表現の自由とは何か。現実でも起こり始めている「規制と検閲」を考える副読本『図書館戦争 LOVE&WAR』
【レビュアー/bookish】
最近北米の漫画関係のニュースで、米国の一部の州の図書館や学校カリキュラムから特定のテーマを扱う書籍やグラフィック・ノベルを取り上げることが「禁止」されているという話を見ました。それで思い出したのが『図書館戦争LOVE&WAR』(弓きいろ/有川浩/白泉社)です。ハードなSFとドロドロに甘い恋愛漫画という2つの顔を持つ傑作です。
北米の出版市場でいま話題になっているトピックのひとつが、「マウス」というホロコーストを扱ったグラフィック・ノベルがテネシー州の学校の一部でカリキュラムから「除外された」というものです。
もちろん書店や一般の図書館では手に取れるわけで、完全にその地域で禁止されたわけではないのですが「特定の書籍へのアクセスが難しくなるって覚えがあるな」と思い出した作品が『図書館戦争LOVE&WAR』でした。
表現の自由のために戦う武装組織
図書館戦争は有川浩先生の小説が原作で、舞台は2019年の架空の日本。人権を侵害する表現を規制するための「メディア良化法」が制定されている世界で、テレビや書籍などあらゆるメディアへの監視権を持つメディア良化委員会が発足。委員会によって不適切とされた創作物は、その執行機関よる検閲を受けており、この執行が妨害されるときは銃など武力も使われます。
こうした表現の自由を制限する検閲に対抗する組織がなんと図書館。主人公らはこの図書館が持つ武装組織に所属しています。有川先生は「図書館は資料収集の自由を有する」などの「図書館の自由宣言」を見てこの小説の構想を思いついたそうです。
作中ではメディア良化委員会が「不適切」として市中の書店や図書館から「回収」しようとする書籍をめぐり、良化委員会と図書館側の激しい抗争が繰り広げられます。図書館が購入した書籍を委員会が「回収」しようとして激しい防衛戦が起きることもあります。
さらにはテロリストが起こした事件と同じような小説を書いた小説家の、小説を発表する自由が侵害されそうになるという事件も発生。シリーズ全体を通じていかに表現の自由というものがもろく、様々な人が制限したくなるものなのかを実感できます。
本作で「検閲」をするのは日本政府なのですが、私達の生きる現実のニュースを見ているとむしろ「検閲」をしたがっているのは一般市民です。こうした市民の間の「監視」は国家による検閲ではないので、憲法などでも保護しにくい。
今回冒頭で紹介したニュースはアメリカの事例ですが、日本でも起きうるのではないかと、図書館が好きで図書館の読書体験に育ててもらった身としては気が気ではありません。別に『図書館戦争』のように武器を持って立ち上がる必要はないかもしれませんが、今後は自分の好きなものがなぜ多くの人の目に留まるようにする必要があるのかを言語化して伝えていくことが求められるのかもしれません。
組織があれば恋愛が起こる!
ハードなSF的側面を持ちながら白泉社の雑誌「花とゆめ」でコミカライズされたということもあり、恋愛要素も同じぐらい大きな部分を占めています。
子供のころに自分を助けてくれた王子様へのあこがれ、優秀で気が強い二人の背中合わせの恋、庇護欲を誘う少女が大人になるのを見守りながら育まれる恋、主義主張の対立で別れたけれども最期は一緒にいたい相手への思いーーどのカップルからも幸せしか感じられません。小説版はもちろん、漫画ではふとしたときに相手を見守るキャラクターの表情が描かれ、「ああ、糖度が増しているな」と思います。
難しいことを考えすぎて、頭をドロドロに溶かしてリセットしたいというときにもおすすめです。
社会を考えさせるSFが好きな人も、いろいろな恋愛模様を楽しみたい人も是非読んでみてください。