生成世界
パソコンの画面の中いた
男性のポートレート写真は
A.I.によって作成された物だった
見た目は本物と区別出来ないほどにリアルで
表情も肌の艶も髪の細部まで
まるで生きている人間のように思えた
作り方は簡単で、1girl,20years old,とでも書けば
二十歳くらいの女性を勝手に生成してくれる
もっと細かく作りたければ服やポーズや背景など
思いのままに指定が出来るのだが
あえて指定を少なくして曖昧のままA.I.に任せ
想像もしていなかった物を生み出す面白さもある
生成ボタンを押して数秒で現れたその男の画像
ランダムに生まれただけのはずなのに
モニターの中からこちらを見る瞳には
その人物の生きざまや苦労さえも感じられるほどに
こちらに訴えかけて来る物があった
創り上げられた人物の中には
恋してしまいそうなほどに綺麗な女性もいて
存在などしないはずなのに脳がバグりそうだ
改めて生成ボタンを押して新しい画像を作る
一気に数枚作ったその中に一際目を惹く写真が一枚
心に涙を抱えているかのような
まるで助けを求めているようなそんな表情
その目で画面の外を、僕を見ていた
この手のA.I.技術はここ数年で急速に進化していて
もしかするとそれぞれの創り上げられた人物には
履歴書が書けるほどの細かい設定までもが
裏で作りあげられているのかもしれない
架空の人物を作るのが楽しくて
時間を忘れて夢中になってしまう自分がいて
日曜だと言うのに外はもう暗くなり始め
夕飯の買い物に行かないとと重い腰を上げて外へ出た
まだ白い月が二つ浮かんでいて
昨日の雨の影響で川の水が勢いよく上に流れている
見慣れた街並みが歪んでいた
それがおかしい事はわかっていた
でも不思議と些細な違和感程度にしか思わなくて
たださっきまでいた自分の世界とは別の
よく似た世界にいるのはわかった
頭上をこぶしほどの小さなドローンが通り過ぎ
少し先にいる男性の前でシャッターを切った
と同時にその男性は白い粒子になって消え
そこに別の人物が復元された
周りを見渡すと同じようなドローンは
至る所に無数に飛んでいて
シャッターを切っては別の人物で復元をし
何も無い所に人物を生み出してを繰り返す
入れ替わる
その時自分はA.I.の世界に飛ばされた事を悟った
今いるこの世界はA.I.が住む世界なのだと
そして彼らは現実に行く機会を狙っている
人々が遊びで生成した分だけ
このA.I.の世界が足され増やされて広がって行き
現実の人物と生成された人物が入れ替わって行く
やつらはその機会を常に伺っているんだ
急に飛ばされ何が起こったかわからずに
パジャマ姿で辺りを見渡す人たちを見て
人間は気がつかないうちにA.I.の街へと追いやられ
代わりに現実はA.I.の人物に支配されてしまうんだ
すでに三分の一は入れ替わった世界なのかもしれない
多少の違和感しか感じないこの世界から
抜け出す方法はわからないけど
そもそも何も変わらないのなら
ここに留まる事を選ぶ人も多いのだろう
それは空想で遊ぶ人間なんかよりも
A.I.の世界に生きる人物たちの方が
生きる事に対しては貪欲に思えたから