「相談センターの人は40年間で2000体ものガンプラを自作」あなたの知らないガンプラの世界『ガンプラはなぜ40年も売れ続けているのか?』
【レビュアー/兎来 栄寿】
こんにちは、マンガソムリエの兎来栄寿です。好きなMS(モビルスーツ)はジムⅡとデナン・ゲーとストライクフリーダム、特に好きなガンダムは「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」と「機動戦士ガンダムUC」です。
学生時代に派遣の仕事をしていた時、出向先にとても怖い先輩がいました。年齢もかなり離れており、雑談を振ってみてもそっけなく常に仏頂面で取り付く島もない感じの方でした。しかし、ある日の昼休み、その先輩が同僚の方と
「昨日のガンダム観ました?」
という雑談をしていました。この方、ガンダム観るんだなあと意外に思うと共に、意を決して
「一番好きなMSは何ですか?」
とたずねてみると、若干はにかみながら
「……ウイングガンダムゼロカスタム」
と応えてくれました。その言い方により、この方は「作る方」だ! という確信も生まれました。案の定、話を聞いてみると家にはゼロカスタムのプラモも鎮座しているとか。その後、その先輩ともガンダムネタを通じて仲良く接することができるようになりました。ありがとう、ガンダム。
「美しいな……」「はい、とても美しゅうございます!」美しさにかける開発の凄さ。
今回紹介する『ガンプラはなぜ40年も売れ続けているのか?』は、3年前に発売した『ガンプラはなぜ37年も売れ続けているのか?』を増補・改訂したものです。
元々の内容だけでもビジネス的な示唆に非常に富んでいるのですが、加筆された部分に現代を生き抜く上でとても大事で本質的なことが描かれているので改めておすすめしたいです。
本書は、「営業」「設計」「プロモーション」「生産」「相談センター」「企画」「金型」など、ガンプラに関わる様々な職種の方が毎話登場し、自分の仕事やガンプラにかける想いについて熱く語ってくれるという形になっています。そして、単行本ではその幕間で内容に応じて普遍的なビジネスに通ずるコラムが挟まれます。
「100kg〜1tにもなるパーツ成型のための金具を職人が顕微鏡で見ながら1/1000mm単位で目と感覚に基づいて手作業で調整している」
「PG(※パーフェクトグレードの略称。製作時点での最新鋭技術を投入した最高品質ブランド)のガンダムは、合わせ目を目立たせないためにパソコンのCADによるデジタル作業ではなく手描きの二次元の図面によって設計された」
「相談センターの人は40年間で2000体ものガンプラを自作し誰よりもユーザー目線に立っている」
などなど、驚くべきガンプラの裏側が続々と登場します。ガンプラというものががいかに情熱を持った関係者に支えられているか、ガンプラのクオリティがどうやって生み出されているのかが非常によく解ります。
「顧客がいるからでしょ!」「純粋に仕事を楽しむ者こそ!」関係者が一緒にガンプラを楽しんでいるからこその出来栄え!
どの部署の人にも共通しているのは、常に根底には顧客へ向けた目線があるところです。どうやったらお客様がもっと喜んでくれるか、ということへの飽くなき追求。それはビジネスの真髄に他なりません。
そして、関係者の誰もが自社のプロダクトを愛し、楽しみながら誇りを持って仕事をしていることもまた素晴らしい点です。ある程度のキャリアを重ねた元々門外漢の女性すらも、自分でガンプラを作ってみることでその楽しさと大変さを体感してお客様と同じ目線で話せるそうです。
ただ、ガンプラは素晴らしい製品ではありながらもある時期までは国内人気が中心で海外への訴求力は今一つでした。そうした時に、その状況を打破すべくグローバルマーケティングチームがどういった施策を行ったかというところも非常に学びがあるポイントでした。決して奇抜な発想ではなく、むしろ極めて地道な手段で世界中にガンダムとガンプラ文化を根付かせていくその正道にこそ強さを感じました。
「この本は……いいものだ!」この本を読むだけでまずは買ってみたくなる!
ガンプラというものが、どれだけ長期的な未来を見据えた素晴らしいビジネスなのかが解ります。どんな分野でどんな仕事をしている人でも、このチームから学べることは必ずあるでしょう。
本書を読んだら、お台場にあるガンダムベース東京に行って圧倒的な知識を持つスタッフの方と談笑しながら魅惑的な箱を手に取りたくなりました。結局積むことになってしまいがちですが……本もガンプラも積むことにも意味があると思う宗派です。
ところで、かの有名な『孤独のグルメ』の名言はガンプラにも当てはまる気がします。
「ガンプラを作る時はね、誰にも邪魔されず
自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ
独りで静かで豊かで・・・」