【読書感想文】『新しいことを始めると、人生がちょっとだけ豊かになる』~ヘディングはおもに頭で~
本書を選んだ理由
本書の存在を知ったのは面白そうなサッカー本をTwitterで探していたときのことでした。書店に行った際には、必ずサッカー本コーナーで足を止めます。そこには『○○で上達するサッカー』や『○○自伝』、『○○の□□力』、など、技術専門書やサッカー選手、監督の人生や価値観が綴られた本、サッカーの戦術が書かれた本が棚に陳列されています。大学生になってからは、いわゆるサッカー本を読むことが多く、小説から離れていることを感じていました。
僕は小学生のころに『ぼくらの七日間戦争/著:宗田理』を読んで、子どもが結束してアジトに立てこもり大人に反抗するという非現実を追体験する楽しさを知ったんです。それ以降、宗田理さんの『ぼくらの○○戦争』シリーズを読み漁って、読書にのめり込んでいきました。最近小説を読んでいないことを感じ、小説を読み始めたときの面白さを思い出して、また非日常を追体験したいと思ったんです。だけど、小説選びに失敗したくない。僕はこれまで読んできたサッカー小説は百発百中で満足度120%だったので、久しぶりの小説もサッカー小説が良いと思いました。そして、過去にサッカー本大賞に選ばれた本を調べると、2021年度の特別賞に選ばれた本書が目に留まりました。そして気づいたら、Amazonでポチっていたんです、あまりにもタイトルのインパクトが強烈で。
あらすじ
ここでは良いことは何も起こらない。
でも、ここには希望しかない。
大学受験に二度失敗し、浪人をしながらアルバイトを転々として暮らしている松永おんは、かつて双子の弟がいたことから、自分は半分だけの存在だという意識を持って生きている。半年前から働きはじめた弁当屋では何の楽しみもやりがいも見いだすことができない。そんな日々を過ごしていたある日、おんは高校時代の部活・写真部の集まりで友人に誘われたことがきっかけで、初めてフットサルをする。それはおんにとって「まったく新しい何か」だった。誰かにスイッチを押されたようにフットサルを始めたおんは、永田町にあるフットサルスクールに通うようになる。一方、地元北千住の同人誌が開催する読書会にも参加するなど、徐々に世界を広げていくおんだが……。
新しいことに挑戦すると、人生がちょっとだけ豊かになる
『ヘディングはおもに頭で』。本書のタイトルを見たときに、『当たり前じゃん』って思ったのが正直な感想です。小学2年生からサッカーを始めた僕はヘディングが嫌いでしたけど、ヘディングが頭でボールを扱うことっていうのはもちろん知っています。サッカー以外でヘディングという言葉は聞きませんが、ワイドショーで成長期の子がヘディングをすることで悪影響を及ぼす、みたいな趣旨のニュースを見たことあるくらいなので、一般常識だと思っていました。
一体どんな物語なんだろうか。
ヘディングが苦手なサッカー少年の話かな?表紙が高校生くらいだから、ヘディングでたくさん点を決めるストライカーの話なのか。
こんな話だろうっていうおおよその想定をすることができないまま表紙をめくると、そこには高校時代の友人に誘われてフットサルコートのスクールに通うようになり、フットサルを始めたばかりの松本おんという浪人生が登場します。
なるほど。おんがフットサルを上達していく物語だと思いましたが、おんがフットサルコートでボールを蹴る場面はあまり多くありませんでした。
フットサルを始めたおんがボールを足の裏で止めれるようになったり、インサイドキックでパスを出せるようになったりともちろん少しずつ上達していく成長は描かれます。しかし、それがメインではありません。新しいことを始めて上達することの楽しさを感じたおんが、今まで疎遠になっていた友人と再び交流を持つようになったり、本を読んだ感想を話し合う読書会に参加してみたり。受験勉強と居心地の悪い弁当屋でのバイトだけの閉鎖的な生活がだんだんと活発的になっていくんです。フットサルを始めたことでくすんでいた人生というキャンバスがどんどん色鮮やかになっていくように。そしておんは一大決心をして、今後の人生をちょっとずつ豊かにしていきました。
普段の生活をしていると、学校や仕事など毎日同じような日常を過ごしていませんか?ルーティンワークになっているような人もいると思います。同じことをこなす日々は安定感はありそうですが、僕はつまらないと感じてしまいます。常に刺激を求めたいし、いろんなことをやってみたい。極論、その日だけしかできないことをやりたいと思うこともあります。でも、それってきっかけがないと難しいですよね。特に家を出る用事がなくずっと家に引きこもったり、学校や職場の帰りはそのまままっすぐ家に帰ったり、普通に過ごしていたらいつも通りに過ごしてしまいます。しかし、新しいことを始めると、今までしたことがない体験ができて、味わったことのない新鮮な気持ちになります。そんな前向きな感情はいろんなきっかけを与えてくれるんです。“新しいことを始める”は人生をちょっとだけ豊かにする鮮度を持っています。どんな些細なことでも良いので、あなたも新しいことを始めてみてはいかがでしょうか。今までやったことがないことをするのは、勇気が必要だし、ハードルを高く感じるかもしれません。どんな些細なことでも良いんです。いつもより30分早く起きることから始めても良いでしょうし、お風呂上がりに腹筋を10回やるだけでも良いでしょう。誰かに誘ってもらったことでも構いません。
ヘディングはおもに頭でするように、何の疑いも持たずに少しずつ新しいことを始めてみてはいかがでしょうか。
※ちなみに本書でおんがヘディングをするシーンは一度も出てきませんでした(笑)タイトルの真意が分かる人はぜひ教えてください。