【連載小説】公民館職員 vol.29「半分こ」

「突然お誘いしてすみませんでした」

進藤さんが言う。

「いえいえ、誘っていただけて光栄です」

「それはよかった。寒くありませんか?暖房を強めましょうか?」

「いえっ、大丈夫です。お気遣いなく……」


スポーツカーをするすると走らせる進藤さん。

うっとりするようなこの状況。


話題は今流行りの推理小説家の話になった。

「すごく面白いんですよね」

「はい、でも最近ちょっと落ち目かなと僕は思うんです」

「どうしてですか?」

「ネタギレしてきたというか、同じ展開の話が増えてきたなぁと……」

「そういえばそうですね。スランプとかでしょうか……」

「僕の勘では単なるネタギレかと思いますが」

「そうかぁ、それはあるかもですね」


そんな話をしているうちに、到着したレストラン。地元でも高いと有名なレストランだ。

「あの……」

と私は言う。

「どうしました?」

「私、お金あんまり持ってきていないので、もう少し安いお店でも……」

進藤さんは少し笑うと、

「僕の奢りです。気にしないでください」

と言う。

「さすがに奢っていただくのは……」

「僕を恥ずかしい男にしないでくださいよ。女性にご飯をごちそうするのは当然です」

と笑って言った。

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」


って、最初から奢りなんてわかってたんだよーん!一応しおらしく見せる、これ、大事ね。大事。


お店に入ると、

「予約の進藤です」

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


おっさんのときにさんざんフレンチとかイタリアン、洋食にいったから、耐性はついているけど、初めてのお店はやっぱり少し緊張する。


通された先は奥まっていて、個室のような感じがした。

「お飲み物、いかがいたしますか?」

「僕はノンアルコールカクテルを」

「私はカシスソーダで」

「かしこまりました。他、ご注文がお決まりになられましたらそちらのベルでお呼びください」

と言って去っていった。

テーブルをみると、小さな銀色のベルが置いてあった。

「可愛い!」

と私。

「可愛いといえば、今日は佐藤先生も可愛らしいワンピースですよね」

さすが!目ざとい上にピンポイントで褒めてくる。ほんとは女タラシだから彼女がいないんじゃない?なーんて思いながらも嬉しかったり。

「これ、昔のワンピースなんですよ。新しいのはもう売り切れちゃって……」

「そうなんですか?着る人がいいからですかね?そんなことを感じさせない」

もう、顔から火が出そうだ。


「進藤さんはこのお店はよく来られるんですか?」

「父母が好きなので、たまに」

「ご両親、大事にされているんですね」

「兄貴がいるんですけどね、結婚して遠方にいるんです。だから、僕が頑張らないとね」

ふぅむ。この男はこぶつきか。それでもグローバリーカンパニーの社員だというのは魅力がある。

グローバリーカンパニーは、最近IT関係で大きく伸びている会社だ。給料ももちろんいいらしい。


私たち公務員は、高い税金で雇われていると言われているが、そんな事実はない。寧ろ、企業としては弱小企業と同じくらいのお給料しかもらえていない。

グローバリーカンパニーは、私たちよりはるかに多くお給料をもらっている会社の一つだ。

こぶが2つついたところで、なんら問題はない。

ベルで呼ぶより早く店員さんが来た。私は遠慮がちにオムライスを頼む。

進藤さんはパスタセットを頼む。


「デザートも決めておいてくださいね」

と言う進藤さんに、私は

「はーい!」

と返事をしてメニューにもう一度目を通した。


料理が運ばれてくる。

熱々で美味しそうなオムライスとパスタ。

進藤さんの

「半分こしましょう」

と言うアイデアに賛成し、お皿をもらったのだった。

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ちびひめ
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