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【連載小説】扉 vol.10 「危機」
カロライナにセレナ姫との婚約についての急便が届くその頃、カロライナを見つめる一人の若者がいた。
城壁に守られた国カロライナ。
相手にとって不足はない。
若者は合図を出した。
そんな翌々日、我が国ミストリアへ、カロライナからの急便が届いた。
王様は返事にしては早いなと思いつつ、文を開けると、目を見開いた。
「た、た、大変じゃあ!」
俺は王様に呼び起こされた。
朝早くだったので、まだ眠たい目をこすりながら謁見の間へ行く。
王様は大変興奮した様子で謁見の間をうろうろしていた。
俺が来るのをみると、手元にある文を握りしめて言った。
「カロライナが大変だ」
「大変って、一体なんすか?」
「カロライナが北方の国ハイルストン王国から侵略を受けた!!」
「えっ……カロライナが?」
王女の国が大変だ。
ということは……
「我が国はカロライナと友好条約を結んだ!従って軍隊をださねばならぬ!また、カロライナが敵に陥落されると、我が国も危険である」
ですよね。
王様はそこまで言うとため息をつきながら言った。
「お前が率いていくことになる。わかるな?」
「はい……」
「わしとて、お前を戦線なんぞに出したくはない。しかし、ミストリアにはお前以外の誰も子どもがいない。仕方ないのだ……」
「はい、俺は大丈夫です」
「行ってくれるか、王子よ!」
「はい、行ってカロライナを救ってきます!」
「ありがとう、我が王子よ! お前には参謀としてハリスをつける。勇者二名とシンもつけよう! ハリス! 入りたまえ!」
ハリスと呼ばれた男性が入ってきた。
黒髪に黒い瞳、顔立ちはロシア人のような深みのある顔立ちだった。
「お召しにより参上つかまつりました。ハリスでございます」
「君がハリス……」
「はい、王子。よろしくお願いいたします」
王様が言った。
「早急に戦線へつくように。王子の無事を望んでおるぞ!」
こうして俺は、一軍を率いて戦争に参加することになった。
6日がすぎ、
「もうじき着くな」
俺が言うとハリスは
「はい、戦線は国の北側だそうです。いかがしますか?」
俺は
「軍を3グループに分けてください」
と命令する。
「御意」
ハリスは速やかに伝達した。
第一軍はクリフ、第二軍は俺とシン、第三軍はフィーナが率いることにする。
三日間は三軍とも同時に進めていく。
途中から国の城壁を避けて第一軍と第二軍は東側を、第三軍は西側を進む。
ここで第二軍だけ進行させる。目前の崖の下は第一戦線だ。
俺はハリスに聞く。
「このまま第二軍だけ進行させて第一軍と第三軍は両側から攻めこんで敵の軍を囲ってしまおうと思うんだけど、どうかな?」
「それは妙案でございますね。但し、後方から応援の軍が来ますと挟み撃ちになりますが……」
「うーん、じゃあこれでどうかな?」
ハリスは提案を飲み込んだ。
翌日、戦線のカロライナ兵へ、斥候を一人派遣する。
その命を受け手カロライナ軍が一気に引いていく。
ハイルストン兵が崖の下奥地まで進行してきたそのとき、俺は合図をだした。
のろしによって第一軍、第三軍へ出撃命令を出す。
第二軍は崖の上から大岩を落とし、奮闘する。
第一軍と第二軍は合流し、第三軍はその隙に横から攻撃を仕掛け、これをモノにした。
俺は第二軍でおとなしくしている予定が、ついつい最前線まで出てきてしまっていた。
これは前回も反省すべきところだった。
だが、その中で、俺を挑発してきた者がいた。
栗毛で青い瞳の若者だった。
そう、あのときカロライナを見つめていた若者だ。
両者ともにらみあったまま動けないでいた。
弓矢が飛んできて、それを皮切りに、戦いは始まった。
若者も相当な剣の使い手とみえる。
ジリジリ距離を詰めていく二人。
ついに剣と剣がぶつかりあう。
俺の剣よりも重い。
受け止めた瞬間そう感じた。
何度となく剣を交える二人。
俺も若者も息があがってきた。
だからといって剣を休めることはできない。
これは一対一の漢の戦いだった。
もう周りは見えていない。
見えるのはやつの顔と剣だけだ。
息が聞こえる。自分の息と相手の息と。周りは戦場のはずなのに、しんと静まり返っていた。
やつの剣の弱点を見つけた。
やつは剣を大振りで使ってくる。
その間にはわずかな隙ができる。
俺は防御の一方で、そのタイミングを待った。
やつが大振りで剣を構えた。
刹那。
俺はやつの剣と交錯していた。
手応えはあった。
そのときだ。
「王子、ここにいては危険です。後方へ下がってください」
シンが魔法で敵を片付けながらやって来た。
「全く、王子を一人にするなんて。参謀殿はどちらへ行かれたのか」
シンは呆れながらも俺に近づいた。
ハリスは後方で王子を探していた。
「王子!ご無事ですか?」
ハリスは言う。
「ご無事ですか? じゃないですよ、参謀殿……」
呆れたという口調でシンが言う。
「あっという間に駆け出されてしまわれたので、見つけるのが困難でございました」
「あぁ、ごめん。ついつい熱中していたら、前に出ていたっす」
「王子もごめん、じゃないですよ。これだから王子は目を離せないのです」
シンがため息混じりで言った。
戦闘はカロライナの圧勝で終わった。
しかし、まだ文書で終結したわけでもなく、ハイルストン側にはまだ国境に兵士が配置されていることから、緊張状態が続くと思われた。
ともあれ、一戦終えたので、王宮に呼ばれることになった。
王宮内は多少バタついていたが、宴の準備などがされていた。
正直、もう宴なんてどうでもいいが、これも国のため、仕方がないので出欠する。
ハリスとシン、クリフ、フィーナも各軍の将として出席だ。
宴が始まる。
俺たちは汚れた軍服のまま出席することははばかられたので、それぞれ衣装を借りていた。
またしてもテラスで休憩していると、王女セレナがやって来た。
「この四日間の戦い、素晴らしかったと聞き及びました。さすがです、ケイタ殿」
俺は
「ありがとう、皆の力のおかげっす」
と答えた。
「そんな方の婚約者になれて光栄ですわ」
王女はその場でくるりと回った。
「そうですわ! 今日は一緒に踊りませんこと?」
授業でダンスの練習はあったが、本番で踊るのは初めてだ。
なんとかついていけるものの、何度王女の靴を踏んだかわからない。
王女は
「誰でも最初はなるものですよ」
と優しい声をかけてくれた。
時は遡る。
俺は多分に大将クラスとやりあった。
あの剣のこなし、相当な手練れだと思った。
俺の胴鎧の脇はスパッと切れ、脇腹に線が入るほどの怪我を負った。
あの者はなにものだろうか?
俺の脳裏にしっかり焼き付いた。
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