更地より、建物ある方が税金安いんです

本多昭さんは、昔、単協(単体の農協)だった頃に理事をされていた本多重雄さんの息子さんで、ほうれん草の栽培、出荷をしている。

うちの多呂精支店は、30年以上前に合併が進んで、今は1つの支店の規模になってしまったけれど、その前は市単位、更にその前は1つの支店の建物で、1つの農協として存在し、組合長や副組合長、専務や理事が大勢いた。

昭さんは40代後半で専業農家。

管内では数少ない若手だ。

お父さんの重雄さんがもっと活発に働いていた頃は、駅の近くに持っている土地も全てを使って、今の倍近い生産を行っていたらしい。

重雄さんは元気ではいるけれど、今は収穫したほうれん草のFG作業が中心で、昔ほど活発には働けなくなったそうだ。

自宅周辺の畑だけでほうれん草の栽培を行い、駅の近くの畑は駐車場として貸していたり、梅とか栗の木が所々植えられている状態になっている。


最近、アパートやマンションの建設メーカー大手の某社が、駅周辺の地主さんに頻繁に建設の営業に回っている。

今日、野菜部会の手紙をお届けしたら、長いゴム製エプロンと白長ぐつを履いた昭さんが、カゴの洗浄をしている手を止め、話しかけてきた。

「最近しつこく何とか建設コーポレーションとかって営業が来るんだけどよ、他の家とかで同じような話、聞かねぇ?」

「たまに聞きますね。最近になって特にに多いとかではないですが」

「なんか、会社は同じなのに、来る営業の人間は違うんだよ」

昭さんはちょっと疲れ気味に言った。

前に他の支店の渉外から聞いた話を思い出す。

「農協とかって地域の受け持ちとか管轄が決まっていますが、会社によっては契約さえ取ってこれれば、どこに訪問しても良いっていう会社もあるみたいですよ」

「うちが駅の南っ側に土地持ってるって、どこかで調べてくんのなぁ」

「地番が分かれば法務局で所有者を知れますし、インターネットの利用契約をしていれば、会社のパソコンで調べてしまえますからね」

「あー、やっぱそうなのか。でも金払うんだろ?そういうの」

「千円もしませんし、ネットなら2・3百円で取れたはずですよ」

「そうやって向こうは儲ける相手を探しているんだな」

ひとり納得し、それから何度もいろいろな営業が来て同じ話をしているみたいで、うんざりしたように続けた。

「土地に建物を建てて、それで節税対策って言って・・・・

建物が建ったら、その分資産も増えるし、固定資産税も高くなるじゃねぇかよ。なぁ」

同意を求められた。

でも、その営業の人たちの肩を持つわけじゃないけど、ちょっと違っていたので補足をさせてもらった。

「建物が建つと、そこの土地は固定資産税が安くなるんですよ」

「そうなのか?」

昭さんは言葉とは裏腹に、そんなに意外そうな表情はしていない。

たぶん、僕の知識を試しているのかもしれない。

「何平方メートルまでだったか、面積は覚えていませんが、土地の固定資産税が6分の1にまで減るんです」

「でも、その分、新しく建った建物の固定資産税が増えるんだろ?」

「そうです、そうなんです。でも、建物の評価は、固定資産税の計算方法では、建てた金額の6割くらいなので、建物の大きさにもよりますが、そこまで固定資産税の負担が増えるって訳ではないんです」

「なんか色々あるんだな」

ちょっと話を細かくしゃべり過ぎたみたいで、昭さんはそれ以上はつっこんで聞いてこなかった。

おそらく、営業の人の話がどれくらい本当なのか、確認してみたかったのだと思う。

個人的には賃料収入とか、減価償却費とか、相続時の節税効果とか、まだまだ話し足りなかったけど、仕事の合間の雑談だったので、具体的な話はできなかった。

今すぐには動くつもりは無いみたいだ。

僕が担当から外れる時、後任の人には可能性があることだけは、伝えておきたいと思った。

間に農協が入れれば、他社の相見積もりを取って、組合員さんがより良い条件で話を進められるようにサポートできるかもしれない。

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