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『旋律のバトンタッチ』

『旋律のバトンタッチ』 No.033

俺は暗黒の世界から徐々に目覚め始めた
だが全ての感覚がおかしい
飲んだのは確かに不老不死の薬だったはず…

王は俺の音楽の才能に惚れ込んでいた
永遠に王のそばで歌や楽器を奏でるため、与えられた妙薬
あの酒宴の時に飲んだのは毒薬だったのか…
まさか、王妃が注いでくれたあの時のワイン…
俺は知らず知らずのうちに嫉妬を生んでいた
まんまと騙されて殺されるとは…
芸術の神アポロンに加護を受けた俺の才能も潰えてしまったのか
誰かが弾いた曲を譜面にする耳コピ
笛で動物をおとなしくさせたり、聴衆を引き付ける力
踊りながら絵も描くことも出来た
しかし、全てを失ってはいない気がする
それに殺されたなら、今の俺は誰だ…
視界も不明瞭でぼやけたまま
最も重要な聴覚も聞き取りがままならない
不自由だが仕方ない
全ては俺の慢心が招いた結果か…

5ヶ月後

目の前には老若男女、数名の聴衆が集まっている
このカラダで意識を保っていられるのも後わずかか
俺が得た才能だけでも、引き継いでくれ…

一度聞いた歌をつたない言葉で口ずさむ
クマやウサギのぬいぐるみに向かってオモチャの笛を吹く
親戚一同の前で手をたたき、歓喜する両親
リビングの真ん中には赤いロンパースを華麗に着こなし、踊り狂っている赤ん坊がいる…


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