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ポケモンカード転売屋は社会の役に立つ?

あなたは、もしかしたら以下の職業(そもそも「職業」として認めるかも含めて)に嫌悪感を抱いてはいないだろうか。

  • 転売屋

  • 麻薬密売人

  • ホスト、あるいは売春婦

そんなあなたはおそらく「道徳的」な市民だと自覚しているだろうし、上記のような職種の人を「不道徳な人」と考えているだろう。

そんなあなたにこそ読んでほしい本、「不道徳な経済学」を紹介したい。

「不道徳な人はヒーローだ」

著者のウォルターブラック氏の主張はリバタリアニズム(自由原理主義)と呼ばれるものである。この哲学の基本は「誰の権利も侵害していない者に対する権利の侵害は正当化できない」というものである。

これだけ聞くとそんなに突拍子もないことを言っているようにも見えないが、ここからがすごい。

リバタリアニズムの原則に従うと「徴税」は悪である。なぜなら、徴税とは国家が強制的に徴収していくものであるからである。税金の支払いを拒否している人は、誰かの権利を暴力的に支配しているわけではない。そのため、税金を支払わない人に対する権利の侵害(強制的に税金を支払わせたり、強制的に差し押さえすることなど)は認められない、というのがリバタリアニズムの主張である。

その主張の極致として、本書では「麻薬密売人が悪いのではなく、麻薬を取り締まるような法律が悪いのだ」という論理展開がされる。つまり、

  • 麻薬を使って中毒になるのは誰の権利も侵害しているわけではない

  • 麻薬中毒者が犯罪に走るのは、麻薬取締法があるために非合法で麻薬を購入する必要があり、結果的に価格が高騰するためである

  • 麻薬密売人は、そんな中でも市場経済を回し、価格暴騰を防ぎ、悲劇の拡大をとどめている

  • 麻薬密売人はヒーローだ

ということである。

この主張はさらに発展され、「原初の暴力を伴わないすべての行為は悪ではない」というものになる。ここで、「原初の暴力」とは、「人をいきなり殴りつけること」と形容される。例えば道端を歩いていていきなり蹴られたり、持ち物をひったくられたりするのは原初の暴力であり、悪である。そうでない全てのものは肯定されるべきである、という主張となる。

本書は徹頭徹尾リバタリアニズムの主張を軸に、冒頭にあげたようないわゆる「不道徳な人」を擁護する。彼らはむしろヒーローである。なぜなら、原初の暴力をふるっているわけではなく、社会経済を回しているだけなのに、社会的に蔑まれているからである。

社会とは裏も表もあり、需要があるところに供給が存在する。いわゆる不道徳な人はなぜ存在するのか、少しでも深く考えたい方には本書をお勧めする。

余談

本書は作家の橘玲氏による訳だが、いわゆる超訳に近いものになっている。(これは橘玲氏自身が認めている)
本書の中で出てくる人物や例えなどは日本人がなじみやすい地名などに置き換えられたり、中には原文には書いてないような記載もなされている。原文の論理展開は変えてないと橘玲氏は言うが、超訳が嫌いな人は気を付けていただきたい。
ただし、橘玲氏の各章における多くの補足や、特に本文の前に「序説」としてのっている、原理主義に関する橘玲氏による解説は一見の価値がある。気になる人はぜひ本書を読んでいただきたい。

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