【読書感想文】『飾らない文章の魅力』~一旦書かせて頂きます~

最近、自分の中で芸人エッセイブームが来ている。

きっかけはオードリーの若林正恭が書いた『ナナメの夕暮れ』。卑屈とも言える彼独特の感性や価値観が真正面から突進してくるようで、お笑いでお金を稼ぎながら人々を幸せにしている人の生き様がすごくかっこよく感じた。共感する部分もあったから、ハマった。それから若林(敬称略)のエッセイを追加で2冊読んだ。

若林によって芸人エッセイは間違いないという価値観が生まれ、書店に行った際は芸人エッセイが陳列されているタレント本コーナーをチェックすることが習慣になった。本の山から宝を探すようにTSUTAYAのタレント本コーナーを見ていると、ある一冊が光り輝いて見えた。それは面陳列(表紙を見せて陳列すること)されていた。オズワルドの伊藤俊介が初めて出版したエッセイ、『一旦書かせて頂きます』である。漫才衣装でお馴染みのサスペンダーを付けた伊藤が、喫茶店でタバコをふかしながら窓の外を斜めに見ている。「めちゃくちゃかっこつけてるな~」って思ったけど、オズワルドの漫才は3年前のM-1グランプリで初めて見た時から好きだったし、ツッコミの伊藤のワードフレーズも心地よかった。特に「○○だってさ!」っていうこっちに呼び掛けるようなツッコミを気に入っていた。

今年に急激に好きなジャンルとなった芸人エッセイを、好きな芸人が書いている。読まない選択肢はなかった。誕生日にもらった図書カードを使って購入した。

本書は6章で構成されている。自分や家族のこと、地元の友だちのこと、大学時代とバイトをしていたキャバクラでのこと、仲間と先輩と恩師のこと、仕事と日常のこと。そして優勝を目指しているM-1のこと。

伊藤(敬称略)の気持ち、価値観、感性がめちゃくちゃ正直に書かれてたエッセイが収録されている。読んでいて思わず声出して笑うこともあり、エピソードがとにかく濃くて面白い。そんなこと起こるの?って疑うようなこともあるけど、一つのエピソードを読み終えると、ぜんぜん脚色していないんだろうなって納得する。

最近エッセイを読むようになって共感するかどうかが面白さの基準になっていた。だけど、若林のエッセイを読んだときのような共感はなかった。それでも面白かった。

なぜか?考えてみると、独特の視点から見た物事をありのままに書かれているからという結論が出た。

表紙はめちゃくちゃかっこつけているけど、文章は全く着飾っていない。「ウルトラ贔屓目に見ても」とか言葉遣いはしゃべっている感じ。どちらかと言うと、だべっている方に近い。エピソードトークを聞くように文章を読んでいる感覚に陥った。

かっこいい文章表現に引っ張られることなく、自分のありのままの言葉で書いていく。だから、かしこまっていないし、窮屈な感じも一切しない。文章を読むハードルをグッと下げてくれるから読みやすいし、嫌味がない。だから、純粋に面白いと感じることができる。

難しい言葉を使いたいって気持ちになるときがあるけれど、良いように見られたいっていう承認欲求を取っ払って、ありのままに書いてみよう。かっこ悪くっても、それが自分だから。そっちの方が読みやすいし、面白いっていう自分の体験をもとに。

一旦辞めさせて頂きます。(←本エッセイの文末に必ずある言葉。漫才の終わりを告げるときに用いている)これを言ってみたかった。

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難波拓未|サッカーライター
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