ショート「伝説の大貝獣カタツムリン」
私はナメクジ。あの夏の日、私の身に起こった信じがたいお話をいたしましょう。
その家のコンクリートは、カルシウムと水分量のバランスが絶妙なので、よく足を運んでいました。こうみえて、私はナメクジ界でも有名な美食家なのです。豊富なミネラルを含んだコンクリートは、抜群の歯ごたえで、にじみ出る水分は、時として気分も高揚する最高の美酒になるのです。
この場所だけは、他メクジにも教えたくない秘密の穴場なのよ。
でも人間は、私たちのことを毛嫌いしているのです。通りがかる多くの人は、私たちを見て見ぬふりをするけれども、まれに、真っ白なキラキラと輝くクリスタルをたくさん投げつけてくる。私の父は、この結晶に埋もれて縮んでしまいました。
父メクジの最後の言葉は「しょっぱい・・・あれには気をつけろ・・・。パタッ」だったわ。
近くにいて一命を取りとめた兄メクジは「あの粒、けっこう痛いんだぜ。体に触れると水分が吸収されちまって、へたすると息も途絶えちまう。ちくしょう、父さんのことを思い出すとやりきれないぜ・・・ぐすっ」
私たちの体は90%が水分でできています。だから涙もろいのです。だけど私は決してくじけない。人間に対する恨みをもってはいけない。むしろ同じ地球に住む者同士、共存の関係を築きたいのです。
そんなことを思いながら、食事を終えた私は、次にデザートの葉っぱを食すために、家の庭にヒョコヒョコ向かっていました。その時でした。太陽の光をさえぎる大きな影が、私の足元を通り過ぎたのです。何かが空を飛んだようでした。異変を感じた私の仲間たちは葉っぱの陰から顔を出し、また、兄メクジも空を見上げて青ざめていました。
そんな様子などおかまいなしに、私たちを見つけた人間の男の子がいました。「あっ、ナメクジがたくさ~ん!」。その子の母親は、まるで、湧いて出たかのような、何匹もいる私たちに嫌悪感を抱き、家の中から「塩」を持ち出して、私たちに向かって振りかけようとしました。そう、空中に浮遊する物体にも気づかずに。
他の人間たちが、次々に言葉を発したのです。「おい、空を見ろ!」「何か浮いてるぞ?」「もしかしてUFOじゃない?」。見上げると、それは、まさしく、未確認飛行物体・UFO!(ひゅんひゅんひゅん)
あの大きな影は男の子ではなくて、UFOだったのです。
人間とUFOに囲まれた、ナメクジの運命やいかに!?
空中を漂っていたUFOは彼らの真上に移動して、怪しい光を地面に向けて照らしました。その光に次々と吸い込まれるナメクジたち。人間の男の子も足をバタつかせて助けを求める。しかし母親は、塩の塊を手にしたまま、大きな口を開いて唖然とUFOを見つめるばかりでした。
UFOは地球の生物をもろとも捕まえて食糧にするつもりだったのです。
男の子「たすけて、たすけて!」
私は恐怖と緊張で体が震えました。「このままじゃいけない、みんなやられちゃう!」
そんなとき私の脳裏に直接語り掛ける声がしたのです。
縮んだ父メクジ『娘よ、おまえの背中には小さな石が付いている。卵から孵ったおまえを見たときは、我が目を疑った。それは、おまえに危機が迫ったときに必ず役に立つものだ。さぁ、その石に触れるがよい!』
これかな? ポチっとな・・・・(じゃじゃーん)。
ところが、ここから先の事は、私自身、あまりよく覚えておらず、後に兄メクジが語ってくれたことです。
私の背中の小さな石は、みるみる渦を巻いた貝殻のように大きくなり、それと共に私の体も巨大化したそうです。
兄メクジ「そんな、まさか! 父さんが言っていた、伝説の大貝獣カタツムリンは、おまえのことだったのかっ!」
巨大化した私は本能のおもむくまま、ナメクジたちと、人間の男の子をUFOから助け出しました。そして、背中の貝殻に蓄えられたミネラルを使って、カルシウム光線を放ったのです。
(カルシウム光線ビーム・・・→ちゅど~ん)
エネルギーを使い果たした私は元の大きさに戻って、そのまま、その場に倒れこみ、そして人間の男の子に助けられたそうです。
兄メクジ「やったな、妹よ」
何が起こったのか、わからず仕舞いでしたが、結果、地球に平和が戻ったということです。
男の子「カタツムリン! 助けてくれてありがとう!」
気をよくした私は、「お兄ちゃん、いい場所を教えてあげる。カルシウムがとっても美味いんだよ。」 そういって、兄メクジと他メクジたちを引き連れ、夕日に向かって歩き始めました。
例の人間の男の子が母親に訊ねました。「ママー、ナメクジの背中に貝殻を付けたらカタツムリなの?」。母親は優しい口調で「どうなんだろうね、おうちに帰ったら調べてみましょう」「はーいっ!」。そして人間の親子は、私たちに手を振り、家に帰っていきました。