するかもしれません。

しかし、本作はそういった二度読みさせられるような仕掛けが用意されているわけではありません。単純に、私が1回読んだだけでは消化が不十分だと感じたためです。

膨大な参考文献によって描かれた文章は緻密で、現実と物語の境界が分からないレベルでした。2回目はインターネットで実際にあったことなのか調べつつ読んでしまったほどです。

そうした史実や現代の状況についての描写は、精神病という病に対する治療、そして社会のあり方について深く考えさせられる内容でした。ある種、哲学的なテーマも含んでいるようにも感じました。

このように書くと、読みづらい文章が羅列されているような印象を与えるかもしれませんが、これがどうして信じられないほどスラスラ読める文章に仕上がっており、やはり著者の筆力は圧倒的だと思います。

重く暗いテーマのエンタメ作品でも大丈夫という方には、是非とも読んでいただきたい1冊です。

圧倒的な筆力

ところで、今回も宮部みゆき氏は絶賛していたようです。

「宮内悠介は、やっぱり超新星だ」

文庫の帯より

たぶん、宮部みゆき氏は宮内悠介氏のファンなのだろうなと思います。

しかしながら、本当に氏の筆力は次元が違うと感じざるを得ません。それは、繊細な味わいを愉しむ懐石料理に似たところがあると感じます。

小説に限らず、昨今のエンタメ作品は、どうしても同じような味わいになりがちだと感じているのですが(それを”ファストフード”と呼ぶことは避けますが)、本作はエンタメ作品として仕上がっていながら、独特の読書感・読了感をもたらすものだと感じます。

現代の精神医療の課題

作中でも触れられていますが、現代のメンタルクリニックでの治療は”多剤大量処方”、そしてそれを安易に行う医師が非常に問題になっていると感じます。

例えば、本作のプロローグでは以下のような描写があります。

人と機械で診断が食い違うことはまずない。あるとすればヒューマンエラーだ。たとえば、見立て違いや予断や心証。

医師たちは自らの診断を、皮肉をこめてセカンドオピニオンと呼ぶ。

これは遠回しに、現代のメンタルクリニックの医療を批判しているようにも感じられます。

薬を服用する上で”副作用”という言葉を知らない人はいないと思いますが、昔に比べてずっと安全になったと言われるメンタル系の薬であっても、膨大な副作用のリスクを抱えている、という事実を知っている人は少ないのではないでしょうか。

中には、臨床実験において”自殺リスクの増加”が言及されている薬もあり、それはもはや患者にとって”毒”になりうるにも関わらず、非常に安易に処方されているのが現状です。

個人的に、そうした現状が少しでも改善されることを改めて期待したいと改めて思いました。

あとがき

なんだか、相変わらずよくわからない感想・レビュー記事になってしまいましたが、どなたかの参考になれば幸いです。

―了―

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