#22-S 不安なときは危険を感じやすい
Robinson, O.J., Charney, D.R., Overstreet, C., Vytal, K., & Grillon, C. (2012). The adaptive threat bias in anxiety: Amygdala–dorsomedial prefrontal cortex coupling and aversive amplification. NeuroImage, 60, 523-529.
不安には適応的な意味、すなわち生きていく上でのメリットがあります。不安な気持ちで行動することで、危険を回避できることもあります。暗い夜道を恐る恐る歩くことで、影に潜む不審者にいち早く気づく、など。
そのような「適応的な脅威へのバイアス」の神経基盤を発見したよという論文です。早速実験内容を紹介。
実験では、安全条件と不安条件を用意し、各条件下で表情判断をさせました。条件の操作の仕方が面白い。研究参加者に「ビクビクして」「リラックスして」と言ったところで絶対にその通りにはならないので、不安条件では課題中のランダムなタイミングで電気刺激を足にビリっとすることにしました。いたい。安全条件ではそのような暴挙はせず、ただ課題をやってもらう。条件は課題ブロックが始まるときに提示されるので、実験者の望み通りに参加者は実験中ビクビクしたりホッとして課題をこなしたりしました。
表情判断課題は、目の前のモニターに喜びが溢れている笑顔(happy face)か恐怖に歪んでいる顔(fearful face)のいずれかが提示されるので、できるだけ早くどちらかを答えるもの。仮説は、不安条件では適応的な脅威へのバイアスが働くため、恐怖顔の検出が早くなるだろう、というもの。ちなみに恐怖顔が脅威なのはこの分野では常識的な話で、恐怖顔というのは他者に危険が迫っていることを知らせるシグナルでもあるので、他の個体の恐怖顔というのは自身への危険が迫っていることも含意するのです。だから恐怖顔は観察者にとって脅威なのです。実は著者らは行動的にこの「適当的な脅威へのバイアス」があることを先に報告していて (Robinson et al., 2011)、行動データについては再現(先の報告の結果を繰り返し確認してその信頼性を示すこと)を目的としていました。
実験の結果、仮説通り、不安条件下の恐怖顔で反応が早くなりました(図1)。つまり、ビクビクしているときには脅威となる刺激である恐怖顔の検出感度が高くなっているということです。
また、課題中の脳活動について、恐怖感情に最も深く関わる扁桃体という領域に着目したところ、DMPFCという部位との結合が不安条件下で恐怖顔を見たときに上昇していたとのこと(図2)。
解釈として、不安な状態のときはDMPFCが恐怖反応に重要な扁桃体の活動をトップダウン的に調整して、反応の様相を変化させ、脅威バイアスを生み出しているのではないか、と記されています。
ただ、これは「適応的な」バイアスなんだけど、日常の不安傾向が高い人ほど、この領域間の結合が高くなっていたこともわかったようで、DMPFCの過剰な振る舞いは病的な不安につながりかねない、としています。過剰な反応が病気に繋がるというのはよくある話ですね。癌とか、アレルギーとか。
できるだけ簡単に書いたつもりですが、書いててちょっと難しかったかなと反省…。脳の部位名とかが出てくるとだめだね。テーマ選びが悪かったか…。
まとめ
不安を感じている状態だと脅威刺激の検出が早くなる。簡単にいうと、不安なときは危険を感じやすい。その神経基盤は、扁桃体とDMPFCの結合性の増強である。