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【連載小説】扉 vol.5 「砂漠」
さて、俺たちはいよいよ砂漠に突入した。
砂漠では、日光がねじ曲げられたかのごとくあり、日は出ているのに、暗かった。
灰色の世界。朽ちた木がまばらにあり、前に来たときと同様だった。
とても同じ土地とは思えない。
王国はあんなに晴れ晴れとした青空なのに、一日歩いただけでこの有り様……
雲っているというわけではない。
直射日光が当たるけれど、空は紫色だ。
その上、暑い。
上着を脱ぎたくなるが、クリフに反対された。
この気候だと肌をさらすよりも上着を着ているほうがまだ涼しいらしい。
フィーナは暑くも何ともないという顔で鎧を着ている。
「暑くないのか?」
と問うと
「日頃鍛練していますから」
との答え。
シンは……自分の周りだけに氷の結界を張っているらしく、涼しげだった。
「おい、シン、俺にもその結界を張ってくれよ」
「これも日頃の鍛練、です」
と言って構ってもくれない。
いいんだ、俺は今から剣士になる予定なんだ、このくらい我慢――できない。
「シン様、どうかご慈悲を……」
「もう……仕方ないですね。ただし、結界を分けるということは、パワーが半減しますから、そう涼しくはないと思いますよ」
と言って呪文を詠唱した。
ふわっと冷たい空気が流れ込む。
快適だ。
さっきまでの俺はどこへやら、機嫌上々になった。
そんなとき、大きな影が俺たちの上を通った。
こいつは見たことがある……
まえにクリフが一発で仕留めたモンスターだ。
よく竜は砂地に降りてくると、俺たちに威嚇し始めた。
クリフが説明しながら戦う。
「こいつの弱点は頭だ。首を下げた瞬間に、こうやって……と、仕留める。わかったか?」
あまりの早さにびっくりしたが、俺は学んだ。
この人についていければ、俺は最強の剣士になれるじゃん♪
そんな軽い気持ちで話を聞いている、俺。
しばらく歩くと、またしてもさっきのモンスターが現れた。
「今度は王子、仕留めてみろ」
クリフが軽々しく言う。
俺もその気になって仕留めにかかる。
その瞬間、モンスターは下げていた頭をあげ、翼を開いて攻撃してきた。
「あいたたた……」
俺は翼で飛ばされてしまった。
「もう一度やるか?」
クリフの言葉に頭を振る。
クリフはまたしても一撃で退治してしまった。
次こそは!と気合いを入れ直す。
しかし、次のモンスターは、また別のモンスターだ。
今度は大蛇に小さな翼がついている。
「こいつは火属性に弱い。シン、属性を頼む」
フィーナが言うと、
「御意」
とシンはフィーナの剣に属性を与えた。
「はああぁぁっ!」
フィーナの剣が大蛇を切り裂いていく。
「いかがですか、王子?」
フィーナが笑顔で聞く。
俺は、ただただ、スゲーと連呼するだけであった。
モンスターを倒しながらも着々と目的地へ向かう俺たち。
方位磁針と地図は旅なれたクリフに預けてある。
方位磁針を見ながら、クリフが
「もう少し北に進路をとりましょう。」
と言った。
「ただ、北には竜がすんでいるらしいので、慎重に進まねばなりません」
「その、竜って強いのか?」
「はい、ちょっとやそっとでは倒れません」
「逃げるが勝ちなのですが、ちょっとやそっとでは逃げ切れません」
「その道以外の道は?」
「ないことはないのですが、かなり遠回りになります」
俺は悩んだ。遠回りするほどの食料は、ない。
「もし、俺たちが竜に一斉攻撃をしたらどうなる?」
「さすがの私もそれは経験ないので、わかりませぬ。ただ、昔二人がかりで竜を倒した人がいるとかいないとか……」
「よし、北へ進路をとろう」
俺は決断した。
一行は北へ進路を取り直すと進み始めた。
モンスターが出てくるたび、俺は倒そうとしたが、なかなか倒れなかった。
「王子、焦らず、ですよ」
フィーナが言う。
でも俺は焦っていた。
このままの状態で竜に遭遇したら、俺は足手まといになってしまう。
それだけは避けたい。
足手まといにだけはなりたくない。
その思いは俺を強くした。
またよく竜が現れる。
今度こそ!
間合いをつめる俺。
よく竜は威嚇してくる。
そして、頭を下げた。
その瞬間、俺の剣はよく竜を仕留めていた。
「やりましたね、王子!」
「王子、さすがでございます」
「よかった。王子おめでとう」
三人から褒められるって、俺の中ではすごいことだったので、素直に喜んだ。
氷の蜂のようなモンスターもでてきた。
小さな上にすばしっこいやつだ。
こういう時はシンが反対する属性魔法でやっつけてくれた。
シンが狙いを定め、呪文を詠唱する。
すると、氷の蜂は溶けるようになくなってしまった。
俺は他のモンスターも倒すことに成功しつつ、道を進めた。
クリフとフィーナは二人ともモンスターに詳しく、倒しかたを教えてくれた。
俺は多少手間取りながらも倒すことに成功した。
キマイラなど、話の中の作り物だと思っていたモンスターがでてくる。
「キマイラは氷属性で仕留めるの」
フィーナが教えてくれる。
俺の剣にシンが氷属性の魔法を仕込む。
俺は剣を振りかざしつつ間合いをつめる。
しかし、なかなかとどめをさせない。
クリフが、
「王子、焦らずに狙ってください」
と声をかける。
キマイラは俺に向かって炎を吹きかける。
俺は盾でそれを避けつつ攻撃を繰り返す。
キマイラが炎を吹こうとのけぞった瞬間、俺のとどめの一撃が決まった。
俺は大量の汗を吹きつつ、言った。
「俺弱すぎね?」
「そんなことはありません」
「キマイラを仕留めるなど常人には無理なことです」
フィーナとクリフが言う。
「確かに、強くはないですね」
シンは言う。
「もしこのまま竜と出会ってしまえば不利でしょう」
「ならば俺はどうすればいい?」
「こればかりは実戦で力を磨いていく他はありません。今後出会ったモンスターは、すべて王子に退治していただき、経験を得る他にないかと」
クリフとフィーナは黙ってそれを聞いていた。
きっと同意だったのだろう。
俺は
「わかった。今後すべてのモンスターは俺に任せてもらおう」
と言った。
「御意にございます」
シンが答える。
クリフとフィーナも戸惑いながらもそれを了承した。
今日はこの辺りで寝ることにする。
枯れ枝をみんなであつめて、朽ちた木のそばへ持っていく。
枯れ枝にシンが火をつけると、やがて朽ちた木が燃え出した。
食事は干し肉と米だった。
この世界にきてからも食べるものがあまり変わらないことに俺はとても感謝した。
思えば王宮で食べた食事も多少物珍しい物があったが、基本的に日本と同じ食文化だった。
ただし、王宮の料理はフレンチが中心だったのだが。
この砂漠では月夜が見れない。
もちろん星空も見えない。
ただ日が落ちて暗くなるだけだ。
なんと寂しい場所なのだろう。
火の番をクリフと二人でしていた。
俺はクリフに聞いた。
「この砂漠は昔からこうなのか?」
クリフは答えた。
「いや、俺が小さな頃はこんな砂漠はなかった。ある日、ある一族がこの辺りに攻めいったときに、空は紫になり、青空をなくしてしまった。なにか方法があれば元にもどるのだろうが」
「ふーん……」
と俺は言った。
その一族の末裔でもいれば解除出来るのかもしれない。
今はまだ、任務遂行が先だが、いずれは……
と思った。
三日目、俺にモンスターすべてを任せると言ったが、アドバイスだけはクリフとフィーナに頼んだ。
アドバイス通りに俺は動き、退治していった。
ゴブリンの群れがあった。
普段はおとなしいはずのゴブリンが異様にこちらに対して攻撃的だ。
先制攻撃を受けた俺は、ラクダで乗り込み一掃した。
オークに出会った。
こいつは体力がすごい。切っても切っても向かってくる。
俺も剣を振りかざしつつ戦う。
剣でやっつけるのは結構大変だったが、キマイラのときに比べると楽勝で無事退治した。
俺は毎日剣を磨いた。
この剣がなければ俺は戦うことができないからだ。
この日を境に、俺は急激に強くなっていった。
俺はなんというチートなんだろうと思いながら、ニヤニヤ喜んだ。
バジリクスにも出会った。
こいつは石化攻撃ができるため、少々やっかいだ。
やっつけるのに速さは必須だった。
俺はあっという間に背後に回り込み、叩き切った。
俺の飲み込みの早さにはクリフとフィーナ、そしてシンも目を見張っていた。
「才能開花といったところでしょうか」
フィーナが言った。
「まさに、それだな」
クリフは同調した。
その晩は作戦会議だった。
いよいよ竜が住むと言う地域にはいる。
俺たちはいつになく興奮していた。
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