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天徳泉 阿佐ヶ谷のハワイ銭湯

「東京で一番の推し銭湯はどこか?」と聞かれたら、俺は『阿佐ヶ谷の天徳泉』と答えるだろう。

気づけば銭湯めぐりをかれこれ3年ほど続けている。
時期によってバラツキはあるのだが、これまで東京都内の銭湯を中心に週に1〜2軒ほどのペースで新しい銭湯を開拓してきた。気づけば訪問軒数が200軒と都内銭湯(400軒ほど)の半数にまで迫っている。

天徳泉は阿佐ヶ谷の北口の飲み屋街を抜けて、閑静な住宅街に入ったエリアにある銭湯だ。

阿佐ヶ谷駅 北口の飲み屋ストリート
天徳泉の入口

初めて訪れたのは、2022年10月のこと。
外観の印象は昔ながらの銭湯で、ぱっと見は設備も古い。正直あまり期待せずに入った。

が、中に入って度肝を抜かれた。

浴場の中に入ると、そこはハワイだった。

脱衣所から浴場のドアを開けると、まずハワイアンミュージックが爆音で流れている。自分の耳を疑った。そして、目の前にはデカいビーチベッドがボンと置かれている。耳の次は目がおかしくなったのかと思って少なからず戸惑った。混乱を鎮めるために浴槽に身体を沈める。

湯に浸かりながら脱衣所へ目を向けるとハワイのビーチの写真が壁一面にプリントされている。阿佐ヶ谷からハワイに突然ワープしたような不思議な気分になった。

昔ながらの日本の銭湯と舐めてかかったら、いきなりハワイの洗礼を浴びる予想外の展開に翻弄されることとなった。ただ、しばらくして、だんだんと周りを見る余裕が出てきた。

壁面の絵は、ハワイだけではなかった。浴槽サイドの壁はタイル画になっていて、山桜が咲き誇るかなり日本的なモチーフだ。横の壁には、湖畔にヨーロッパ的な城を映したタイル画と、ツールドフランスの写真のプリントが貼られており、こちらはかなり西洋に寄せたモチーフである。

東洋、西洋、南洋(ハワイ)…と洋の東西南北を問わず色々な材料を持ってきた今まで見たことのない世界がそこに広がっている。多様でもあり、チグハグでもあり、カオスでもある。何と表現すれば良いか分からなかったが、浴場の中にエネルギーが満ち溢れているような気がした。

熱めのお湯にしばらく浸かり、水風呂で身体をキンキンに冷やす。最後にビーチベッドに寝そべる。ハワイアンミュージックが響き渡る空間の中で、定式化された通りに温冷交互浴を何度か繰り返していく。そうすると、不思議なことに少しずつ脳がトランス状態になっていく。酒を飲んで酔っ払うよりも明確に何かがキマる感覚があった。俺は天徳泉で「"ととのう"とは一体どういうことなのか?」をはじめて知ったのである。


余談だが、天徳泉について以下の紹介記事でハワイアンミュージックを取り入れた理由について触れられている。

さらに2022年7月頃からはハワイを意識した装飾を取り入れた。
きっかけは、有線のBGMを色々と試行錯誤しているうちにハワイアンのペダルスチールギターの音色が銭湯独特の残響や水音にマッチすることに気づいたからだとか。
浴室内に用意されたリクライニングチェアに寝そべり心地よいハワイアンミュージックに包まれれば、浮世離れしたリゾート感を体験できる。

引用:すぎなみ銭湯(杉並浴場組合公式サイト)

初めて天徳泉を訪れた日の「ととのう」感覚は、銭湯側の創意工夫によって初めて実現したものであることを知った。
中央線沿線には、高円寺の小杉湯や東中野の松本湯などスター銭湯が沢山あるのだが、個人的には天徳泉はそこに全然引けを取らないと思っている。流行している他の銭湯のやり方を安易に真似をする、というやり方ではなく、手作りで唯一無二の銭湯空間を作り上げようとする努力が、天徳泉の魅力を支えているんだろうな、と改めて感じた。

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