[感想] ダークタワー IV-1/2 鍵穴を吹き抜ける風
長き昼と、楽しき夜を。(ダークタワーの世界におけるあいさつ)
ダークタワーとは?
モダン・ホラーの帝王スティーヴン・キングが長期間に渡り構想と執筆をした集大成的な作品。
主人公は中世ヨーロッパ騎士のような独特の行動規範をもつ拳銃使い(ガンスリンガー)、ローランド・デスチェインが世界の崩壊を食い止めるため仲間とともにダークタワーを目指す。
集大成的作品なのでホラー、ウエスタン、ラブストーリー、アクションと幅広いジャンルを内包している。
文庫本だとこの記事で紹介する外伝を含めて14冊刊行されており、この本は8冊目にあたる。
これまでのあらすじ
緑の宮殿を抜け、ダークタワーを目指して旅を続けるローランド一行。
旅の途中でやってきたスタークブラストと呼ばれる強烈な寒気の嵐をやりすごすため、とある石造りの建物で小休止を取る。
それが通り過ぎるまでの間、ローランドが少年だった頃に遂行したガンスリンガーとしての任務内容を仲間たちに語る。
ここからネタバレ
4巻の時と違い、ローランドの視点で語られているため、ローランドが体験していないことは語られない。
少年ローランドが母に語ってもらっていた「鍵穴を吹き抜ける風」という物語をビルという少年へ語る入れ子構造になっている。
この物語に出てくる主人公とローランドの過去は共通点がある合わせ鏡のような構造になっておりそれと比べながら読むと面白い。
一番好きなところ
ローランドの母、ゲイブリエルはとある物が原因で他の誰でもない息子の手によって撃たれ命を落とす。
そうなる前に愛する子へ宛てた手紙がどこまでも美しい。このラストのためだけに読む価値がある。
それらの言葉をおれは、ジェリコの丘での悲惨な戦いやギリアド陥落ののち、何年も彷徨しているあいだに何度も何度も指でなぞった。ボロボロになった紙を風が運び去ってしまうまで──時の鍵穴を吹き抜ける風が。最終的には、風がなにもかも運び去っていく、そうだろ? いいではないか。いけない理由があるか? われらの人生の美しさは、失われて初めてわかるのだ。
(中略)
問題の言葉は、ハイ・スピーチ語で書かれていて、いずれの文字も見事に 綴られていた。〝わたしは、許します、あなたのすべてを。〟そして、〝あなたは、わたしを許してくれますか?〟」
(中略)
「で、許したの、ローランド? あなたは?」あいかわらず窓の外を眺めているギリアドのローランド──スティーヴンとアーテン出身のゲイブリエルの息子──は微笑んだ。その笑みは、岩だらけの風景に差す曙光のようにかれの顔に現れた。かれは一言だけ口にしたあとで、遅い朝食を作るために自分の合切袋のところに行った。その一言とは、〝許した〟。
最後に
ダークタワーはとても長い作品だが読ませるパワーがある。
これを読んでちょっとでも興味がわいたら、ぜひローランドとともにダークタワーを探す旅に出てみて欲しい。何を隠そう筆者もその途中である。
長い作品なので、1巻から読まなければと思う人が多いと思うが、2巻からとても面白くなるので前置きが長いのが苦手な人はいきなり2巻から読むのもアリだ。2巻の始めに1巻のあらすじも書いてある。