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【連載小説】公民館職員 vol.13「ポジティブ」
おっさんに、毎日メールを送ってもいいかと確認する。
「かまへんが、なんでまた?」
「東くん時と同じ轍は踏みたくないんで」
すると、おっさんは笑う。
「切り替えが早いな、ええこっちゃ」
「ポジティブマシンなところが長所ですんで!」
おっさんはまた笑っていた。
私は恋におちると猪突猛進だ。真っ直ぐ相手にぶつかっていく。
だから、避けられることも多い。
それでも真っ直ぐにしか進めない。
おっさんには毎日メールを送る。朝から頑張りましょうの一通。夕方にお疲れ様の一通。おっさんは嫌がらずに毎回返事をくれる。
『嫌なときは嫌ってハッキリ言ってくださいね!私、鈍感なんで!』
『はいはい、わかりました』
そう、気づいたのだ。
私は鈍感だということに。
今更。
今までなんで気づかなかったんだろう。そっちの方がよっぽど謎だ。
こんな調子だから、避けられる訳だ。
東くんには悪いことしたな……と、今更ながら痛感。
その点おっさんはゆるゆる〜っと許してくれる。
そこがまた私のツボでもあった。
おっさんと二回目のデートの約束を取りつけた。
今回はイタリアンで!
イタリアンに合うイメージとして、今日はスカーフがイタリアンカラーだ。
せっかくなら思い切り楽しみたいじゃない?
仕事が終わった後、喫茶店でおっさんを待つ。待つのは意外と得意な方だ。待っている間も、人間観察や、雑誌をめくること、文庫本を読むこと、紛れさせる方法はいろいろ手段はある。
今日は文庫本を持って来ていた。
おっさんの仕事の終わる時間が少し曖昧だったからだ。
ホットコーヒーを頼むと、私はゆったりと座り直し、文庫本を開いた。中身は絞りたて新鮮な恋愛モノ。今の私にはちょうどピッタリじゃない?
タバコを三本ふかしたところで、おっさんからメールが来た。
『もう少しで終わりそう。まだ待てますか?』
メールでは標準語な上に丁寧語なのは、職業柄だろう。
『まだまだ余裕で待てますよ、大丈夫です(^^)v』
と返事をする。
それから一時間が経過。
おっさんからのメールはまだない。
仕事中に迷惑だといけないからこっちからはメールできない。
二時間が経過しそうになった時、やっとおっさんからメールが来た。
『今から向かう。喫茶店はこの間教えてくれた所ですか?』
『うん、そうだよ!!早く来て〜!お腹が空いちゃったよ』
『すぐに行きます』
おっさんは走って来たらしく、肩で息をしている。
店の端に私の姿を見つけると、手を挙げてやって来る。
「すまんな〜!遅くなって!すぐに食いに行こか?」
「うんうん、もうお腹ペコペコだよ〜。それにしても、走って来たの?ゆっくり歩いても大丈夫だったのに」
「いやぁ、待たせとるのにそんなことはでけへんよ」
そんなことを話ながら店へと向かう――。
店に着いたのは八時を回っていた。
座ってすぐに
「生、2つね!」
と頼む。
「とりあえずビールでよかったか?」
と頼んだ後から聞くおっさんに、私は吹き出す。
「うんうん、ビールでOKです」
それから二人はメニューを手にどれにするか話し合う。カルボナーラとマルゲリータ、そしてカルパッチョ。
ビールが届く頃にはもうメニューは決まっていた。
「ここもよく来るの?」
と私が聞くと、
「ここは半年に一回位かなぁ。イタリアンは人が一緒やないと食べても美味しくないからな」
と答えた。
それから私は、今している仕事の話をする。今は公民館の運営審議委員会の準備に追われている。
そう、去年平野さんが資料をつけていなくて大変だった、あの委員会だ。
今年は間違いがないか、何度も何度も確認して輪転機にかけた。
委員会は来週だ。
そんな話をいろいろ聞いてもらった。
おっさんの仕事の話はほとんどなかった。
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