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【読書感想文】大沢在昌「生贄のマチ」
久しぶりに大沢在昌氏の書籍に触れた。やはり尖った肉体描写は独特のものがある。
このところ、東野圭吾氏の少し透明な世界を覗いていたので、不意に闇に落とされたようなこの大沢在昌氏の文章はとても刺激になった。
大沢在昌氏の書籍を最後に触ったのは約20年前になる。
そこからハードボイルドの本はほとんど読んでいない。
なので、暴力、薬、女の描写がある本にはほとんど触れずに過ごしてきた。
意図的に触れなかったわけではない。本を、読まなくなったため、読むものに限りが出ていたのだ。
大沢在昌作品にしては軽く読める作品だったように思う。
それは主人公が少年少女だったからかもしれない。ハードボイルドというと、少し渋めの年齢設定が多くなることが多いのだが、この作品の主人公は多感な少年少女である。
少しリアリティに欠ける設定もよかった。あまり飛びすぎていると感情移入しにくくなるが、この本はとても素直に妄想の世界へ入る入口となった。
日本という生温い国を舞台にしているにも関わらず、しっかり闇を感じることができた。どこか異国のような、それでいてしっかりと日本なのだ。陰湿な描写は少し少なめだったように思う。それは少年少女がまっすぐ見つめる闇だったからかもしれない。
主人公たちにはそれぞれ抱えた大きな闇のような過去がある。それはまだ、このカルテットの第一巻であるこの本には描ききれていないが、その謎も気になって、ついページをめくる手が止まらなくなる。
本を読む上で、過去がある存在というのはいつでも闇の中で眩しく輝く存在となる。
誰しも、経験したことのないようなそんな過去に共感し、共鳴し、それは自分の過去となる。
疑似体験が出来るというのが本の素晴らしいところだ。
この本はハードボイルドでありながら、同時に少年少女の成長物語として描かれている。
渋さを醸し出しながら、それと同時にある種の爽やかさすら感じさせる。
それは事件を通じて徐々に、本当に徐々に心が近づいていき、やがてチームとなる絆を作り上げていく、そこにあるのかもしれない。
この本にはすべては描かれていない。
謎はまだ残されたままである。
続きがとても気になるので、探してみようと思う。
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