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【連載小説】公民館職員 vol.20「ぐでんぐでん」
「菅山!待たせてごめん!」
私が駆け寄ると、菅山は、
「こんな時間まで待たせちゃって、俺の方こそごめん」
「いやいや、いいって。さて、どこへ行く?焼き鳥、串カツ、刺身……」
「焼き鳥いいね!」
その一声で焼き鳥屋に決まった。
街中は夜中すぎまで開いている店が多い。
すこしぶらっと歩いて、一軒目の店に入る。明日は土曜日で休みの人が多いからか、お店は人で一杯だ。
適当に座敷に座ると、まずは一杯。
「「かんぱーい!」」
適当に頼むと飲み始めた。
「いやー、まじで毎日しんどいわ!」
菅山は最初から愚痴りモードだ。私はまあ、普通に飲み始めた。
話によると、毎日外勤ばかりで、書類仕事は夕方からになるので、どうしても残業になるらしい。
他の先輩も似たようなことを言っていたので、そうだろうなあ、と思う。
「佐藤さんとこは?」
「うちは暇だから残業ほとんどないよ。だから財政難」
と笑って見せる。
「あー、俺もそこに行きてぇ!」
「でも、昼間は割りと忙しいんだよ。主に接客だけど」
言い訳めいた言葉を発する。
「わかってるって。今時楽な部署なんてないもんな。ただ、疲れたー!!」
菅山は伸びをしてみせる。
本庁で残業ない課のほうが最近は聞かない。
「……で、先輩となんだって?」
「あー、それそれ。もうだいぶ吹っ切ったけどさ」
菅山はホントに吹っ切れた顔をしている。昼間はあんなに曇った表情をしていたのに。
「そもそもの発端はどうなのよ?」
菅山が言うには、今年になって配属された先輩で、菅山が教育係りを担当したらしい。
そのときの素直さ、純朴さ、温かみにぐらっときたそうだ。それも4月はじまったばかりのときに。
それからも一緒に行動をとることが多くて、どんどん惹かれていったらしい。
11月に入り、12月のクリスマスに告白しようと意気込んでいたらしいのだが、
「長年付き合ってきた彼氏と結婚するんです」
と一番最初に切り出されたらしい。
「他の人にはまだ言わないでくださいね!」
だって。
だいたい、私たちがアラサーってことは、先輩ってアラフォーなんじゃないの?と思ったが、口に出すのはやめておく。
「菅やん、年上好みなんだ?」
「たまたまですよ!俺は同じ年か年下のほうが趣味」
「年下!じゃああたしも狙ってもいいんだね!」
ふざけて言った言葉に、菅山は過剰とも言える反応を示した。
「佐藤さんのことは、ちょっと、恋愛対象には見れないな」
「なんでよー?私だって年下乙女だよ?」
「乙女っていう年じゃないよね?」
菅山の頭にはたんこぶができた。
「私だって報われない恋を終わらせたばかりで――ってもう2ヶ月も経つけど、忘れられなくてくるしんでるんだぞ!」
「報われない恋?なにそれ、聞きたい」
結局菅山にはおっさんとのことを話して聞かせる。
「ホントにエッチなしだったの?」
「当たり前でしょ?!あたし、そんなにビッチに見える?」
「そんなことはないけど、佐藤さんって一途なんだね」
「その、佐藤さんっていうのやめない?堅苦しい。ユキ、でいいよ」
「ユキ……?佐藤さんってユキって名前なの?」
「そうだよ、悪い?」
「いや……じゃあ、ユキちゃん、で」
「よし!私も今度から菅やんって呼ぶからね!」
「はーい」
ずいぶん長居してしまったようで、お客さんは私たちとあと一組になってしまった。
慌てて店を出ることにした。
その後は恒例のカラオケ大会。
3時過ぎに、いつものバーへ行ったときは、二人ともぐでんぐでんだったらしい。
マスターに水をもらう。菅やんも水をもらう。
水を飲むと一気によみがえった私たち。マスターが止めるのも聞かないで、酔いつぶれてしまった。
送って行こうにも、住所がわからないし、こんなぐでんぐでんで帰って大丈夫かな、と思ったので、すぐ近くのネカフェに泊まることにした。ファミリールームしか空いてなかったので、そこにする。私はシャワーを浴びに行った。
菅やんはまだ寝たままだった。
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