じんわり暖かくなる本
穂高明さんの『月のうた』(ポプラ文庫)は、病気で母を亡くした主人公の民子、継母となった宏子、実母の親友・祥子、父親の亮太が、それぞれの視点で語る家族の物語。ストーリーが進むに連れ、心に閉じ込めていた思いが明かされ、今まで見えなかった相手の優しさや強さに気づいていく。民子に、真摯に前を向いて生きることを教えたおばあちゃんがまた、かっこいい。
読書家として知られるお笑い芸人、ピース又吉直樹さんの、本にまつわるエッセイ集『第2図書係補佐』(幻冬舎文庫)。紹介されている本も渋くてお見事!で、その本たちと又吉さん自身のエピソードとの距離感が絶妙で心地よい。最初に取り上げられているのが尾崎放哉というところも、鳥取県民としてうれしい限り。
一時のブームを経て、若い人たちにも定着した感のある落語。コミック作品もいくつかあるなかで、落語の「艶っぽさ」を見事に表現した、雲田はるこさんの『昭和元禄落語心中』(講談社ITANコミックス:全10巻)が、個人的なイチオシ。登場人物たちの言葉遣いやしぐさ、目線、高座に上がった時の緊張感まで、どのページにも艶がある。師匠や弟子たちの、落語への熱い思いや葛藤を描いたストーリーも絶品で、アニメもおすすめです。
気分も盛り上がってきたところで、落語ブームを後押ししたTVドラマの傑作『タイガー&ドラゴン』を観るべきか、古今亭志ん生の「火炎太鼓」をじっくり聴くべきか、悩ましいところです。