「反比例の関係」は本当に反比例でしょうか
「反比例の関係」という表現をよく見るのです。
比例と反比例というのは,あの学校で学んだ内容のことです。
もちろん,それぞれの意味はわかっているはず,ですよね。
なんといっても,中学校の時に平面にグラフを描いて問題を解いた記憶は誰にでもあるだろうからです。
それはそうなのですが,今回問題にしたいのはニュースの記事の中でよく見られる「反比例」という表現についてです。
いくつか例を見てみましょう。
反比例の例
今回取り上げたいのは,こういう表現のことです。比較的最近の記事だけでも……
セントラル・ミシガン大学の心理学者ライアン教授は、年平均気温と学生のIQには反比例の関係があると言っています。つまり、年平均気温が低いと、学生のIQが高い傾向があるというのです。
(暑いとテストの点数が下がる?新たに分かった気温と成績の関係)
「現存する科学的根拠によれば、速度と正確さには反比例の関係があり、読み手が読むべき文書にかける時間が短いと、その分だけどうしても理解が劣ってしまいます」とカリフォルニア大学の心理学者であり、その研究論文の著者でもあるElizabeth Schotter氏は述べています。
(速読は実は不可能だと科学が実証)
ランドルト環は「円環全体の直径:円弧の幅:開いている部分の幅=5:1:1」になるように描かれており、視力は視角(開いている部分と目の中心を結んだときにできる角度の大きさ)と反比例の関係にあります。
このような数学的な関係があるため、視力1は「直径7.5ミリのランドルト環の開いている方向が、5メートル先で分かる能力」で、その半分の2.5メートル先で分かった場合は視力も半分の0.5となります。
(視力検査に使われる「C」みたいなマークの名前、知ってる?)
名古屋に魅力がないのは名古屋人が、恵まれすぎた郷土に魅力を見出していないことが他地区の人に反映した結果かもしれません。魅力って、何でしょうか? 魅力と安定は、反比例の関係にあるのでしょうか?
(地方都市の優等生なのに、名古屋はなぜ魅力がないのか 魅力と安定は反比例する?)
寝過ぎが原因で、目覚めが悪くなることがあります。休日に平日の睡眠不足を取り戻そうとして、いつまでも布団にしがみついているのは考えものです。睡眠の深さと覚醒度の高さは、反比例の関係にあります。ぐっすり眠ればスッキリ目覚められますが、ダラダラ眠っていたのでは、目覚めが悪いのは当然。
(目覚めが悪い…朝起きられない10の原因と対処法)
うーん,「反比例」と書くのが好きなんだな,ということがよくわかります。
比例と反比例
比例と反比例とは,次のような変数間の関係です。
y = k × x のような関係であれば,yはxに比例すると言います。
y = k / x のような関係であれば,yはxに反比例すると言います。
グラフに描くとこういう形ですよね(こちらのサイトを利用させていただきました)。
y = x (赤色・比例)と y = 1/x (青色・反比例)のグラフです。
ちなみに,軸をマイナス10からプラス10まで描くと,次のようなグラフになります。同じく,赤色が比例(y = x)で青色が反比例(y = 1/x)です。
0で割ることができませんので,青色の中央部分がつながっていますが,学校では2つの曲線を描くように習っているはずです。
「そんなの習ったからわかっているよ」と言われてしまいそうです。でも,記事の内容はどうでしょうか。
「反比例」は反比例か
記事の中に書かれている「反比例」って,意外と「反比例」ではないのですよね……。そう思いませんか?
たとえば,
・年平均気温と学生のIQには反比例の関係がある
という表現は,たいていの場合,
・年平均気温が上がるほどIQは低下する
ということを表しています。
これって,次のグラフの赤い線のことだと思いますか?それとも青い線のことだと思いますか?
青い線じゃないですよね,やっぱり赤い線のことを言っているはずです。年平均気温が上がるほどIQが低下するといっているのですから,平均気温が下がれば下がるほどIQも低下するという負の比例関係のことを言っているはずです。
反比例は負の比例関係
2つめの記事も同じです。
速度と正確さには反比例の関係があり
と言っているのですから,
速度が上がるほど正確さは下がっていく
ということを言いたいはずです。
ということは,これも反比例ではなく負の比例関係のことを言っています。
3つめの記事はどうでしょう。
視力は視角と反比例の関係
これは,円環のあいている部分が狭い(視角が小さい)図形が見えるほど視力が良いということを言っているので,同じく反比例ではなく負の比例関係のことだと思います。
4つめの記事の
魅力と安定は、反比例の関係
も,5つめの記事の
睡眠の深さと覚醒度の高さは、反比例の関係
も,もう負の比例関係のことだとわかりますすよね。
なぜそうなるのか?
なぜこのような間違いが起きてしまうのでしょうか。
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