【連載小説】公民館職員 vol.11「おっさん」
それからも毎日、東くんにメールをする。彼女がいないなら、遠慮することはない、突撃ー!!
まさにそんな感じだ。
東くんは契約担当の営業なので、あの飲み会以来会ってはいない。
だーが!!
私にはそんなことは関係なかった。押して押して、押しきれー!!
まさにそういう心境だ。
そのうち、一日一通来ていた返事は二日に一度、いや、三日に一度になっていることに私は気がつかなかった。
そして決定打を放たれることとなる。
『この携帯、会社の携帯だから、部外者とメールしてるのはやばいんだ。メールやめてもらえないかな』
私は何も気にせず、
『わかった。だったら個人のほうのメアド、教えて。そっちにメールするから』
ここで一打。
『個人の携帯は教えられないんだ』
『どうして?』
『個人的に取引先の人間が繋がっているとやばいから』
『そんなの大丈夫だよー。職場の取引先の人と結婚とか、よくあるパターンじゃない』
ここでもう一打。
『いや、俺には迷惑だから……』
『迷惑?私が?だって友達じゃない』
ここで最終打。
『私はあなたと友達になった覚えもありませんし、毎日メール、正直、迷惑なんです。辟易してるんです。わかっていただけたら、もうメールしないでください。』
私の頭はガンガンなった。
その日一日、最悪な気分で仕事に励んだ。
お昼休み、清掃員室へ行き、ことの顛末を植田さんに話して聞かせた。
「だから、あの男は落ちないよって言ったのに……」
植田さんは苦笑する。
「なんで、どうしてだめだってわかったの?」
「そりゃあ、あんた、長年の水商売の勘だよ」
「勘〜?!そんなのわかんないもん」
「そのうちあんたにもわかるって。タバコ一本あげるから、すっぱり諦めなさい」
植田さんはこんなときでも優しい。第二の母だ。
そんなとき、私の携帯にメールが届いた。
それは、あのおっさんからのメールだ。
『ユキちゃん、こっぴどく振られたやろ』
『な、なんでそんなこと……』
『東がみんなに自慢しおってん。公務員の女を足蹴にしたって』
『そんな……』
『東は所詮その程度の男やったっちゅうことやな』
『私、本気だったのに……』
『失恋の飲みだったら、おっちゃんが付き合うたるで』
ここまでの流れを植田さんに言う。すると、
「あんた、おっさんから狙われてるね」
「えぇーっ、おっさんから?」
「まあ、たまには人に甘えてみるのもいいもんさ」
「おっさんに甘えてみるのも?」
「男女の仲にさえならなきゃ、使えるってもんよ」
じゃあ……と、私は返信する。
『今夜!開いてますか?』
『おう、ええで!どこにする?』
こうして私とおっさんは一緒に飲みに行くことになった。
植田さんが、
「絶対に男女の仲になるんじゃないよ」
と言った言葉をしっかり胸に刻んで、夕方、私は出発した。
おっさんは約束の五分前についた。わたしもほぼ同じ時間についた。
「さあ、和食に洋食に中華、なんにする?」
「じゃあ洋食で」
「フレンチ、イタリアン、どうする?」
「私、そんなにお金持ってきてません!」
「おいちゃんが、奢るに決まっとるやん」
「私のこと狙ってたりするんじゃないですよね」
「そりゃ狙うさ。そんだけの器量よしだからな」
「私、お付き合いしませんよ」
「そんなの承知の上さ。女の子に奢れないほど俺は貧乏に見えるか?」
「見えません」
「ならよし、フレンチとイタリアンどっちにする?」
「……フレンチで」
おっさんはOKというと、店に電話をかけた。
「よかったな、一席だけ空いとるんやと」
と言うと、さっさと歩き始めてしまった。
私は今日はおろしたてのヒールだったので、やっとこさついていった。
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