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NO.60 原節子の「怖い顔」


小津安二郎監督の『東京物語』(昭和28年、リマスター版)を観る。

この映画は何度か観ていて、ほとんどのシーンを覚えているように思っていた。

しかし、今回、原節子演じる紀子が東山千栄子演じる義理の母の葬儀を終えた後の例の有名な「わたしずるいんです」のシーンの後、尾道から東京に戻る汽車の中で、まるで魂が抜けたようなひどく虚ろな表情をしているカットがあったのはすっかり忘れていた。

その能面のような原節子の表情はとても怖かった。

同じ小津安二郎の映画『晩春』(昭和24年)で、能を見ながら笠智衆演じる父親の結婚相手(とされている)三宅邦子を睨みつける原節子の情念の焔が燃え上がるような顔も怖かったけれど、『東京物語』での彼女の怖さとはまた違うのだ。

普段は大輪の花が咲いたような華やかな笑顔がとても印象的だから、その笑顔を消した時の彼女の表情は、まるで道化師が化粧を取って素の顔になったのを見るようなギャップがあって、それがとても怖いのだ。

その原節子の表情に、そして彼女の語る「ずるい」という言葉に、やはり小津安二郎自身の戦争体験と戦争で亡くなった友人への思い、そして戦後8年が経ち、あたかも戦争を忘れ去っているような日本人への小津の秘めた怒りを感じざるを得ないのだ…






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