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『群盗』完全版

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シラー『群盗』の完全版を順次公開します!
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『群盗』四幕五場

『群盗』四幕五場

第四幕
第五場

  後景に森が続く。夜。中央に古く朽ちた城。
  盗賊たちが野営している。歌う。

盗んで、殺して、女とやって
取っ組み合うのもただの気晴らし
どうせ明日は絞首刑
楽しく過ごそう今日ぐれぇ
自由にやるのが俺らの人生
充実してるな俺らの人生
眠りにつくのは森の中
狩りに出かける嵐の中
夜空の月が俺らの太陽
メルクリウスが俺らの相棒
盗みにかけちゃプロはだし

坊主にたかった次の日は

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『群盗』四幕四場

『群盗』四幕四場

第四幕
第四場

庭。

アマーリア   泣いているのか、アマーリア? ――そうおっしゃった時の、あのお声、あのお声――生きとし生けるものが皆、ありし日の姿に戻ったような――楽しかった恋の春が徐々に明けていくような、あのお声! あの頃のようにナイチンゲールが鳴いた――あの頃のように花の香りがした――私は夢見心地であの方にすがりついて――ああ! 不実で、不誠実な私の心! 偽りの誓いで取り繕おうという

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『群盗』四幕三場

『群盗』四幕三場

第四幕
第三場

城内の別の部屋。
盗賊モーア、ダニエル。

モーア   (あたふたと)君、アマーリアお嬢様は......

ダニエル   旦那様! どうか哀れな男の願いをお聴きくださいませ。

モーア   構わないが、どうした?

ダニエル   多過ぎは致しませんが全てでございます、大したことがないように思えて、実のところ大したことなのでございます――お手に口づけをさせてくださいまし! 

モー

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『群盗』四幕二場

『群盗』四幕二場

第四幕
第二場

城のギャラリー。
盗賊モーアとアマーリアが現れる。

アマーリア   あの方の肖像画を見つけると仰いました? これだけの絵画の中から?

モーア   ええ、勿論。あの方は私の中で生き続けています。(ある絵を一周して)これは違いますね。

アマーリア   正解! ――こちらは伯爵家のご先祖様です。海賊征伐の功績により、皇帝バルバロッサから爵位を授けられました。

モーア   (引き

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『群盗』四幕一場

『群盗』四幕一場

第四幕
第一場

モーアの居城を囲む田園地帯。
盗賊モーア。コジンスキーは離れたところにいる。

モーア   先に行って、俺の訪問を伝えてくれ。段取りは覚えてるな?

コジンスキー   団長はメックレンブルクのブラント伯、私はお仕えする馬丁で――ご心配には及びません、役割をしっかり演じます。それでは! (退場する)

モーア   ただいま、故郷の土よ! (大地に口付ける) 故郷の空! 故郷の太陽!

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『群盗』三幕二場

『群盗』三幕二場

第三幕
第二場

ドナウ周辺。
盗賊たちが小高い丘の木の下で休んでいる。遠景では馬が草を食んでいる。

モーア   ちょっと横になるか。(どかっと寝転ぶ)脚が棒だ。ベロが乾いてザラザラする。(シュヴァイツァーが気づかれないように姿を消す)誰か、川から水を汲んで来てくれねえか、手に一杯でいい、って、お前ら全員、死にそうだな。

シュヴァルツ   ワインも飲み切っちまった。

モーア   おい見ろ、穀

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『群盗』三幕一場

『群盗』三幕一場

第三幕
第一場

アマーリアが庭でリュートを演奏している。

天使の如く美しき君、ヴァルハラの歓喜に満ち
若人の輪にありて、誰よりも麗し
この世ならぬ柔らかな瞳、春に輝く太陽を偲び
青き海の鏡に照り返す
君に抱かれるは――狂おしき喜び!
力強く、燃え盛り、胸打つ想い
口を、耳を塞ぐ――眼前は闇の中――
ああ、魂は螺旋を描き、天へのぼる

君の口づけは――楽園の心地!
二つの炎の如く捕え合い、竪琴の

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『群盗』二幕三場(後半)

『群盗』二幕三場(後半)

第二幕
第三場(後半)

神父、登場。

神父   (独白、たじろいで)こ、ここが竜の住処というわけですか? ――失礼しますよ、皆さん! 私は教会に仕える者です。周辺には千七百人が立ち並び、私のこめかみにかかる髪の一筋までも監視しています。

シュヴァイツァー   ブラーヴォ! ブラーヴォ! 腹ん中をあっためとくために、上手いこと言ったな。

モーア   テメエらは黙ってろ! ――手短に頼みますよ

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『群盗』二幕三場(前半)

『群盗』二幕三場(前半)

第二幕
第三場

ボヘミアの森。
シュピーゲルベルク、ラツマン、盗賊たちの群れ。

ラツマン   マジかよ? いつぶりだよ? 心の兄弟モーリッツ、よく来たな! ボヘミアの森へようこそ! なんかお前、デカくなった? 強くなったんじゃねえ? これが星十字大隊か! すげえ数の新人じゃん、やるなあ!

シュピーゲルベルク   だろ、兄弟? さすが俺だろ? もちろん頼れる奴しかいねえよ! ――信じねえだろう

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『群盗』二幕二場

『群盗』二幕二場

第二幕
第二場

老モーアの寝室。
老モーアは安楽椅子で眠っている。アマーリア。

アマーリア   (ソロソロと寄ってきて)シーッ、静かに! うたた寝をしていらっしゃる。(眠る老モーアの前に立つ)なんて美しく、気品に溢れていることでしょう! 絵の中の聖者のよう――できない、恨むなんて! 穏やかに眠り、朗らかに目を覚ましてください、私はあちらへ行って、一人で苦しんでおります。

老モーア   (まど

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『群盗』二幕一場

『群盗』二幕一場

第二幕

第一場

フランツ・フォン・モーアが自室で考え事をしている。

フランツ   幾らなんでも長くかかりすぎだろ――医者によると、あいつは持ち直したらしいからな――あのジジイ、永遠に生きるつもりか! ――自由で平坦な道がとっくにはじまっていたはずだ。あの腹立たしい肉の塊が、幽霊の物語に出てくる地獄の魔犬と同じように、宝へ至る俺の道筋を邪魔してやがる。

俺の計画が鉄のくびきに従わされるいわれ

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『群盗』一幕三場

『群盗』一幕三場

第一幕第三場      

モーアの居城。アマーリアの部屋。
フランツとアマーリア。

フランツ   こっちを見てくれないのかな、アマーリア? 父上が呪った兄上よりも、僕は価値のない人間というわけですか?

アマーリア   出て行って! ――ああ、なんて愛に溢れた優しい父親でしょう、血の繋がった息子を狼と野獣の巣喰う森の中でお見捨てになるなんて! ご自分はお屋敷の中でぬくぬくと羽布団にくるまって老

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『群盗』一幕二場

『群盗』一幕二場

第一幕第二場

ザクセン国境沿いの酒場。
カール・フォン・モーアが読書に熱中している。  
シュピーゲルベルクは机の近くに座り、酒を飲んでいる。

モーア   (本を置いて)プルタルコスの『英雄伝』を読んでると、インクで汚れた今の時代にムカムカしてくんな。

シュピーゲルベルク   (カールの近くにグラスを置き、自分も飲みながら)じゃあ、ヨセフスを読めよ。

モーア   赤々と燃えるプロメテウスの

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『群盗』一幕一場

『群盗』一幕一場

『群盗』
Die Räuberフリードリヒ・フォン・シラー
Friedrich von Schiller

  Quae medicamenta non sanant, ferrum sanat,
quae ferrum non sanat, ignis sanat. 

  薬で癒せないものはナイフが癒す、ナイフで癒せないものは火が癒す、
  火でも癒せないものは、治療不可能とみなしなさい

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