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盤上の夜|感想・レビュー ★4.0
宮内悠介氏の『盤上の夜』を読了したので感想です。
短くまとめると
囲碁・チェッカー・麻雀・将棋などのボードゲームの知識が無いと、十分に楽しめない側面もあるが、それでも読む価値がある短編集。
著者の圧倒的な筆力による文章は、純文学的な美しさも内包しており、読書好きには特におすすめしたい一冊。
まえがき
著者の作品を読むのは『超動く家にて』、『偶然の聖地』に続いて3冊目です。
感想
本作はボードゲームを題材とした6つの短編集からなる作品です。
盤上の夜(囲碁)
人間の王(チェッカー)
清められた卓(麻雀)
象を飛ばした王子(チャトランガ)
千年の虚空(将棋)
原爆の局(囲碁)
『第33回 日本SF大賞』を受賞しており、かつ『創元SF』から出版されていますが、SFっぽくはない作品かと思います。あえてジャンル分けするならばSFに落ち着く、くらいの感覚かと思います。
囲碁・チェッカー・麻雀・将棋などが登場するのですが、わりと深い知識が要求される場面が多くあり、それなりに精通していないと本書を100%楽しむのは難しいと感じました。
しかし、それでも圧倒的な筆力による文章は純文学的な美しさを秘めており、読書が好きな人間ならば知識が足りなくても最後まで読み終えてしまうかと思います。
*
『偶然の聖地』のレビュー記事でも書きましたが、宮内悠介氏の筆力は眼を見張るものがあると改めて感じました。これがデビュー作とは信じがたいレベルです。
文庫の帯にて、宮部みゆき氏もべた褒めしています。
宮内さんの筆致は、さながら顕微鏡のようです。それも、既存のものを拡大して見せることで新しい美を発見させるのではなく、今まで誰も見たことがなかったものを拡大し、精密に見せることによって、そこに普遍の美が存在していることを知らしめる、そういう顕微鏡です。めったにない資質と技量で、羨望を覚えました。
私も似たような印象を持っており、文章のレベルが他の作家から頭一つ抜けていると感じます。本当に美しい文章とは何か、純文学とは何か、そういったものに気付かされる思いです。
*
本作はいわゆるエンタメ性の高い作品ではありません。なので、ベストセラーなどの売れている小説とは少し毛色が違い、読み終えて「あー、面白かったっ!」という読了感に浸る作品ではありません。
文章はかなり淡々としており、(エンタメ作品に見られがちな)読者の感情を急激に動かそうとするような描写も少ないと感じます。それなのに自然と読み進めてしまう……この読書体験は不思議なものです。
あとがき
うーん、この小説の感想・レビューを書くのは難しいですね……多くの小説は「これ面白いから読んでっ!」という感覚で書けるのですが、本作はそういう”面白さ”とは別のベクトルの”面白さ”だと感じます。
とにかく繰り返したいのは著者の圧倒的な筆力です。正直、これほどの才能を持った作家って殆どいないのではないでしょうか……これは技術や努力でどうこうできるレベルを超えていると思います。
次は氏の『エクソダス症候群』を読んでみたいと思っています。
―了―
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