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最高のサービスを体験する唯一の方法
◆はじめに
私たちの周りには、レストランやショッピング、旅行、ホテル、飛行機など、数多くのサービスが存在し、日常や人生に彩りを与えてくれます。
食事をする、買い物をする、移動する、宿泊するといった機能的な目的でサービスを利用することもあれば、その体験から得られる楽しさや豊かさを期待することもありますよね。
今回は、私が考える「最高のサービスを体験する方法」について書きたいと思います。
特に、ホテルや飛行機での移動に焦点を当てていますが、レストランやショッピングでも参考にしていただける点があるかもしれません。
簡単な自己紹介です。私はMBAプログラムで「サービスマネジメント」を教えています。
サービスマネジメントとは、サービス業の経営に特化した学問です。製造業とは異なる特徴を持つサービス業の在り方を、ビジネスの観点から教えています。
加えて、個人的にもホテルや飛行機が大好きで、好きなホテルに泊まり、好きな航空会社を利用し、好きな空港を訪れるために、世界中を旅しています。
◆高いサービスを選べばよいサービス体験ができるとは限らない
最高のサービスを体験したいと考えるとき、まず重要なのは、料金が高いホテルやレストラン、航空チケットを選べば必ずしも良いサービスが受けられるとは限らない、という点です。
その理由は、サービスはハード面(施設や環境の豪華さ)だけでなく、ソフト面も大きく影響するからです。
確かに、高額な料金を支払えば、ハード面はそれに見合う高級感を持ちますし、その雰囲気から得られる満足感もあります。
しかし、顧客の満足や不満を決定づけるのは、最終的には「人と人が織りなすサービス体験」、つまりソフト面にあります。
多くの場合、サービスに大満足する理由は、スタッフとのやり取りを通じて得られる体験にあると思います。
同様に、不満が生じるのも、スタッフとの関わりが要因となることが多いのではないでしょうか。
つまり、スタッフと顧客との間で生まれる体験価値こそが、満足度に直接影響する重要な要素だと思います。
さらに言えば、最高のサービスとは、そこにいる「人と人」が共に創り上げていくもの。
「人と人」とは、一方が顧客であり、もう一方がスタッフ。
この二人が互いに協力し合い、関係性を築いていくことで、最高のサービスが生まれると思います。
そこで、今回のテーマ「最高のサービスを体験する唯一の方法」に関連して、次の2つのサブテーマに焦点を当てていきます。
最高のサービスを体験する方法(顧客として)
最高のサービスを生み出す方法(スタッフとして)
◆最高のサービスを体験する方法
ここまで、
①良いサービスは、高いサービスを選べば得られるものではない
②サービスは、顧客とスタッフの共創により良いものになる
ことを書きました。
そしてもう1つ重要なことを付け加えます。それは、
③他人を変えるのは難しいが、自分の言動は変えられる。そして、自分の言動が変われば、周囲に影響を及ぼす可能性がある。
ということです。
●「最高のサービスを体験する」ためには、「最高の顧客になる」
この記事を読んでくださる方々の多くは、サービスを利用する立場にあると思います。
そして、上述の3原則に照らし合わせて考えると、利用者の立場としていえることは、「最高のサービスを体験する」ためには、「最高の顧客になる」ことが必要だということです。
最高のサービスを体験するためには、最高の顧客となり、共に最高のサービスを創り出す。
「わざわざ高いお金を支払っているのに、なぜ自分が協力する必要があるのか」と思う方もいるかもしれません。
しかし、考え方次第です。高いお金を払っているからこそ、最高のサービス体験をすべきだとも言えると思います。
自分の言動を変えずに、期待を下回る体験を受け入れるのか、
それとも自分の言動を変えることで期待を超える体験をするのか――。
特に高い料金を支払っている場面では、どちらを選びたいかは明白だと思います。
サービスは、モノとは異なり、スタッフと顧客の共創によって生まれるものです。これが、サービスが他のものと大きく異なる特徴。
スタッフからの一方通行ではないことを考えると、利用者として自分の心がけを少し変えるだけで、その体験はより良いものになると思います。
(もちろん、利用者だけが努力をするわけではなく、スタッフの方々の努力も欠かせない要素であることは言うまでもありませんが)
それでは、利用者として重要な振る舞いのポイントをいくつかまとめたいと思います。
コツはとてもシンプルです。
皆さんの思い・考え・期待を、言葉や声でスタッフに伝えること、です。
これはそれほど大きな労力はかかりませんが、その効果は絶大です。
スタッフの方々は、皆さんの期待や気持ちを理解しながらサービスを提供してくれます。
もちろん、スタッフの方々もプロフェッショナルであるため、ある程度は顧客の期待を察知することに長けています。
しかし、顧客側が自分の考えを言葉で伝えることで、スタッフの方々もより適切で素晴らしいサービスを提供できるようになると思います。
自分自身の思い・考え・期待は、態度で示すのではなく、言葉にしてスタッフに伝える。そこに会話が生まれ、人間関係が深まる――その連鎖こそが、最高のサービス体験を生み出す鍵です。
以上の観点から、利用者として私たちができることを3つ挙げたいと思います。
●「最高の顧客になる」ための3ポイント
【ポイント①】
リクエストについては、「察してほしい」「察して当たり前だ」と考えずに、スタッフの方に丁寧かつ明確に伝えると、最高のサービス体験につながります。
たとえ対応が難しい場合でも、代替案を提案してくれることも多いです。
そして、リクエストをお伝えするときは、少し会話ができるとさらに良いと思います。
私の場合は、今回の訪問の背景(目的)や、どのような過ごし方をしたいのか話したり、季節の話など日常会話をよくします。
もちろんスタッフの方々の仕事にご迷惑にならない程度に、空気は読みます。
私の情報を共有しておくということはとても大事だと思いますし、それは私の責任の範囲だと思っています。
そして、表情も大事ですね。迷惑そうな表情でリクエストをつたえるよりは、柔和な表情で伝えることが大事だと思います。
【ポイント②】
スタッフの方々にミスがあったとしても、怒りの感情をそのまま伝えず、どのように対応してほしいのか、そしてなぜそのようにしてほしかったのかを伝える方と、より建設的で、かつ、(その後)最高のサービス体験につながります。
確かに、怒りの感情を爆発させると一時的に気分がすっきりするかもしれませんが、そこからは何も得られません。
たとえ(本来起こってほしくはありませんが)ミスが続いた場合でも、冷静かつ丁寧に、自分がどうしてほしいのかを伝えることで、多くの場合、スタッフの方々は真摯に対応してくれるはずです。
そして、その誠意ある対応が、結果としてより良いサービス体験につながることが多いと思います。
【ポイント③】
感動したことや感謝したいことがあれば、こまめに言葉にしてスタッフの皆さんに伝えると、最高のサービス体験になることが多いです。
こまめに伝えることを意識し、可能であればスタッフのお名前を伺って名前で呼べると、さらに良いと思います。
そしてできれば「Thank you」だけでなく、具体的にどのように嬉しかったかを少し加えると、さらに効果的です。
そして、良い表情で伝えられるといいですね。
お礼を伝える、あるいはお礼を言いに行くという行動1つで、スタッフの方々との会話が自然と弾むことが多いです。
私の場合、飛行機で機内食を食べ終わった後、食器を下げてもらう際に、必ず「どれがおいしかったか」という一言を添えるように心がけています。
「ごちそうさまでした」だけでなく、「とてもおいしかったです。ごちそうさまでした」と伝えることで、キャビンアテンダントの方々が明るい表情になり、会話が続くこともありました。
顧客とスタッフの関係は決して上下の関係ではありません。
おいしい場合に、「おいしかったです」と伝える。相手の嬉しそうな表情が見えたとき、こちらも自然と嬉しくなりますよね。
いずれにしても、感謝の気持ちをしっかり伝え、可能であれば1〜2言添えることで、スタッフにもその心が伝わります。
それが、良好な人間関係の第一歩となり、最終的には最高のサービス体験につながると思います。
●スタッフの皆さんと会話をする
私が「最高のサービスを体験するために日ごろ心がけていること」は、前述の3点です。この3つが全てと言っても過言ではありません。
ある日、私が宿泊していたホテルに友人が訪ねてきたときのことです。
宿泊者専用のラウンジや共用施設について、来訪者も利用して良いという許可をいただいたので、友人とホテルレストランで食事をし、ラウンジで会話を楽しんでいました。
その際、私はホテル内で様々なスタッフとお話ししていたのですが、それを見ていた友人がこう言ったのです。
「どうしてあなたがホテルからこんなに大事にされるのか、今日よくわかった。
あなたがホテルスタッフを本当に大切に思い、接している姿を見たからだ。
ホテルスタッフが宿泊者を大切にしてくれる場面はよく見るけれど、宿泊者側がこれほどスタッフを大切に接しているのは初めて見た。」
この言葉を聞くまで、自分が特別なことをしているとは全く気づいていませんでしたが、確かに私はスタッフの皆さんと積極的に会話をする方だと思います。
実は、以前はそれほど積極的に会話をしていなかったのですが、海外で10年暮らす中で意識が変わったのだと思います。
海外でも、多くの素晴らしいホテルや飛行機、レストランを利用する機会がありました。
その時に目にしたのは、「顧客がスタッフをリスペクトして接する場面」でした。会話をとても丁寧にしている姿がとても素敵だと感じ、私も見よう見まねで試してみたのが始まりです。
日本に帰国してからも、そこで学んだことを続けています。
今では、世界中どこへ行っても、非常に満足のいくサービスを受ける機会が多くなったと感じています。
このようなちょっとした心がけだけでも、スタッフの皆さんとの関係性が大きく変わり、結果として最高のサービス体験が得られると実感しています。
◆スタッフとして最高のサービスを生み出す方法
ここまで、利用者の立場から「最高のサービスを体験するために」大切なことを書いてきました。
繰り返しになりますが、サービスには「顧客とスタッフの共創によって作られる」という原則があります。
したがって、スタッフの方々にも、この「最高のサービス」が生まれる関係性を一緒に築いていただけると、私としてはとても嬉しく思います。
私は、ホテルや航空会社、レストランで働いた経験はありませんが、利用者の立場から「スタッフの方々がこうあってくださると嬉しいな」と思ったことを、いくつかまとめたいと思います。
以下のポイントには、MBAで教えている内容も一部含まれていますが、ユーザー視点からのものも含まれます。
また、1部経営者や管理者の皆さんへのお願いメッセージも含まれます。
●1つ目:オペレーションとサービス
サービスの現場において、オペレーションの標準化が重要なカギとなることは間違いありません。しかし、100%標準化された対応では、利用者にとって満足感が得られないことが多いのも事実です。
標準化が必要な理由は、一見矛盾しているように思われるかもしれませんが、実は「人の温かみを感じられる『非』標準化のサービス」を提供するためです。
適度にオペレーションを標準化することで、スタッフに心と時間の余裕が生まれ、その余裕を活かして顧客一人ひとりに合った、よりパーソナルなサービス(非標準化のサービス)を提供できるようになります。
標準化そのものを否定するわけではありませんが、100%標準化されたサービスでは、サービスの質が低下してしまう可能性があります。
標準化によって劇的に向上するのは「オペレーション」の効率性です。
しかし、「サービス」とは「オペレーション」そのものではないと思います。
サービスの本質は、顧客とスタッフの間に生まれる会話やコミュニケーションにあります。
そのため、オペレーションは標準化して効率よく進め、スタッフの皆さんが少ない労力でその業務を終えた上で、顧客との会話や関わり合いに専念くださることが理想です。
●2つ目:会話を楽しむ
スタッフの方々との会話が楽しかった時、私たちは本当に幸せな気分になります。
最高のサービスを提供するために、スタッフの方々にはぜひ会話を楽しんでいただきたいと思います。
会話をするというのは簡単なことではないかもしれませんが、多くの会話を重ねる中で、自然と会話のスキルもさらに磨かれていくと思います。
どのような声掛けが適切か、どんな言葉を使えば相手がリラックスできるか、あるいは、どのタイミングでは声をかけない方がよいかなど――最初は迷うことがあるかもしれませんが、経験を積み重ねていただきつつ、会話を一緒に作っていけると嬉しいです。
そして。
名前で呼んでもらえると、やはり嬉しいものです。
フルネームではなく、名字(もしくはファーストネーム)だけであれば特に問題なく、むしろ親しみを感じることが多いと思います。
海外では、よく名前を呼んで会話をしてくれますが、その会話は名前を呼ぶことで始まり、深まるものだと思っています。
私自身も、失礼でない限りスタッフの方のお名前をお聞きし、忘れないようにメモを取ります。そして、その方に話しかけるときには、必ずお名前で呼びかけるようにしています。
会話の中に名前が入ることでサービスのやりとりが一層温かく感じられると考えています。
●3つ目:提供価値と誇り
「どのような顧客に対して、どのような価値を提供する会社なのか」をしっかりと理解し、ご自身がその価値を提供する大切な一員であることに誇りを持って働く姿勢に、利用者は感動します。
サービスの技術やスキルももちろん大切ですが、何よりも誇りを持って仕事に取り組まれていることの方が、最も大事だと思います。
たとえサービスの細部が完璧でなくても、誇りを持って真剣に対応されている姿勢には、顧客も応援したくなる気持ちが自然と湧いてきます。
日本が、サービス業でも世界一になるために
日本が製造業で世界をリードしてきたように、私はサービス業においても日本が世界をリードし、世界一になると思います。
実際、航空会社や空港などは世界ランキングでも常に上位に入り、その素晴らしいサービスが高く評価されています。
この投稿では、スタッフの方々が「プロフェッショナルとしての誇り」を持ってサービスを提供し、利用者もまた「顧客としての誇り」を感じながら、共に素晴らしいサービスを創り上げるために必要なことをまとめてきました。
日本のサービス業が、世界一になりますように!