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【連載小説】公民館職員 vol.21「図書室と菅やん」

シャワーから戻ってしばらくすると菅やんが目を覚ました。

「ちょっと、小便」

と言って出ていく。私はあらかじめ買っておいた酎ハイで喉を潤す。


菅やんは戻ってくると、第一声に

「ごめん!」

と言った。

「ごめん!ほんっとーにごめん!俺のせいでこんなとこに寝泊まりすることになって……」

「だーいじょぶだって!ただ、あたし明日って言うか今日仕事だから、一休みさせてもらうね!」

時刻は4時半をまわっている。

菅やんは、

「え?!そうなの?!それなのにこんなに遅くまで…ごめん!」

「いいって、いいってそれよか、耳栓とアイマスク、カウンターで売ってるからね、菅やんも使うといいよ」

私はそういい残すと深い闇に落ちていった。


翌朝8時。携帯のアラームバイブで目が覚めた。菅やんはまだ寝ている。

書き置きだけ残すと、私は店を後にした。



職場へ歩きながら、まだ若干アルコールが残っている感じがする。

大丈夫かな?と、息をはぁっと出してみる。

うん、やっぱりアルコールくさい。服も昨日のままだけど……まぁ、いっか!!


今日は図書室の嘱託さんが二人とも珍しく休みなので、一日中図書室だ。


久しぶりの図書室仕事に、腕が鳴る。

まずは貸し出した本の返却。返却ボックスから引きずり出して返却操作を行う。開室は9時半からなので、まだ時間には余裕がある。返却作業を終えると、本棚に本を戻す作業を始める。

ぎちぎちになっている棚が多い。

毎日きちんと仕事してるのか……?と疑問が沸く。毎日仕事をきっちりしていれば、いらない本は処分して、こんなにぎちぎちにはならないはず。


そう思いながら作業をしていく。一通り片付け終えたら、開室の時間になった。


開室。


この館の特徴として、立地的に平日のお昼頃のお客様が一番多い。OLさんや、職場が近い若い男性が中心だ。街中にあるせいだろう。

だから、今日のような、土曜日で雨の日はお客様は少ない。


私は修理する本を取り出して、ボンド付けを始めた。本は使っていくうちに、背表紙がはがれてくることが多い。そういう本にはこうしてボンドをつけて、太い輪ゴムで押さえ込んで直していく。

絵本などの破れはテープでしっかり補強し直す。


その作業が一段落ついたので、今度は廃棄にする本をチョイスしに、棚へ向かう。そのときカウンターに置く「作業中です。ご用の方はお声をおかけください」の札は私の手作りだ。

こういう小さな公民館の図書室には、だいたい嘱託が一、二名置かれているだけなので、席を外すとカウンターがお留守……なんてことが頻繁にある。それを考慮して、前にいた公民館で作ったものと同じものをここでも作った。普段どのくらい活用されているかはわからないが、私がいるときは使用している。


案の定お客様は少なかった。

私は廃棄にする本をどっさりチョイスしてきた。十年以上前のパソコン本などもあった。まだまだ仕事が行き足りてないことを痛感する。

一時集中して図書室の仕事をしよう……私はそう思った。


お客様が来た――と思ったら菅やんだった。わざわざ昨日のお礼を言いに来てくれたらしい。

私服姿が眩しい菅やん、ええ人やわ〜と思う。まぁ、菅やんと恋に落ちるなんてことは一生ないけどね!!

他のお客様が全くいなかったので、立ち話を少々。


結局先輩のことは吹っ切れたらしい。

というか、もう次に気になるひとがいるらしい。

気が早いよ、菅やん!!

決してイケメンではない菅やんの恋を応援してやろう。

私はそう思った。


閉館時間が近くなり、ほんとにお客様が全く来なくなった。前にいた公民館では、閉館間際になってもお客様が来ていたのに、これが立地の差ってやつですね。


明日は休みだ。何をして過ごそう?私の頭の中はそんなことばかりで一杯だった。

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ちびひめ
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