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izuming0821
【連載小説】星の下で vol.15 「跳び箱」
次の週もレンに会いに来た。
「レン、今日は体育で跳び箱があったよ。昔レンが見せてくれた一回宙返りをしたかったばってん、うまくできんくてこけちゃったよ。おかげで、ほら、たんこぶができたつたい。触ってもあんまし痛くはないんだけどね、ちょっと恥ずかしいよ。
今日の給食はカレーだったばい。あとはフルーツヨーグルト。フルーツヨーグルトはじゃんけんで負けておかわりできんかった。
掃除は久しぶりに渡り廊下だったけん、久しぶりに滑って遊んだばい。女子からは非難ごうごうだったばってんね。竹中由起子覚えとるかな?その竹中みたいな感じで、女子が怒るったい。「先生、男子が掃除しません!」
ってね。僕らは先生がいる間だけ真面目に掃除したよ(笑)
今日も秘密基地は健在。少しおもちゃ類を整理したばい。もう使わなくなったのとかはゴミに出した。レンのおもちゃは捨ててないよ。熊本ファイヤーズは永遠に仲間だけんね……
それにしても、最近女子が「男子が、男子が」ってうるさいつたい。なんでも言いつければいいと思ってるみたいでから。困ったもんばいね。」
私は話終えると、花瓶の水を換え
「また来週ね」
と言って病室をでた。すると、ちょうどレンのお母さんと出会った。
「翔くんありがとうね……」
おばさんはとても老け込んで見えた。そりゃ仕方ないだろう。一人息子がこの状態、でも自分が働かないと病院代も払えなくなる。私は思わず
「大丈夫ですか?」
と声をかけていた。
「なんとかね……翔くんはいつも来てくれて、レンも楽しいと思うの。これからもレンのこと忘れずにいてね……」
忘れるはずがないじゃないか!!
おばさんにお辞儀をすると、私は一目散に駆け出した。
私は、私だけはレンをわすれずにいよう、そう思った。
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