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【連載小説】扉 vol.12 「挙式」
カロライナから積み荷がたくさん届いた。
いよいよ、俺とセレナは結婚する。
セレナは一月前にミストリア入りし、行儀作法などを学んでいた。
来月は結婚式だ。
国民もそわそわと落ち着かない。
記念硬貨の作成も順調だ。
俺は最近は簡単な魔法を勉強中だ。
シンに習っているのだが、これまた厳しい先生で……
きちんと復習できていないと容赦なく雷が落ちた。
この簡単な魔法が使えるようになると、勇者の称号が与えられるのだ。
結婚式までのあと一月で、勇者の称号をもらってから結婚したい、それが最近の俺のささやかな願いだった。
先生が厳しいおかげで魔法は急ピッチで身に付いていった。
もちろん簡単な魔法だけなので、いざ戦うとなると魔導師の力を借りねばならなかった。
国は平和だった。
ノースの呪いがかかっていた地にも、草が生えてきていたし、モンスターの数も減っていた。
なにも心配のいらない、順風満帆な日々だった。
他の各国からも祝いの品が届いたりして、王宮内はちょっとバタバタしていた。
セレナがお願いがあるという。
何事かと思いきや、剣を教えて欲しいとのこと。
こんなに平和なのに、剣を覚えてどうするの?
と思ったが、教えることにした。
基本は習っていたのでできている。
しかし、腕力はないし、王女は小さいしで、おれだと強すぎて練習相手にはならなかった。
そこで、フィーナに教えてもらうことにした。
フィーナは優しく手取り足取りで教えているようだ。
俺もうかうかしていられない!と魔法を覚える。
式まであと一週間というところで、ついに勇者の称号を獲得した。
獲得して一番喜んだのはセレナだということは、言うまでもなかった。
結婚に関して、不安がないわけではない。
今まで生身の女の子と話したことだって数回しかないし、夫婦ってことは――あれもついてくるということだ。
今まで本をチラ見したことはあったが、俺の一番の心配ごとはそれだった。
セレナとは数回しゃべったことはあったが、そんな目で見たことはなかったから、当然ものすごいプレッシャーがかかる。
もてない男子代表のようなおれが、セレナと、(ピー)しちゃったり、(ピー)しちゃったりするわけだ。
王様からはすでに、早いこと孫の顔が見たいとせがまれていた。
これは、勇気を出す他ないのか――
俺はセレナを直視出来ないままで結婚式に臨むことになりそうだ。
結婚式当日。
正装をする俺。
なんだか冴えない感じだがしかたないか。
シンとクリフが様子を見に来た。
おれが、正装が似合っていないと言うと、二人はそんなことはないという。
辛口のシンが言うことだから信用しちまおうかな。
花嫁に会えるのは式が始まってからとのこと。
待ち遠しいのか、会いたくないんだか、よくわからない感情が胸にモヤモヤしている。
やがて準備が整い、俺は協会に入った。
参列者の数がものすごい。
どこかのお偉いさんなのだろうが、圧倒された。
俺は中央を通り、壇前にて待機した。
扉が開き、世にも美しい美少女がそこにはいた。
父王に手を引かれ、一歩、また一歩と歩んでくる。
誰もがため息をついた。
やがて俺の前にたどり着いた花嫁は、父王の手を離れ、俺と腕組みをした。
壇上の神父に一礼をすると、挙式ははじまった。
美しい讃美歌。
優しい神父の声。
「それでは、誓いの指輪の交換をします」
俺は小さくて細いその指に、ダイヤをあしらった結婚指輪をぎこちなく通す。
セレナは俺の手をとると、同じデザインの指輪を俺にすんなり通した。
「それでは、夫婦の誓いとして、キスを」
何回も何回も悩んだ挙げ句俺がとった行動は、額にキスをすることだった。
場内からは拍手が生まれた。
そのあとはフラワーシャワーで協会からの道を歩いていく……予定だった。
というのも、会場から一歩でたそのとき、セレナはさらわれてしまったからだ。
全身黒い衣装をまとった、黒い羽のある人物に、まさに横からかっさらわれてしまったのだ。
俺も皆も唖然とした。
そのさらい方すら芸術的であった。
空を飛んで行く怪人と王女。
王様は思わず
「弓をうてー!」
と命令したが、俺が制止した。
下手に弓をうつと王女にあたる恐れがあるからだ。
俺は一軍の兵士に後を追うように命じた。
カロライナ国王は、魂が抜けたような顔になっていた。
俺だってそうできるのならばそうするよ!と心の中で思った。
数日後、斥候に出した第一軍から情報を得た。
敵はハイルストンよりも更に北の地で、集落を作っている。
おそらく魔族ではないかとのことだ。
「魔族など、昔話で聞いたことしかない!」
怒り狂う王様。
俺だって魔族がいるなんて聞いたことがない。
習った歴史にも出てきたことはなかった。
とにかく王女を取り返さんと、軍を組むこととなった。
以前戦闘で使った兵士をこの度は王女探索につかうことになった。
もちろんカロライナからも軍隊がでる。
敵の力は未知数であるため、慎重にことは進められた。
「もし王女が食べられでもしていたら、ミストリア、あなたの王国のせいですよ!」
カロライナの国王は我を忘れたかのように言った。
「王女が無事でないときは、友好条約など破棄にしてこの国を攻めますからな!」
そう言い残して国王は去っていった。軍隊をまとめるために。
俺は第一から第三軍の召集をかけた。
ほぼ全員が王女を救うために立ち上がった。
「今回の敵は未知数だ。やられる者も多く出るだろう。引き返すチャンスをやる。家族と最後のいとまごいをして、それでもなおかつ戦えるというものだけをつれていく!」
1日時間をやった。
それでもほとんどの兵士が戻ってきた。
俺の目には、いつの間にか熱いものがこみあげていた。
「全軍!前へ!」
俺たちは同じ志を持ち、すすみ始めたのだった。
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